ありのままのキミに夢中 ~イケメンはずんどうぽっちゃりに恋をする!~

中村 心響

文字の大きさ
236 / 255
☆*:.。. o番外編o .。.:*☆

2

しおりを挟む


「終わったらお茶煎れてやる」


「お茶……もしかしてここで立てちゃうかね」


「まさか。普通に煎れるよ」

苗はホッとしていた。

東郷家でお茶と言われると態々茶室に呼ばれて受けるはめになる。

今までがそうだった為、悟のお茶の誘いに苗は敏感に反応していた。


…だいたい、あーんなちっこい和菓子一個で何分お茶を待たなきゃなんないだかねっ…んとにもうっ…


口を尖らせて段ボールを縛る苗を悟は笑いながら見ていた。

「苗の好きな“餅まん”もあるから」

「うそ、餅まん!?」

苗の目がキラキラしていた。

苗の田舎の駅にしかないお土産。“餅まん”モナカの皮に豆大福を挟んだだけのシンプルな饅頭なのだが、苗の大好物でもある。


付き合いの長い悟はしっかりと苗のツボを押さえていた。

鼻唄を歌い出した苗は手際よく段ボールを纏めてとっとと片付けを済ませる。

「いただきっ!」

ウキウキしながらお茶が並ぶソファに座った苗の隣に、悟も腰を下ろした。

やたらに距離が近い。

だが苗はそんな事は気にも止めず嬉しそうに餅まんを頬張る。

悟は肘を長い脚に当てると頬杖をついて苗を見つめた──




「苗──…」

「ん?」

「粉付いてる──」

「──…っ」


振り向いた苗の口の端を濡れた舌が撫でていた…


驚きで苗の目が見開く。

悟は頬杖を付いたままニッコリと笑っていた。

「どうだった…」

「……──どっ、どうとはいったい…」

悟に舐められた口の端がヒヤリと冷たくなる。

なんだか違う。

今までの悟の雰囲気とはガラリと変わった声。

苗はおどおどしながら目を反らす。

「結城さんとの初夜…うまくいった?…」

「──…っ」

悟は頬杖付いていた顔で苗に向けて赤い舌を見せるとニヤリと笑った…



…も、餅まんの味がっ──


味がしないだょっ…



苗は餅まんを見つめ冷や汗を吹き出す。

大好きな餅まんの味さえもわからない。苗はそのくらい今の悟に怯えていた。


“浮気するなよ──” 


…し、しないよ兄さんっ!
苗っ、浮気なんかしてないだょっ!!…



ベットで抱き締めながら言った晴樹の言葉が苗の脳裏でエコーする。


一人で慌てる苗を楽しそうに眺めていると悟は光る苗の携帯電話に目をやった。

液晶画面に晴樹の名前が点滅している──

それを見ると悟は口端に小さく笑みを含んだ。




「でないの?」

「えっ……」

「……俺、出てやろうか」

悟はけしかける様に苗に言った。電話を手にした悟から苗は慌てて奪い返す。

苗はピッと受話ボタンを押した。

「もしもし、苗?」

「──な、なに兄さんどしたのっ…」

「……?…どしたのって…」

苗の返し方に晴樹は疑問を浮かべた。

「今、仕事終わって家に着いたんだよ。苗はなにやってんだ?」

「な、苗っ!?…苗はねっ…いまっ、あのっ…」

悟ちゃんとこだって言って怒られないだろうか!?

苗は咄嗟にそんな事を考えた。

それもそのはず──
ついこの間、初夜の日に逃げ出した際、悟のマンションに身を潜めた苗は“独り暮しの男の部屋に隠れるなんて何事だっ!”そう晴樹に怒鳴られている。

「なえ?…」

電話口でどもる苗に晴樹は眉を潜めていた。

「結城さんこんばんわ。今、そっちは夜中ですよね」

「──…!」

……悟!?

狼狽える苗の電話に口を寄せて悟はあっさりとそう切り出していた…

悟のとった行動に、苗は目を見開いたまま固まっていた。

悟は苗の握っている携帯に口を寄せたまま晴樹に話し掛ける。


携帯を持っている苗の手を上から握ると、言葉を掛けながら悟の手は苗の腰に回っていた…




「一緒にいるのか…」

低い声音が携帯から響いてくる。


「ええ、引っ越しの荷ほどきが終わったんで、後片付け手伝ってもらったんです。今、ちょうど一息ついたとこでした。な、苗!」


悟はそういって苗に電話を預けた。

「──っ!?」
…ええ!?このタイミングで返すの!?──




苗はまたもや焦った。


携帯を持つ手は解放されたが腰に回った手はまだそのままだ。

「苗──」

「な、な、なに兄さんっ」

「まだ、片付けは時間かかりそうか」

「…っ…んなことないよっ!もう終わってお茶菓子食べてるっ!」


「茶菓子?」

「うんっそうそうお茶菓子っ!…っ…ははっ…」


「──…」

……茶菓子…食うのになんでそんなに焦ってんだコイツ…



……──っ…なんかおかしいっ!


苗の携帯を握る手に嫌な汗が滲む。

晴樹の電話口から聞こえるトーンは会話を交わす度に低くなっていく。

悟はまた苗の携帯に口を寄せた。

苗の口元に寄せた受話口に悟の唇が接近する。

近すぎる悟の声の音量は携帯を耳にする晴樹にも違和感を感じさせていた。




「いま、田舎から届いた“餅まん”食べてるんですよ」

「餅まん?…」

「ええ、苗の大好物です。な、苗!」


「う、うんっそうなんだょっ……苗の大好物でさっ…──!っ、ぅあっ…」


…ぅあっ…?


堰切って話す苗の語尾の声に晴樹は引っ掛かる。


苗は思わず漏れた声を止めるように自分の口を手で塞いだ。

「これ、すごく美味しいんですよ…モチモチしてて…」

「──…!」

電話口からピチャリと濡れた音が晴樹の耳に届く。

口を塞いだ苗の頬っぺたに甘く噛みつきながら、悟は晴樹を静かに挑発していた。


「なえ…」

晴樹は悟を無視して苗に話し掛けた。

「手伝い済んだならっ…茶菓子なんか食わずにすぐ帰れっ!!──」

「はいっっ!」

苗はその言葉に返事を返して立ち上がると一目散に玄関に向かう。

悟は溜め息をつくとそんな苗に笑みを浮かべて頭を掻いた。


玄関に座り込み靴をもたもたと履く苗の肩を悟は叩く。

「苗、これ」

「──っ」

またっ──…


振り向いた苗はしゃかんだ悟にまともに唇を奪われていた。

「新商品だから皆で食べて」

唇を放して笑顔を向けると、悟は何事もなかったように苗に抹茶味と書かれた餅まんの包みを手渡していた。

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい

みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。 それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。 願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。 スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。 ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。 ※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。 地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。 クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。 彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。 しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。 悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。 ――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。 謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。 ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。 この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。 陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!

処理中です...