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第一章 スティアと日記帳

五話

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『おーい!スティア!!』

カイル様が私に向かって走ってくる。

目の前を立派な馬車が通過したと思ったらカイルさまでしたのね。
考え事をしていて全く気づいませんでしたわ。

「カイル様、ごきげんよう。本日は、私のお買い物に御同行下さり誠にありがとうございます。」

驚いた顔をしているカイル様をよそに淑女の礼をする。

「ああ、おはよう。それより!何でこんなところにいるんだ?昨日迎えに行くと言っただろう!…いくら屋敷の前だってひとりでこんな所にいたら危ないだろう!」

まさか、ミラとお義母さまに気づかれないように何て言えるわけないわ!

「ご心配をおかけして申し訳ございません…
お恥ずかしながら…楽しみに過ぎて気が急いてしまったようですわ…」

「はぁ…分かったよ。もう良い。ただ、これだけは覚えておいてくれ。スティアに何あれば俺がレオンに殺される。
それだけじゃないぞ。俺もスティアに何かあったら悲しい。
だから、出来るだけ気を付けてくれ。」

「分かりましたわ。」

「うん。良い子だ。…さあ!こちらへどうぞお姫様。」

まあ!お姫様なんて!カイル様もキザな方ね。
カイル様の手って凄く暖かくて大きいのね。

カイル様にエスコートしてもらい馬車へと乗り込む。



「さあ、着いたよ、スティア。」

「あら、もう着きましたの?カイル様のお話がとても楽しかったので早く感じましたわ。」

「そうかい?それはよかったよ。帰りの馬車ではスティアの話も聞かせてね。…ほら、このお店だよ。」

馬車から降りて小道を少し進んだ所に赤煉瓦造りの立派なお店があった。

「わあ…凄く立派なお店…」

ショーウィンドウにはキラキラとした宝石や鉱石が置かれているし…ちょっと入りづらくなってきたわ…
本当カイル様がいてくださって良かったわ。

「さあ、行こうか。」

「はい。カイル様。」

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『アイツが…!俺から…!』

この時の私は全く気づいていなかった。
角の向こうから私たちを睨みつける憎悪の籠もった視線に。
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「いらっしゃいませ、カイル様。おや…お連れの方とご一緒とは珍しいですね。」

優しそうな顔した壮年の店主が出迎えて下さる。

「ああ、友人の妹でな。今日はちょっとゼネラルストーンを見にきたんだが。」

「そうですか。いらっしゃいませ御嬢様。それでは、奥の部屋に御案内致します。」

わあ、綺麗な髪飾りね…
銀細工のバレットには小ぶりな鈴蘭の細工と真珠が飾られていた。

「…スティア?どうした?」

「いえ、なんでもありませんわ。」

いけない…カイル様をお待たせしてしまったわ。
鈴蘭の髪飾りはとても素敵だったけど、私には勿体ないわ。


「お待たせ致しました。こちらが、ゼネラルストーンでございます。」

素敵…まるで黒曜石のようね。

「既にお見知り置きとは思いますが、一応ご説明を。ゼネラルストーンは、世界でも珍しい物事を記録できる鉱石です。一つの鉱石で大きさにもよりますが、最大で約2週間の記録を行えます。」

「素晴らしいわ!鉱石は加工できるかしら?この本に記載されてある様に防犯用として使いたいのだけれど…」

「はい、それでしたらブローチに加工されるのがよろしかと。」

そこから、使い方やブローチへの加工についてなど話し合って購入を進めた。
ブローチはミラの嫌いな猫のデザインにしてもらい後日受け取りとなった。

「カイル様、ありがとうございました。
カイル様のおかげでとても良い買い物ができましたわ。」

カイル様が交渉してくださったおかげでお安く買えてお小遣いで購入できたわ。

「そうか。それは良かった。それと…ほら。これ。」

「…え!?これは…」

私がみていた鈴蘭の髪飾りだわ。

「スティアに似合うと思ってな。つけてやるから貸してみろ。…うん。思った通りだ。よく似合うな。」

「でも…こんな素敵なもの…私には…」

「良いだろ!俺が勝手にやったんだ。受け取ってもらえなきゃ困る。」

「ありがとうございます。」

「ああ。」
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『…アイツに髪飾りをプレゼントしただと…!?ありえない!もう限界だぁ!』
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「おおい!!お前が兄さんを誑かしてる女か!?兄さんから離れろ!!」

「アル!?」

「わっ!!」

カフェに向かおうと歩き始めると突然男の子が飛び出してきて突き飛ばされる。

転ぶ…!

