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2章 恋の修羅場ラバンバ!
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しおりを挟む「晴樹さん、見てください。他のツアーの評価が出ましたよ」
直哉はパソコンを開いて晴樹に呼び掛けた。
晴樹はパソコンに集められた各ツアーでのデーターに目を通す。
「合戦ツアー、評価高いな」
「ええ。参加した生徒達も楽しんでたようですけど、先生達もイキイキしてたみたいですよ」
「水遊びでか?安いもんだな……」
晴樹は顎に手をやりながらパソコン画面を見つめる。
東軍西軍に分かれて水鉄砲で旗を打ち合う。
水遊びはいい年をしても無邪気にはしゃげるらしい。送られてきた合戦の動画からはまるで子供のような賑やかな笑い声が響いていた。
他の謎解きツアーも評判は上々のようだ。
参加した生徒の楽しむ様子を動画で確認すると、晴樹は一先ず安堵のため息を吐いていた。
これが上手く行けば村の観光活性化は成功する筈だ。
後は如何に飽きさせないようにするか──
それを追求し続けるのみ。
景気が上向けば赤字まみれのホテルも立て直しが出来る。
晴樹は手にしたもも缶を軽く上に投げてはキャッチする。
「明日はツアーに参加してみるかな」
「そうですね。実際にお客の目線で見た方が改善点も気付けると思いますから…」
「だよな。よし、じゃあ今日はもう終わり!ちょっと行ってくる」
同意を返す直哉に頷くと、もも缶を手にしたまま晴樹はそこから腰を上げた。
・
キャンプコースの生徒達も食事の後片付けを済ませ、校庭に張ったテントで自由な時間を過している。
辺りはだいぶ暗くなっていた──。
「苗……」
テントの外からこっそり声を掛けられて、苗は振り返った。
「なに?どしたの?」
入り口から顔を出せば悟の姿が見える。
悟はテントから出てくるように手招きしていた。
「なに?」
「あそこ行こうよ」
「あそこ?」
ピンとこないままの苗の手を握ると悟は歩き出していた。
「どこいくだかね?」
「ホタル池」
「ああ!あそこか」
行き先を知って苗は懐かしい表情を浮かべた。
梅雨前の丁度今が見頃だ。
帰郷が真夏になるために、都会に引っ越してからは苗も全く見ることが出来なくなった蛍の姿。
「まだホタルたくさん飛ぶ?」
「飛ぶ飛ぶ!あそこは蛍の名所でも紹介されてないから人も来ないし。静かだから毎年沢山飛んでる」
悟は苗の手を引きながらそう口にしていた。
公民館の裏手にある、清んだ湧き水の池に集まる無数の蛍。
小さい頃は二人でよく見に行ったものだ。
・
沢山のテントが並ぶ合間を二人は縫うように歩いていた。
灯りが点るテント内からは賑やかな声がしてくる。普段は経験することのないテント暮らし。
金持ちの御子息、御令嬢にとっては自分達で作った料理やテント張り。全てが新鮮で楽しい経験だ。
テントで過す夜を満喫しながら、生徒達は懐かしいボードゲームやトランプといった昔ながらの遊びを堪能していた──。
「やりい!いっち抜けたー!」
夏目は手持ちのトランプを捨てるとパタッと倒れた。ババ抜きで一番に上がった夏目は身体を起こして周りを見る。
「なあ、ところで克也はどこ行った?」
「夕食済んで直ぐ彼女に逢いに行ったよ」
「なにっ!?」
トランプをしながらモビルスーツオタクのやっちんは答えていた。
「あいつ抜け駆けかよ…」
夏目は親指の爪を噛んで克也を羨む。
抜け駆けも何も彼女である由美とただ一緒にいるだけだ。
だが、絶賛失恋中でフリーの夏目にしてみれば、恋人と上手く行ってるやつ皆が妬ましい存在だ。
「俺もっ…彼女に逢いに行こっと!」
急にすくっと立ち上がると夏目はそんな妄想を口にしてテントから出て行った。
・
懐中電灯を手にして夏目は苗の班のテントを探す。
丸い灯りがそこらかしこでユラユラと揺れていた。
学生の恋人同士の影があちこちで暗闇に消えていく。
その姿を白い目で見過ごしながら、夏目は電灯の灯りに一瞬照らされた苗を見つけた。
「あ…の野郎っ…」
前には苗の手を引く悟が見える。夏目は呟くと直ぐに後を追いかけていた。
「あれ……大ちゃんだ…」
何処から照らされているのか暗闇で懐中電灯の灯りが激しく揺れ動いている。
後ろを振り向いた苗は、自分を追ってきた夏目に気付き、足を止めていた。
辿り着いた夏目は肩で息をしながら苗の手を掴んだ。
「どこに行くんだ?」
悟に喰い掛かりたい気持ちを抑え、夏目は苗に訊ねる。
悟はそんな夏目を表情を変えずに見ていた。
「今からホタル見にいくだよ。大ちゃんもホタル見たい?」
「見たい!」
間髪入れずに即答する。
苗の手はしっかり握ったままだ。
悟は夏目のその手を見つめるとくるっと背を向けた。
「行くなら早く行こう」
夏目を無視して苗をそう急かすと悟は勝手に歩き出していた。
頷いた苗は悟に手を引かれながら夏目も引っ張っていく。
三人、縦に連なり手を繋いで歩きながらその列は次第に横に並んでいた。
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