ありのままのキミに夢中 ~イケメンはずんどうぽっちゃりに恋をする!~

中村 心響

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1章 危険な幼馴染み

3

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ムードもへったくれもない。

そんなことは初めから期待もしていない。

ただ好きだ

そしてすごく可愛くて愛しい──

晴樹は相変わらずな苗に安心しながら抱き締めて首筋にキスをする。

「ちゃんと触ってろ」

「ええっ…そんなっ」

抱き締めながら愛撫を繰り返す晴樹の下半身から手を離しかけると、晴樹はその手を掴んでぐっとしっかり握らせた。

「なんでそんなに嫌がるんだよ?愛する旦那のだろ」

「そっ…そうだけどっ…」

否定はしない。愛してることは認めてる。晴樹を好きだとやっと自覚した苗はそのことに関してはやけに素直だ。


「なら久し振り帰ってきたんだからちゃんとしろよ…」

「ちゃ…ちゃんとって…っ…」

どうちゃんとすればいいのだろうか?

旦那が求めるならばそれに応えるのが妻の努めってことなのか。

“浮気か離婚……”

「……っ…」

苗は初夜の日に逃げ出した自分にそう突き付けた晴樹の鬼のような二択を思い出し、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「わーっ…ちょ…兄さっ…わかっ…わかったから…待って、ここ玄関っ…」

スカートの裾をめくりお尻からパンツの中にスルリと潜り込んだ晴樹の手の動きに苗は大声で慌てて返していた。



その途端にダンッ──!と強い音が鳴った。

叫んだ苗が背を預けていた向こうから壁を強く殴ったような音が響く──

晴樹はその音に顔を上げて動きを止めた。

「──……」


間違いなく悟の仕業だ。

晴樹は壁の向こうを睨み据え、苗の腕を掴む。

「ベッド行くぞ──」

「え…えっ!?…止めるんじゃないのっ!?」

「止めるわけないだろバカッ…今ので尚更燃えた…」

ええっ…

苗は声も出せず、寝室に引きずられていく──

その家で寝室のドアが強く閉められた音だけが悟の耳に豪快に響いていた。

「………っ」

悟は玄関の壁に蹴りを入れたまま口を歪めた。

「くそっ…」

何かを堪えたように低い声が漏れる。

「……横取りしたらされ返されるって教えてやるっ…」

壁を睨んだ悟の口から苦し気に掠れた声が吐かれ、悟は部屋に隠るとベッドに鞄を投げつけていた……


これからはやっと苗の傍に居られる──

離れて過ごした時間。

我慢して過ごした時間。


それは晴樹が耐えた時間とは比べ物にならない──


婚約したからなんだ?
もう今さらだ。

いくらでも時間掛けて取り戻してやる──

「…っ…苗…」

一人、部屋で佇むと悟は歯を食い縛り苗の名前を絞るように声に出していた。



「なっ…なっ…ちょ…っ…兄さ…っ…」

他に誰も居ない空間で、蒼くなりながらもツヤピかなフローリングをスケートリンクの如く滑っていく。靴下を履いているせいか踵のみでの動きはとても滑らかだ。

脇を片手で晴樹に抱えられ、後ろ向きのまま寝室に到着した苗はそのままベッドに仰向けに倒されていた。

晴樹は狼狽える苗に構わず馬乗りで覆い被さる。

「……っ…」


軋むベッド。柔らかな羽毛布団。

そこに沈むようにゆっくりと苗に近付いた晴樹の品のいい鼻先。そして長い睫毛。

苗は晴樹のその美形顔につい目を止めて釘付けになっていた。

焦りながらもくりくり目で見つめる苗の表情が何故かほんのりと赤くなっていく──

晴樹もそれに気付き思わず閉じかけていた瞳を見開いて動きを止めた。

「──……」

晴樹の喉元がゴクリと波打ちながらも瞳が熱を持ち始める。

思わぬ所で苗は不意打ちをかます。

いつもそうだ──

ついさっきまで悟に対しての苛立ちと腹いせの感情に捕らわれていた筈だったのに、今は下から見つめてくる苗の表情に晴樹の鼓動は急に早くなっていく。

いつも肝心な所で笑わせてくれる苗。
そんな苗があろうことか、このタイミングで思いきり恋する女の子の顔をして晴樹に向けてくる。
そんな苗に見つめられて晴樹がドキドキしない筈はなかった。



やっとの想いで気持ちが通じ合った──

その途端に渡米して離ればなれだ。婚約こそしては居れど、まだ恋人同士として過ごした日々は数えるくらいしかない。


「なえ……」

晴樹は急に切なさが込み上げて苗の名前を口にする。

たんに便利な面倒見のいい兄さんとしてではなく、はっきりと男として意識している表情。それを前にして晴樹は込み上げた想いを熱いため息に変えた。

胸が痺れ、名前を囁いた唇をゆっくりと苗に押し当てる。

少しずつ食んでいくキスを繰り返し、晴樹は苗の柔らかな唇を甘く噛んでいた。

晴樹は苗の頬に手を添える。

「…なえ…あんまり大人しいと調子狂う……」

「ん……」

言った言葉を理解したのかしていないのか、答えにならない返事が返ってくる。

苗は明らかに“その気”になり始めている。

潤んだ苗のくり目が晴樹の理性をなし崩す。

「──…っ…」

晴樹は胸にたまった強いため息を吐き出した。



NYに居る間、ずっと苗を恋い焦がれた。

欲しくて欲しくて堪らなかった苗が今はこの腕の中にいる──

何度見たか知れない苗の夢。色っぽい夢を願えど何故か眠りについて見る夢は、お歯黒を貼り付けてバカ笑いするいつもの苗だった。

そして、それに爆笑する自分の声で目覚め、切ないため息と共に虚しい朝を迎えたことはしょっちゅうだ。


晴樹は苗の感触を確かめるようにふっくらとした頬を撫でて唇を指でなぞる──

「なえ…逢いたかった……」

苗は見つめたまま頷く。


「これからはずっと一緒に居られる……」

切なく目を細めて想いを囁く晴樹。苗の瞳にはゆっくりと涙が浮かび上がった。

「……っ…うぅ…」

ふっくらとした唇が急にぷるぷる震え出す。感極まったのか苗の顔がグシャリと歪み鼻が広がる。

「兄ざんっ…」

「………」

涙を堪えた苗の顔に晴樹は釘付けになっていた。

抱きつくように肩に回った苗の腕に驚きながら、やっぱり普段通りの苗に晴樹は思いきり笑っていた。

「苗も゙逢いだがっだ…っ…だょぅ…」

「……ぶっ…」

一生懸命伝えてくる苗に晴樹は吹き出しながらも幸せそうな笑みを溢す。

学園で逢った時はそっけない態度の苗に一度はガッカリした。

晴樹はこそばゆい想いに駈られながらも苗のおでこにキスをする。

そしてしがみつく苗を思いきり抱き締めて柔らかな布団に埋もれた。

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