「おっと…おい!アル!お前急になんなんだ!危ないだろう!」

カイル様に抱きとめられて危機一髪転倒の危機を乗り越えた私はアルと呼ばれた目の前の少年を見る。

「だって!その女が悪いんだ!俺から兄さんをとるから!兄さんも兄さんだ!そんなチビのどこが良いだよ!悪趣味!!」

「おい!この馬鹿!!失礼ないこと言うな!」

「いった…!んだよ殴ることねぇだろ!」

結構、音したけど大丈夫かしら…

「アル!お前は勘違いをしている!今から説明してやるから一緒にこい!スティア悪いな。このバカも一緒で良いか?」

「ええ。構いませんわ。」


「じゃあ、何だよ。コイツは兄さんの友達の妹で、兄さんはコイツの買い物に付き合ってやってただけってことか?」

「ああ。そう言ってんだろ。」

カフェに移動した私たちは、カイル様の弟であるアルベルト様に事情を説明していた。

「んだよ。なら初めから言ってくれよ!」

「お前が話を聞かなかったんだよ!」

まあ、お話には聞いていたけど本当に仲良しなのね!
目の前でテンポの良い掛け合いをしているお2人が微笑ましくてつい笑ってしまう。

「おい!何笑ってんだよ!!」

「…!ごめんなさい…」

アルベルト様に怒鳴られてびっくりしてしまう。

「スティア!大丈夫か?急に怒鳴られて怖かったな。よしよし。」

ホロホロと涙が溢れ出して止まらない。

早く止めないと…!カイル様もアルベルト様も困っていますわ…
どうして止まらないのかしら…

「…ごめんなさい…違うの…驚いてしまって…」

「おい…お前…その…大丈夫か…?」

オロオロしながらアルベルト様がハンカチを渡して下さる。

「はい…お恥ずかしいところを…すみません…」

「その…俺…そう言うつもりじゃなくて…その…だから…ごめん!!」

「俺からもごめんな、スティア。アルは男兄弟で女の子の扱いが下手くそでな。悪気はないんだ。」

カイル様とアルベルト様は並ぶとよく似ているなぁ…
眉毛を下げている表情はさながら捨てられた子犬のようで可愛い…

「私こそ急にすみません…本当に驚いただけなのでどうかお気になさらずに。」

「じゃあ!仲直りしたところで美味しいケーキ食べようぜ!な!」

その後、アルベルト様も含めて3人で楽しく話した。

楽しい時間はあっという間なのですね…
もう、屋敷の前ですわ…

「カイル様、アルベルト様。本日はありがとうございました。とても、楽しかったですわ!」

「アルベルト様なんてやめろよ。お前なら特別にアルって呼んでも良い…」

「ええ!アルどうした!?女の子苦手だろ!?」

「うるせぇ!スティアは話してて楽しいし、他の女とは違うから…その…」

「へぇ…そうなんだ~…じゃあ!俺のことはカイ兄って呼んで!」

嬉しい!日記帳にはなかった流れだわ!
アルとカイお兄さまとお話ししてて楽しかったのは私だけではなかったのね!

「ありがとうございます!アル、カイお兄さま!」

こんな幸せな日はないわ!
久しぶりにたくさん笑うことができて良い気分転換になったわ。

「じゃあ、そろそろ帰るな。ブローチは出来上がったらレオンに会う予定あるし、レオンに渡しておく。事情は言わないから安心しろ。」

そう言い残すと2人を乗せた馬車は侯爵へ帰っていった。
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最後までお読みいただきありがとうございます!
昨日は、私用で投稿することができず申し訳ございません。

次回は、ついにレオンと父親がお屋敷に帰ってきます!

色々あり、マンドラゴラ暇になったので今日中に六話を投稿します。


これからも、是非、《一難去ってまた一難!?元悪役令嬢の受難の日々はまた難易度を上げる》をお願い致します!
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