ワンナイトラブの相手は彼氏の弟でした

羽月咲羅

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「こんな大事な日を、俺が知らないわけねえだろ?」

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 羽琉の部屋のベッドに下ろされると、いつもどおりに彼の手が滑ってくる。
 触れられるのは気持ちいいし好きだけど、羽琉にそうされるとなにも考えられなくなる。

「ま、待ってっ! 今日は私が――」

 いつも自分ばかりが気持ちよくさせられてる気がして、溺れさせられてるようで、それが少し悔しくて羽琉にも同じように感じてほしいと思った。
 だから自分から誘うように押し倒して襲おうとしたのに、これじゃいつもと同じだ。
 彼が与えてくれるように、羽琉を気持ちよくさせたいと思うのに。

「また今度でいいよ、それは。俺が紗奈をたくさん感じさせたい」
「いつもでしょ。たまには私だって」
「紗奈を抱いてるって思うだけで俺はすっげ気持ちいいんだけど、それじゃダメ?」
「………」
「それに今日は紗奈の誕生日だからね、いつもよりも気持ちよくしてあげる」

 そんなことを言われたら、なにも言えない。
 ギュッと抱き着いてキスをすると、羽琉も当たり前のように応えてくれる。

 そうして今日もまた、いつも以上に快楽の渦に飲み込まれた――…。




***


「……ん」

 遠くのほうで声が聞こえた気がして、紗奈はふっと目を開けた。
 羽琉と抱き合った後そのまま寝てしまって、体には心地いいだるさが残っていた。
 ただセックスする前と違うのは、ここが羽琉の部屋じゃないということ。
 ちゃんと服まで着せて、わざわざ部屋まで運んでくれたらしい。
 それもこれもきっと全部、琉生にバレないようにだ。

 別によかったのに。
 もっとずっと、羽琉の匂いと温もりに包まれた部屋にいたかったのに。

 その心情に自分が驚いて、慌てて振り払おうとした。
 でも、その気持ちは変えようがなくて、側に羽琉がいないことを寂しく思った。
 体だけのはずの羽琉が少しずつ心までも侵食している、という事実。
 そこに特別な感情が芽生える前にやめないといけないと、紗奈はそう思い始めていた。
 やめられるわけがない――自分自身、それが一番わかっているのに。


 紗奈はそっとベッドから抜け出して部屋を出ると、声が聞こえるほうへと足を進めた。
 それはリビングのほうからで、どうやら琉生が帰ってきているらしい。
 声をかけようとしてそうできなかったのは、羽琉と琉生を包む雰囲気が異様だったから。
 兄貴が嫌い――そう言いながらも、普段はそれを感じさせないような態度なのに。


「兄貴、なに考えてんの」

 冷たい口調。
 いつも向けてくるものとは違う声色で、それが更に動きを封じ込めた。

「兄貴がどこで誰となにしようが俺には関係ないしどうでもいい。けど、やるならやるでもっとうまくやれよ」
「……なんの話?」
「そうやってとぼけても無駄。紗奈さんも気付いてるよ、兄貴がしてること」
「………」
「ほんとなにしてんだよ。言ったよな、紗奈さんを傷つけるようなことすんなって」

 え? 琉生にそんなこと言ってたの?
 浮気してるかもしれないって、羽琉にそう泣きついたりしたから?

 思い返してみれば琉生の浮気のことを話した時、羽琉は言ったっけ。
 もう傷つけさせたりしない、こんな顔させないって。
 それはこういうこと?
 琉生にそのことを言って、また泣いたりしないようにしようとしてくれてた?
 体だけのくせして、どうしてそこまで優しくしてくれるの。

「前から思ってたけど、羽琉は紗奈のことが好きなの? それとも、俺の彼女だから気になるの?」
「……どういう、意味」
「そのまんま。だってお前、本当は俺のこと嫌いだろ?」
「………」
「俺への当てつけで紗奈に近づこうとしたんじゃないの? わざわざ同居なんてもっともらしい言い訳を使ってまで」

 羽琉に嫌われているということを琉生は知ってて、だから私に近づこうとしてることを疑ってもいた。
 それならなぜ、一緒に住むことを許したの?
 そういう関係にならないと信じていたのか、そうなることを望んでいたのか。
 琉生の考えが、見えない。
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