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前世の私と学園のような箱庭
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王立学園に入学して、三ヶ月。
幸いなことに私は第二王子とも、例の男爵令嬢ともクラスが分かれた為か、とりあえず平穏に学校生活を送っていた。因みに、例の男爵令嬢は、何故か上位貴族のクラスにいる。一部の成績優秀者を除いて基本的には高位貴族と中低位貴族でクラスが分かれているのにも関わらずである。第二王子の幼なじみという手札は、何気に権力におもねる輩に強いらしい。その上、この半年で、第二王子のクラスは一部を除いて男爵令嬢の親衛隊になったそうで。
まぁ、その例外の一部というのは、主に親衛隊のメンバーの婚約者たちだが。
殆どが政略結婚という絆で結ばれた令嬢たちは、男爵令嬢の振る舞いに腹を立て嫌がらせをしては婚約者から断罪されて次々婚約破棄されていた。それにより高位貴族のクラスは、婚約破棄をしていない生徒の方が珍しい状態になっていたのだった。
余りに婚約破棄の数が多いので、婚約破棄される令嬢の恥にもなりようもなかったのが不幸中の幸いか。
それにしても、こぞって婚約破棄をしたところで男爵令嬢は一人しかいないのに、彼らはどうするつもりなのだろうか。前世の時も含めて、そこが一番謎よねと思う。前世の時は『聖女』だったから、高位貴族の嫡男たちを侍らせていても問題なかったのかもしれないけれど。そう考えると、取り巻きの多くが次男以下の男爵令嬢は、あの『聖女』よりも随分と小物よねと密かにやり手の『聖女』を頭の中に浮かべる。
そんなことを考えているのが解ると、前世の儚い『彼女』は胸を痛めるかもしれないけれど、今世の私はそこら辺が図太いというか自分で言うのも何だがデリカシー不足なのだった。でなければ、生まれてこの方毎夜泣き暮れる『彼女』に付き合っていられない。それにしても、前世は前世として、今世を楽しんだ方が建設的ではなかろうか。
そんなことを説明したところで、簡単に納得してくれる『彼女』でないのが残念で仕方がない。
因みに、低位貴族の令息令嬢、平民にとっては、一介の男爵令嬢が王子様に寵愛されている状況自体が希望の星になっているようで、「後、足りないのは悪役令嬢だけ」と市井で流行る恋愛小説になぞられて歓迎されているようだった。
立場がツライのは、うちのような中途半端な爵位の家で。高位貴族には格式と爵位が低位貴族と平民とは数で負ける私たちは、「どうぞ巻き込まれませんように」と祈りながら学生生活を送っていた。とはいえ、彼らに近寄らなければ平穏に生活が送れるわけで。次第に、男爵令嬢と高位貴族の令息を囲む低位貴族の令息令嬢と平民のグループとその婚約者たちのグループ、そして中位貴族の令息令嬢のグループに分かれてきたのだった。勿論、家のお付き合いとか利害関係とかで、完全に別になっているわけじゃなかったけれど。
そんな箱庭で平穏な生活を送る中、私はあることに気付く。
彼らどころか『聖女』の存在も煙のように消えていたことに。
それは、貴族名鑑では存在がいないものとなっていた義兄等が、学園での記録ではどうなっているのか気になって放課後に図書室の隅で調べていた時のこと。前世の『彼女』が、婚約破棄された年の卒業者名簿にも卒業写真にも彼らの名前も姿もない。まさか、『前世の彼女』は自分の妄想だったのだろうかと愕然としながら頁を捲っていると、彼らどころか聖女もいないことに気付く。私は未だ入学できる年ではなかったけれど、聖女は彼らと一緒に学園に在籍していた筈。
彼らがいないことは百歩譲っても、聖女がどこにもいないのはおかしい。
寛大でお優しい聖女、優美でお美しい聖女、毎日のように新聞のトップで取り上げられ、町中に姿絵が飾られ小説や演劇にモデルにもなっていたあの聖女を卒業名簿や写真からいなかったことにするだろうか。いいや、あり得ない。それどころか、素晴らしい聖女を排出した誉れある学園としてアピールすべきところではないだろうか。むむむと眉ねを寄せながら、聖女を褒めたたえる小説や脚本が図書室の本棚に並んでいないか探してみることにする。
と、言う訳で図書室の本棚の隅から隅まで探してみたけれど、義兄の妹が我がことのように自慢してきた聖女の恋や偉業に関しての新聞の記事どころか小説も脚本も出てこない。何が出ても大人気だと聞いたのに、十五年やそこらで焚書でもされたかのように消えるものだろうか。私の狭い世界の情報源が義兄や義兄の妹、そして屋敷の使用人と限られていてもである。
わけが解らない。
首を傾げながら、ふと思いついて今度は前世の彼女の『元婚約者』のことを調べることにする。顔も覚えていない『元婚約者』は卒業名簿や写真に残ってないとは言え、腐っても王族。どこかに存在の痕跡が残っていてもおかしくない。まずは廃嫡の理由。前世の義兄や義兄の妹曰く邪悪な悪女ではなく清く正しく美しい聖女を選んだ彼が、簡単に消されてしまうことは普通ないだろう。普通は。
図書室で王室史を遡ると、今代の国王の兄である先代の国王の息子は卒業パーティーが行われた時期に謎の病で倒れたと素っ気なく書かれていた。その後すぐに廃嫡されているので、謎の病が治らなかったのだろうか。王室史には、そこまで詳しく載ってはおらず、途方に暮れる。頭を抱えて悩んでいれば、待ってましたと目から鱗が落ちるように天啓が降りてきた。
もしかしたら、当時の王の側近とかの回顧録や日誌に何か手がかりが残っているかもしれない。
