私たちにとっての愛

ゆん

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第一章

ある少女のプロローグ

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——理解されないもの。

それぞれ人間には違う役割を課せられる。特徴がある。違ったものを持たされる。それを一般的には「個性」と呼ぶ。
しかし、個性という言葉では収まりきらないものもある。
そして人間はそれを「異様性」だと決めつける。世界からはみ出したもの。異端者。
私はその、異端者に分類される人間だ、と思う。





「今日も楽しかったです」
「チカちゃんがそう思ってくれて僕もうれしいよ」
「いえいえ、吉瀬さんも楽しかったですか?」
「あたりまえじゃないか、わかれるのも名残惜しいくらいだ」
「うれしいっ」

吉瀬さんの手をそっと握る。私の手よりも一回り大きくてごつごつした手。少ししわがありくすんだ、年季のある手。
私と全く違ったその手が愛おしくて、恋人のような握り方に変えて何度か、にぎにぎとする。

「そういったことをされるから、帰したくなくなるんだよ」
「ごめんなさい、つい」

手を離して、彼と向き直り別れの言葉を告げる。
次の予定はまた連絡するから、と言った彼に了承の言葉を告げ、手を振りながら車から降りる。深夜2時。

家がばれるのを防ぐため、少し離れた場所に降ろしてもらう。今日は駅で降ろしてもらった。
そして、今夜は家に帰るつもりはない。実家は今日も誰もいない。両親共働きであり、家にいないことも多い職業。
一人であの大きな家に帰ることほど、寂しいことはない。仲が悪いわけでもないし、両親のことは大好きだ。
むしろ自由にしてもらってありがたいと思う。少しさみしいけれど。

遠ざかっていく車の音を耳にしながら、携帯を取り出す。
駅近くに住む、知り合いのお兄さんに連絡をとる。

『今から、そっち行くから』

連絡は帰ってきてないが、お兄さんの家の方向へと歩き出す。
駅でも終電を過ぎたこの時間帯に人はおらず、そこまで都会でもないこの場所では明かりも少ない。
少し肌寒いと思う気温としんとした空気にまた、寂しさを覚えてバックからイヤホンを取り出し音楽を流す。
特に、こだわりのアーティストはいないため、最近はやりの曲を適当に再生する。
丁度、その時に。

『わかった、はやくおいで』

お兄さんはやはり起きていたようで、数分で返信がくる。その返信には既読を付けるだけで何も返さない。
そして後数分もすれば着くお兄さんの元へと足を進めていく。



駅近くのシャッター街とは逆方向、アパートやマンションなどの賃貸ばかりのなかでも少し古くて、学生向けの二階建てアパート。
駅から徒歩6分ほどでつくそこが、お兄さんの住んでいる場所。
階段を上がって一番奥の、突き当たりまで進む。古びたインターホンは機能することなく。
メッセージアプリで、ついた、ということを連絡する。
すると、数秒後に扉の向こうから人の動く気配がして、ガチャンという音が鳴る。
ドアノブをひねり、扉を開ける。
すると目の前には、お兄さんが立っていた。

「いらっしゃい」

いつものように柔らかい声で迎え入れてくれる。何度も来たことあるこの場所に安心感すら覚える。

「おじゃまします」

スニーカーや革靴などが乱雑に置かれる玄関床。あくまでも礼儀正しく、端にちょこんと自分の靴を並べる。
その玄関口も、少し進んだ先の廊下にあるキッチンもある程度乱雑としていて、いかにも男子大学生というような、でもお兄さんの優しさ、丁寧さも感じられる。
1Kの間取り、部屋の中に進むとテレビやベット、デスクの上には何か作業をしていたのか、パソコンや教科書、ノートが開いたままで。

「夜遅くにごめんなさい、勉強してた?」
「いいや、ちょうど一息つこうかと思っていたところだ」

彼は現在大学4年生で、卒業論文の研究をしているという。その作業でもしていたのだろうか?
大学のことは、高校生の私にはよくわからない。しかし、こんな夜遅くまで勉強しているお兄さんは真面目で優秀なのではないかと思う。

「お風呂入っちゃった?」
「いいやまだ」
「私も一緒に入っていい?」
「いいよ」

それだけ会話をして、泊まるつもりだったため持ち歩いていたお泊りセットをもってお兄さんについていく。
服だけはお兄さんのものを借りている。すこし大きくてお兄さんの匂いがする。愛おしい。
それから、一緒にお風呂に入って、髪を乾かしあいベットに入る。
そこから、お兄さんと抱き合ってキスをして。お風呂の中でも少し触られたけど、お兄さんの手が私の身体を這う。
私たちの間に会話はなく、ただベットの上で溶け合う。
身に着けていたものもすべて取り払われ、お互いにありの姿のままで。抱き合って、お兄さんの体温が気持ちよくて。
ただただ、お兄さんにされるがまま、私はその行為を受け入れる。
そのまま朝まで、愛される。



昨日あった二人はどちらも恋人ではない。でも、彼らは私を愛してくれる。その代わりに私も愛を返す。
父親よりも少し若いくらいの吉瀬さんも、大学生で5つほど上のお兄さんも私の愛おしい人であることに変わりはない。
私が愛しているのは、彼らだけではない。友人も家族も、セフレもパパもみんな。みんな私の大切な愛おしい人。

これが私の他の人とは違う個性。いやこれは個性ではない。もっと特別なもので、世間的にみたら異様なもの。
だけどわたしにとっては、それが生きる意味。
私はたくさんの人に愛されるために生まれてきた。
千愛と書いて「ちか」と読むが、千もの愛をうけて育つ。もっともっと愛がほしい。
私の愛の器は人よりももろくて。手の平に愛を受けても指の隙間から流れていってしまうように。
足りない。足りない。もっとたくさんの「愛」が欲しい。


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