79 / 255
19章 大切なひと(後編)
3
しおりを挟む「‥‥なえ…」
晴樹が苗からのメールを眺めているとセンター預かりのマークが片隅で点滅している。
電源が切れていた為にちゃんと届かなかったメールのマークが──
晴樹は慌てて通信を行なった…
受信―7件―
その内の2件が苗からのメールだった。
晴樹は苗からだけのメールを開く‥
1通目は写メ付きのメールだった…
[題]
〔 苗と仲良し兄さん〕
〔兄さんおはょ~
じゃじゃーん!
温泉旅行の時の写メだょん
兄さんに送るって言ってて忘れてたょ、ごみんね!〕
「‥写メ…」
添付欄にアクセスすると、そこに映し出されたのは‥
明け方朝日が射す部屋の中でぐっすり眠る自分の隣に添い寝をし、そして顔をぴったりと寄せてカメラ目線にVサインを決めた苗との二人の写真だった‥
「──…っ…」
‥コイツっ‥‥‥
いつの間にっ!?
晴樹はその写メを見つめていた──
胸が疼く
嬉しくて仕方がない。
信じられない──
晴樹は速る鼓動を抑えるように緩む自分の口元を手で覆い隠す‥
でも、それもほんの一瞬のことだった──
・
切ない想いで胸が張り裂ける──
息苦しさと胸の痛みに晴樹は一気に顔を歪めた。
画像の中のアイツはこんなにも近く、傍にいるのにっ‥
今はッ‥
アイツは俺の傍にはいないッ!!
もちろんさっきから携帯に連絡を入れても出ない
出れる状況じゃないのもわかってるッ‥
もしかしたら二度と出ないかもしれないッ‥
二度と‥
声さえもッ‥‥‥
でも、もしかしたら‥‥
晴樹は絶望を感じながらも一縷(いちる)の望みに想いを託す──
「よし、晴樹、行くぞ‥」
準備を終えた貴志と数人の組員達に促され、晴樹は重い腰を上げ車に乗り込んだ──
車は、最初の電話で取引き場所に指定されていた組員の支部に向かっていた。
そこにいなければ‥‥‥
もう苗は何処にもいない‥
役に立たなきゃゴミ同然‥‥‥
ヤツラは人の命なんてなんとも思っちゃいない‥
思ってたら‥極道なんてやってられないから‥‥‥
隣にいる貴志だってそうだ。
もし、上からの命令が下ればコイツだって俺を殺ることを拒まないだろう…
・
『極道がいちいち人に情けなんかかけてりゃ、自分の命が幾つあっても足んねぇって!! ハハ…』
こいつは笑いながらサラッと言って退ける──
ただ、コイツは根っからの極道一家に生まれたヤツ‥
家を出た親父サンから離れ結局、自らこの道に戻って来たくらい奇特なヤツだ‥
命なんて、とうの昔に捨てたって言い切るぐらい、いつでも覚悟が出来ている──
でも、アイツはッ‥
苗はッ‥
普通の高校生でッ
貧乏でッ
家族思いでっ‥
初めての彼氏ができたばっかりの‥‥‥普通の‥
俺のッ‥
俺の大好きな‥女の子ッ‥だったのにッ‥
俺が巻きこんだ!!
俺と知り合わなきゃッ‥
こんなことにはッ‥
そして‥
俺もお前と知り合わなかったら‥‥
こんな思いもっ‥
──…クソッ!
自分の気持ちのやり場に戸惑い強く噛み締めた唇からは少し血の味がしてくる‥
そして、晴樹は最後の苗からのメール二通目にカーソルを合わせた──
メールを開封した途端に晴樹の口から嗚咽が漏れる。
・
「‥フッ‥‥ッ‥」
クッ‥なえッ──!
逢いたいッ‥!!
逢って‥っ抱きしめて‥
俺だって傍に居たかった!!
でも、お前が夏目を選んだんだろッ‥
お前がッ‥俺よりも夏目をッ──
‥晴樹、
悪かったな‥俺のせいだ…
開いたままの携帯を握り締め、片手で顔半分を覆いながら肩を震わせ嗚咽する晴樹に貴志は心で詫びた──
こんな時に下手に言葉はかけない方がいい‥
貴志はそう思っていた‥
瞼を覆い隠した晴樹の手の下からは幾つもの涙の雫が伝い落ちる──
“兄さん‥
苗の傍にいて…
苗は兄さんいないとダメだょ…
後でまた、電話するから今度はちゃんと出てね。”
苗が今日の放課後に部活の夏目を待ちながら教室で晴樹宛に打った最後のメールだった──
苗ッ──…
電話はどうしたッ?‥
後でかけるんだろッ‥
今度はッ‥
今度はちゃんと出てやるからッ‥
頼むから‥‥‥
今度はちゃんと待ってるから‥っ‥‥
電源だってもう切らない──…
・
声が聞きたくて‥
いつも繋がっていたい‥
そう思って苗に渡した携帯だったのに‥
今はどんなに、こっちからかけても苗は携帯に出てはくれなかった──
「晴樹‥ついたぜ
ココがヤツラのシマだ‥
龍極会系 藤代組
(リュウゴク フジシロ)
幹部の青木の事務所だ。
──…無理すんなよ晴樹? 大丈夫かよお前…俺に任してくれりゃ‥」
「あぁ、大丈夫だ‥俺が一番に迎えに行ってやらなきゃ‥」
心配そうに貴志は顔を覗き込む。晴樹は目頭を強く押さえると無理矢理に涙を止め、貴志から預かり腹に仕込んだ銃を手にして車から降りた──
‥苗‥‥
迎えに来たから‥
お前が傍に居て欲しいなら‥
俺はいくらでも傍に居てやるッ!!
お前の居ない場所は俺には耐えられないから‥
お前の居る場所に俺が行くよ…
その方がずっと一緒に居られる──
「よし、行くぞ‥」
貴志の合図に他の組員達も鋭い目つきに変わり始める──
常に命掛け‥
そんな世界でしか生きていけない不器用な男達の‥
小さな戦争が始まろうとしていた──
0
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい
みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。
それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。
願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。
スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。
ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。
※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…
senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。
地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。
クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。
彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。
しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。
悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。
――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。
謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。
ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。
この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。
陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。
東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」
──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。
購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました
ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。
意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。
しかし返ってきたのは――
「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。
完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。
その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる