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19章 恋の片道切符
2
しおりを挟む白くてむちっとした太ももにどうしても視線が落ちてしまう。
晴樹の言った言葉を呟き微笑む苗。
その横顔は嫌でも晴樹の押し殺した感情を無邪気に煽り始める。
「な‥‥苗‥//」
「‥なに‥//‥」
「‥あ、いや‥//💧」
「‥//‥?」
呼びかけるだけで何故か緊張してしまう‥
‥くそ、💧
なんか会話がないと間が持たねえっ…
せっかく、いい感じになったというのに戸惑ってしまう晴樹。
そして苗は頬をほんのり染めている‥実に初々しい雰囲気の二人だった。
「ぶはっ」
「‥‥」
「ぶははっ」
「‥‥‥」
「ぶっ‥くくっ」
「‥‥‥‥💧」
‥わからん
どこが面白いんだ?💧
映画を観て度々吹き出す苗を眺め晴樹はそう思う💧
そしてスクリーンの明かりに照らされ時折浮かび上がる苗の横顔を見つめた‥
映画よりも笑いを堪える苗の顔の方が笑いを誘う💧
苗の笑いにつられ微かに緩んだ自分の口元を晴樹は頬杖ついた手で覆い隠す
‥渡米してしまえば、もうこの笑顔を見ることも…
できないんだな‥
―――!…っ
‥やば…
なんかきついな…
・
急に締め付けられる胸の痛みに晴樹は顔をしかめる。
‥なんで思うようにいかないんだよ‥
今更ながら、もどかしさが募る
離れたくない‥
誰にも苗を――‥
抗う心を必死で抑えた晴樹の瞳に苗が映る。
可愛く笑う笑顔は次第に歪み、ボヤケてくる‥
揺れる想いを振りきるように晴樹は視界を閉ざしスクリーンに顔を向け直した。
スクリーンの中で交わされる会話も聞き取れない‥
映画の内容になんてまったく集中できず胸の痛みで喉の奥が麻痺してくる‥
せっかくのデートだから‥
ずっと望んでた苗との二人きりのデートだから…
楽しい思い出にしないと‥
‥この感情に負けたらいけない──
胸の奥から込み上げてくる想いを晴樹は必死で押し殺していた
濡れた瞳に気づかれないように、晴樹は目を細め優しく微笑む‥
「苗‥」
「ん?なにっ?」
「この映画‥面白いな!」
「うん!」
「‥‥
よかったな…」
「‥‥うん?」
笑ってるはずの晴樹の顔が今にも泣き出しそうに見える。
‥‥‥あ、れ?
兄さん?‥‥‥
苗は、返事をしながらスクリーンを向いた晴樹を見つめていた‥
・
この数時間。何度となくそんな表情を浮かべる晴樹。苗はそんな晴樹が少し、心配になってきていた‥
「兄さん‥もう疲れた?」
「‥なんで?」
悲し気に微笑む表情がどうしても疲れを訴えてるように思えてしまい、苗は晴樹にそう尋ねる。
「ぅん‥無理矢理連れてきて貰ったから‥‥兄さん疲れちゃったかなって‥」
「───‥」
すっかり暗くなった街中を二人で歩きながら申し訳なさそうに話かける苗を晴樹は見つめ返した
疲れた顔なんかしてたのか俺は?‥
自分ではわからない‥
疲れたなんて意識はまったくなかった
ただ‥
もうこれが最後なんだと思う度に息苦しさを覚え胸が詰まる‥
そんな気持ちを抑える度に‥‥
───‥!っ
‥あぁ
‥そうか‥
抑えきれてなかったってことか‥‥‥
なんだ‥
「‥ふ‥」
晴樹は自問自答を繰り返すとふと、自分の未熟さに笑いが溢れた
気持ちを抑えきれないからこそポーカーフェイスでいられない‥
誤魔化しきれない思いは素直に表に出てしまう‥
そんな自分の未熟さを認めた途端、何かが振っ切れたように晴樹は笑みを浮かべた
・
「そうだな‥苗に付き合うのもちょっと飽きたしな‥」
「え!?」
晴樹はニヤリと悪戯な笑みを向ける
「散々、苗に合わせて付き合ってやったんだから次は俺に合わせろよ?」
「‥?‥
兄さん行きたいとこある?」
「ああ。
んじゃ‥あそこに行ってみるか?」
‥あそこ?‥
「───!っ‥えぇ!?
あそこって💧…」
晴樹の指差す方に目を向け、苗は驚きの声をあげた
お洒落な外観の建物に、少し妖しげなネオンの看板‥
出口からは若いカップルが仲睦まじく出てくる姿が目に写る💧
「あ‥そこはちょっとっ…」
‥まぁたハレンチが始まっただかね💧?
「どこ見てそんなに焦ってんだよ‥💧」
苗は何かを誤解している。そんな苗に晴樹は呆れながらもう一度指を差した
「手前の建物のもうちょい奥のビル。
あそこの屋上に展望台があるから‥行ってみるか?」
「展望台?」
「ああ。
なんだ?手前のエッチなホテルの方がよかったか?」
クスッと不敵な笑みを浮かべ、見つめる晴樹に苗は慌てて首を振っていた💧
・
意地悪を言いながらも笑う瞳はすごく優しい。
苗はふと晴樹のそんな表情にくぎづけになる‥
今までも何度となく晴樹はそんな瞳で苗を見つめてきた…
ただ、苗がそんな晴樹に気づかずにいただけ‥
晴樹のすごく優しくて、そしてどこか哀しそうな…
そんな晴樹の背中を苗は目にとめる
展望台のビルに向かって歩き出す晴樹‥
少し前を行く晴樹の腕に苗はふと手を伸ばした。
「───!?
苗‥どうした?」
そっと掴まれた腕に驚き晴樹は苗を振り返る。
「あ‥あ、💧
兄さん歩くの早いだよっ!!‥//」
「‥💧
そうだったか?」
ずっと同じペースだったはず‥ そう思いながら晴樹は歩く速度を少し緩める。
何気に赤い顔でうつ向く苗の様子をちらりと伺いながら展望台までの道のりをゆっくりとした動きで‥
晴樹はその少しの時間をじっくりと噛み締めた‥
掴まれた腕が少しずつ熱をもつ‥
‥このままがいいな‥
ずっとこのままだったら‥いい‥
ささやかな晴樹の願望。
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