そう考えて、図書室の中を探してみたけれど、当時の書物に限って棚には並んでなかったのだった。
どうやら、何とかして国立図書館行かねばならないらしい。
幸いなことに私は第二王子とも、例の男爵令嬢ともクラスが分かれた為か、とりあえず平穏に学校生活を送っていた。因みに、例の男爵令嬢は、何故か上位貴族のクラスにいる。一部の成績優秀者を除いて基本的には高位貴族と中低位貴族でクラスが分かれているのにも関わらずである。第二王子の幼なじみという手札は、何気に権力におもねる輩に強いらしい。その上、この半年で、第二王子のクラスは一部を除いて男爵令嬢の親衛隊になったそうで。
まぁ、その例外の一部というのは、主に親衛隊のメンバーの婚約者たちだが。
殆どが政略結婚という絆で結ばれた令嬢たちは、男爵令嬢の振る舞いに腹を立て嫌がらせをしては婚約者から断罪されて次々婚約破棄されていた。それにより高位貴族のクラスは、婚約破棄をしていない生徒の方が珍しい状態になっていたのだった。
余りに婚約破棄の数が多いので、婚約破棄される令嬢の恥にもなりようもなかったのが不幸中の幸いか。
それにしても、こぞって婚約破棄をしたところで男爵令嬢は一人しかいないのに、彼らはどうするつもりなのだろうか。前世の時も含めて、そこが一番謎よねと思う。前世の時は『聖女』だったから、高位貴族の嫡男たちを侍らせていても問題なかったのかもしれないけれど。そう考えると、取り巻きの多くが次男以下の男爵令嬢は、あの『聖女』よりも随分と小物よねと密かにやり手の『聖女』を頭の中に浮かべる。
そんなことを考えているのが解ると、前世の儚い『彼女』は胸を痛めるかもしれないけれど、今世の私はそこら辺が図太いというか自分で言うのも何だがデリカシー不足なのだった。でなければ、生まれてこの方毎夜泣き暮れる『彼女』に付き合っていられない。それにしても、前世は前世として、今世を楽しんだ方が建設的ではなかろうか。
そんなことを説明したところで、簡単に納得してくれる『彼女』でないのが残念で仕方がない。
因みに、低位貴族の令息令嬢、平民にとっては、一介の男爵令嬢が王子様に寵愛されている状況自体が希望の星になっているようで、「後、足りないのは悪役令嬢だけ」と市井で流行る恋愛小説になぞられて歓迎されているようだった。
立場がツライのは、うちのような中途半端な爵位の家で。高位貴族には格式と爵位が低位貴族と平民とは数で負ける私たちは、「どうぞ巻き込まれませんように」と祈りながら学生生活を送っていた。とはいえ、彼らに近寄らなければ平穏に生活が送れるわけで。次第に、男爵令嬢と高位貴族の令息を囲む低位貴族の令息令嬢と平民のグループとその婚約者たちのグループ、そして中位貴族の令息令嬢のグループに分かれてきたのだった。勿論、家のお付き合いとか利害関係とかで、完全に別になっているわけじゃなかったけれど。
そんな箱庭で平穏な生活を送る中、私はあることに気付く。
彼らどころか『聖女』の存在も煙のように消えていたことに。
それは、貴族名鑑では存在がいないものとなっていた義兄等が、学園での記録ではどうなっているのか気になって放課後に図書室の隅で調べていた時のこと。前世の『彼女』が、婚約破棄された年の卒業者名簿にも卒業写真にも彼らの名前も姿もない。まさか、『前世の彼女』は自分の妄想だったのだろうかと愕然としながら頁を捲っていると、彼らどころか聖女もいないことに気付く。私は未だ入学できる年ではなかったけれど、聖女は彼らと一緒に学園に在籍していた筈。
彼らがいないことは百歩譲っても、聖女がどこにもいないのはおかしい。
寛大でお優しい聖女、優美でお美しい聖女、毎日のように新聞のトップで取り上げられ、町中に姿絵が飾られ小説や演劇にモデルにもなっていたあの聖女を卒業名簿や写真からいなかったことにするだろうか。いいや、あり得ない。それどころか、素晴らしい聖女を排出した誉れある学園としてアピールすべきところではないだろうか。むむむと眉ねを寄せながら、聖女を褒めたたえる小説や脚本が図書室の本棚に並んでいないか探してみることにする。
と、言う訳で図書室の本棚の隅から隅まで探してみたけれど、義兄の妹が我がことのように自慢してきた聖女の恋や偉業に関しての新聞の記事どころか小説も脚本も出てこない。何が出ても大人気だと聞いたのに、十五年やそこらで焚書でもされたかのように消えるものだろうか。私の狭い世界の情報源が義兄や義兄の妹、そして屋敷の使用人と限られていてもである。
わけが解らない。
首を傾げながら、ふと思いついて今度は前世の彼女の『元婚約者』のことを調べることにする。顔も覚えていない『元婚約者』は卒業名簿や写真に残ってないとは言え、腐っても王族。どこかに存在の痕跡が残っていてもおかしくない。まずは廃嫡の理由。前世の義兄や義兄の妹曰く邪悪な悪女ではなく清く正しく美しい聖女を選んだ彼が、簡単に消されてしまうことは普通ないだろう。普通は。
図書室で王室史を遡ると、今代の国王の兄である先代の国王の息子は卒業パーティーが行われた時期に謎の病で倒れたと素っ気なく書かれていた。その後すぐに廃嫡されているので、謎の病が治らなかったのだろうか。王室史には、そこまで詳しく載ってはおらず、途方に暮れる。頭を抱えて悩んでいれば、待ってましたと目から鱗が落ちるように天啓が降りてきた。
もしかしたら、当時の王の側近とかの回顧録や日誌に何か手がかりが残っているかもしれない。
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