晴明、異世界に転生する!

るう

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第六章 守り神

6-2 長老

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 予想に反して、長老はセインを邪険に扱うことはなかった。
 含むところはあるだろうけれど、周囲の人々同様、あからさまな悪意のこもった視線を向けることもない。飽くまで領主の子息であり、貴族に対する礼儀に則って接してくれている。
 次期公爵といわれるデオルが治める都市ということもあり、その権威をないがしろにするような愚か者はいないということだろう。
 こんな人たちに、果たして双子はどんなやらかしをしたのか。聞くのも怖いし、むしろ、こっちが恥ずかしいというレベルである。

「……お二方も浅慮ではございましたが、むしろ我が愚息のいらぬ挑発が招きし惨事にございます。そのことにおきましてはどのような罰も甘んじて受けましょう」

 だが、意外にも謝罪してきたのは相手の方だった。
 頭を下げる長老の横には、中年を少し過ぎたくらいの男が、同じように頭を下げていた。彼が、その愚息ということだろう。
 そしてもう一人、長老の身の回りの世話をしているらしき青年は、若すぎるセインの容姿と、その灰色の髪が気になって仕方がないようである。来客のお茶をお盆に乗せたままで、先ほどからこちらばかり見ている。
 セインの後ろに立っていたサキに睨まれて、慌てて客の前にお茶を置いた。
 それはともかく、どうやら双子がはしゃいだ原因の一つに、あの愚息とやらが一枚かんでいるらしい。とは言っても、そもそもの原因はおそらく双子にあることは想像に難くない。

『大方、うつけ二人の態度の悪さに腹を立て、仕事の遅れを当て擦りでもしたのじゃろうて』

 双子が暴走した原因はそんなところかもしれないが、少なくとも彼らがただの穢れ払いで手間取ることの方がおかしいのだ。
 これが、ただの穢れ払いの依頼だったなら。

「当初は、通常の穢れ払いをギルドに依頼したんでしたよね」

 もともとデオルがセインに頼んだ時、何度かギルドのハンターが出向き、ことごとく失敗したので、様子を見に行き、可能なら穢れ祓いもしてほしい、といったそれほど深刻な案件でない印象だった。

「はい、祭事を行ったのがまだ一年前でしたので、通常の札を使った簡易の穢れ払いを依頼しました」
「それがうまくいかなかった、と?」
「いえ、順調に終わったと、報告を受けました」

 セインは首を傾げたが、長老はそのまま続けた。

「けれど数日と置かず、すぐに穢れが復活したのです」
「……魔物でも現れましたか?」

 魔物が小動物や人を殺生をしたり、または魔物退治の後始末を怠ったりすれば、それはすぐに穢れとなる。それを自らに引き受けるのが守護樹であり、穢れはやがて蓄積する。とはいえ、自浄作用もあるのでそう容易く状態が悪くなることはない。
 大討伐といわれるほどの血が流れれば、さすがに守護樹も病に侵されるけれど。
 だが、とセインは自分の問いに、自ら首を振る。

「それほどの討伐があったとは聞いていないし、この集落に病が蔓延したという噂も聞かない、な」
「……その後、もう一度ギルドに穢れ払いの依頼を出しました」

 セインが自答自問している横で、長老は再び口を開く。顔を上げたセインは、促すように何も言わずに頷いた。

「今度は完全には祓えず、依頼は失敗。ハンターは不満そうだったが、ギルドにはそう報告させていただいた」
「完了できなかったのだから、当然だね」

 セインの同意に力を貰ったように、長老は杖を握る骨ばった手に力を入れた。

「それから二度、ギルドに依頼しても穢れは祓えず、守護樹はだんだんと葉を落としていった。それで、仕方なく都主のデオル様に相談に行ったのだ」

 ――なるほど、それでデオル兄上が動いたわけか。

「……先日、デオル様がこちらにお見えになった際に、これを置いて行かれました。この後に来る、術者に渡してくれと」

 双子が好き勝手に暴れていた頃、デオルは彼なりに度重なるハンターの失敗の調査を行っていた。その調査によって得られた情報で、おおよその原因は突き止めていたのだ。
 だからこそ、デオルは双子ならこの穢れ祓いを問題なく済ませることができ、その後、この問題解決のために動こうとしていた。
 そんなデオルの期待を、容赦なく叩き潰し、それどころかとんでもない問題を起こしたのが、今回の概要である。

「……これは」

 受け取ったそれを見て、セインはすぐにデオルが突き止めた原因を悟った。

「なるほど、丸投げじゃなかったんだ。兄上がこちらに来なかったのは、これを処理するためだったんだな」

 札を覗き込んだツクが「うっ」と呻いて、鼻をつまんだ。

『これはまた、なんとも醜悪な札じゃ。使用済み……それも一度や二度ではない。穢れがこびりついておる』

 例の失敗したハンターが使っていた札は、正規の札でないばかりか、すべて使用されもので、浄火供養されず、そのまま再利用されたものだった。
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