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120.ハイムフェムトで起きている事!!
しおりを挟む王の寝室から出てラミナ女王の書斎へと移動した。
「あの状態を見てもらったら分かると思うが……現状我が国ではもう何も出来る事が無いんだ。ただ効くか分からない事を試すだけ……」
ラミナ女王はテーブルに肘を突き溜め息を吐いた。
相当なプレッシャーなのか疲れているのが見て取れる。
「ではまずこれからどうするかをお話ししましょう。とりあえず宿泊に関してなのですが、王宮内の客室を……」
「あの、宿泊に関しては町で泊まった方がいいのではないですか?」
ルーロンさんが王宮内に……と言っていたがライル先生は町の宿泊場の方がいいのでは? と意見が割れた。
「ですが……我が国には宿屋と呼べる施設が無いのです」
「あぁ、そういう事ですか……ですが王宮の客室では目立ってしまうと……」
「そう……ですね」
ルーロンさんは少し考える仕草をしたがすぐに提案をしてくれた。
「……では私の家を使って下さい。今はほぼ王宮に居ますので家は自由に使って頂いて構いません」
「いいのですか?」
「はい。後ほどご案内差し上げますので、逆に私なんかの家で大変申し訳ない気持ちですが」
「いえ、ありがとうございます。町や外の状況を把握するには何度も出入りする事になってしまうので」
「では、皆様は私の親戚という形を取らせて頂きます。入城許可の手形を出しますので後程お渡し致しますね。それを使って頂ければ自由に王宮に来て頂けます」
「そうですね、ご自宅をお借りするのでそのような理由も必要ですね」
「そして……大変申し訳ないのですが現在今までよりも入国に関して大変厳しくなっております。宿泊の件や町を歩く事で周りの家の者達が問いかけて来る事が多いかと思います。その時はルーロンの親戚だと伝えて下さい。申し訳ありませんがそのようにお願い致します」
「分かりました」
ルーロンさんが頭を下げて、私達も頭を下げた。
そりゃ王宮の客室なんて目立つ所に居るよりは町に居る方がいいよね。ルーロンさんの親戚って言っちゃえば見ず知らずの人間だけどルーロンさんの家に来ていてもおかしくないし。
ん? あれ? そういえば……。
「……ねえ、レオ。シエルとセリカは?」
ふとレオの精霊達は来てるのか気になりコソッと聞いてみる。
「そういえばまだここには来てないね」
やっぱりそうだよね?
何となくだけど……精霊の気配が薄いというか……なんだろうこの感覚。雪のせいなのかな、ファイムフェムトに来てから不思議な感じがする気が……。
「どうかしたか?」
私とレオがコソコソと話をしているとラミナ女王が話しかけて来た。
「あ、ええと。発言よろしいですか?」
「良い良い。もうそういうのは要らん」
ラミナ女王は少しうんざりした様子で手をヒラヒラさせた。
「ええと……ですね。私達の契約精霊がまだ此方に来ていないのかな? という話をしていました」
「契約精霊……か。マルタンはまだ個別に契約できるのだったな」
「……え? どういう事ですか?」
「ファイムフェムトは……もう何十年も前から一部の人間だけにしか契約する事ができなくなっていて、魔力保持している人も少しずつ減ってきているんだ」
「──っっラミナ様!!」
焦った顔でラミナ女王を止めるルーロン。
コレは本当の意味での内密な事……国家機密ってやつなんじゃ……。
「もう良いではないか。この方達に上辺だけ取り繕っても仕方あるまい」
「ですが……」
「マルタン王国がファイムフェムトの現状を知って何かを仕掛けて来るような国だと思うか?」
「そのような事は!!」
「だろう? この方達は何かを得る為にファイムに来た訳では無い。ただ救う為に来てくれているのだと私はそう感じたのだ。だから偽る事なく話したい」
ラミナ女王の真剣な顔に暫くの間ルーロンさんも厳しい顔をしていたがそのうち肩の力を抜いて溜息を吐いた。
「ルーロン、すまないな」
「……いえ。もう色々と限界ではありましたから……」
「──ライル殿、レオ、リリィ、これから話すのはファイムフェムトの内部事情だ。他言無用で頼む」
「勿論です。でも……いいのですか? 私達になど話してしまって」
「大丈夫だと……私の契約精霊もそう言っている」
ラミナ女王には契約精霊がいるんだ。
……どんな子なんだろう?
「先程話した通り、現在のファイムフェムト王国は精霊との契約は一部の者のみしかできなくなっている。それは魔力を持つ人間が減少しているのが大きな原因だと思う」
──魔力を持つ人が減ってる?
「原因は分かっていない。昔は我が国もマルタン王国と同じように精霊達と共にあったのだがな。数十年前から少しずつ魔力を持たずに生まれてくる赤子が増えていったのと同時に精霊達の数が減っていった……という事だ」
「魔力を持たずに……」
「不思議だろう? 魔力が無いという事は魔法は一切使えないという事だ。そういう人間が増えていくと自分達の力だけで生きていかなくてはいけないという事になる。逆に魔力を持つ人間は重宝される事となり国で保護される」
──この世界は皆が生まれた時から魔力を持ってるのが当たり前で精霊なんてすごく身近な存在で聖獣とかも色々いるけど……。
前の世界……はそんなの物は無いのが当たり前だった。だから科学が進歩してたんだし。
そう思うと私もドップリこの世界に浸かってる。
「この事が他の国に知れ渡りでもしたらファイムフェムトを侵略しに来る奴らが出てくるだろう。その時に魔力を持つ者の少ないこの国はすぐに侵略されて終わりを迎える事になるだろうな……」
「成る程それで……」
「そうだ。そういう事でファイムフェムトは他国との交流を絶った。ありがたい事に四方を雪深く高い山々が囲っているから出来たことだ」
あれ? でもロウ達は精霊達は行き来してるって言ってたよね?
「閉じた国だが魔力を持つ一部の人間とエルフ達によってゲートの確保や少なからず防御壁である結界を張る事くらいは出来ているからな。一部の行商人の行き来も他国に渡った元ファイムの人間に限っていたから、対外的には魔力が使え無い人間がいるなんて気付かれる事は無かった」
──オベロンは何か知ってる?
知らないはずないよね……ロウ達は? そういえば師匠に呼ばれたのもハイムフェムトの件だって言ってた。
……師匠ももしかしたら何か知ってるのかな?
「私はこのまま国交を断絶したままでは国を継続していく事がもう限界だと思ったのだ。何処かの国と協定を結ぶべきだと声を上げたのだがな……現実は厳しかった」
フフ……と少し悲しそうにラミナ女王は笑った。
「……ラミナ様はファイムフェムト王国で現在一番の魔力量の保持者なのです。ラミナ様を支持するのは魔力を持たない若者が多く、そしてロイ王は反対派でした。国一番の魔力を持つ者が自ずから自国を守る事を放棄してどうするのだ……と」
親子で対立するなんてかなり大変な状況が続いていたという事だよね……。
「ロイ王の側近の方々や権力者、年配の方々は皆ロイ王に付きました。ラミナ様はそれでも何度も声を上げていましたが話し合いにもならなかったのです。……そんな時にロイ王に黒斑が出て寝たきりになってしまい……ラミナ様が王代理を務める事になったのです」
「フン、こんな時に代理に立てられてもな。ただのお飾りだ」
「でも……ラミナ様が代理に立たれたからこそリーファンさんがオルガさんの所に来れて、私達がゲートを使ってファイムフェムトに入れたって事ですよね?」
「リリィ……まぁ、確かにそういう事にはなるか。我らだけではもう手の施しようがない状態だったからな、悪魔にでも何でも縋りたい気分になっていた」
「──ラミナ様!!」
「ハハ、冗談だよ。私が王代理に立った日にリーファンがマルタンに同郷のエルフが居ると話してくれてな、もし何か分かる事があればと思って秘密裏に行かせたのだ」
「それでオルガさんの所に……」
「そういう事だ。オルガと言うエルフはリーファンが言うには出逢いのエルフとも呼ばれているらしいからな」
オルガさんが出逢いのエルフ……?? 私は初めて聞いたかも。
そう思っているとライル先生が補足で話してくれた。
「確かにオルガの店で出逢う人達はお互いにとって必然だという噂はありますね」
「リーファンがオルガの所で相談すれば何かは持って帰れるだろうと言うのでな……今やれる事は何でもやるべきだと思いリーファンをマルタンに向かわせたんだ。……そして本当に貴殿達が来てくれた」
「リオ経由っていうのが微妙ですけどね」
「リオ?」
「ああ、古い友人です。オルガの店で話を聞いて、私の所にその話を持って来た友人です」
オルガさんってスゴイ!!
人との出逢いって確かに必然な事多いと思うけどかなり重要なポイントでオルガさんの所に行くと……うわーなんかスゴイ!!
そう思うとオルガさんのお店の名前ランコントルだもんね。
「──我が国の状況は今話した通りでかなり厳しい状況だと言える。黒斑病もだが……国防の方も他国の監視の目が厳しくなってきているからな」
「下手に情報が漏洩したら一気に攻め込まれる事も頭に置いておかなくてはいけない状況なのです」
ラミナ様とルーロンさんは厳しい顔付きで話を続けた。
「え……このまま行くと戦争? って事ですか?」
「そういう事になる可能性が高いという事だな。こんな状況で攻め込まれたら、まあ無駄な足掻きはしない方がマシだな」
──!!
「そんな……そんな事にはなりませんし、させません!!」
「リリィ?」
「戦争なんてそんな事にはさせません!! そうなる前にもっと何か出来るはずです!!」
「──そうだな。だから貴殿達に来てもらったのだからな」
「そうですよ!! 大船に乗ったつもりでドーンと構えていて下さい!!」
「大船?」
「えーと、……大丈夫という事です!!」
「ハハ!! そうだな。リリィ頼んだぞ?」
「お任せ下さい!!」
今回に限ってはライル先生もレオも頷いていた。
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