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第一章 謎のイケメン御曹司の登場
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都内にある二十階建ての本社ビルの八階に、私の勤める東光エージェンシーの第一営業部がある。
東光エージェンシーは国内第三位のシェアを誇る大手広告代理店だ。
毎年目覚ましい成長を続け、本社だけでは手狭になり近くのビルにいくつかのフロアを賃借りしていた。
総従業員数は五万人越え。海外にも複数の支社を置いている。
広大なフロアには現在三十人程の人間がいる。
全員が集まればゆうに百人を超えるが、足を使ってなんぼの営業職。
今日も大半の人間が外回りに出かけていて、全員が顔を合わせることなんてめったにない。
フロアに残っている人間はバタバタと動き回って電話をかけたり、険しい顔でPCに向かい合ったりしている。
その中にも、もちろん例外はいる。
「ねえ、黒川さんからあの話聞いた?」
「聞いた聞いた!悪女、またやらかしたんでしょ?」
背後数メートルの距離でひそひそ話す声がする。
その悪女にわざわざ聞こえるように話すアンタたちのほうがよっぽど悪女でしょ。
心の中で吐き捨て、自席でノートパソコンのキーボードを叩く。
来週までが納期の企画書が突如、クライアントの意向によって明日に早まった。
なんとか今日中に仕上げなくてはならない私は、彼女たちに構っている暇などない。
「そうなの~!プライベートの時までお説教ってホント信じらんないでしょ~?」
会話にもう一人加わった。
鼻にかかった甘ったるい声を上げるのは、同じ部署の黒川萌花だ。
私はパソコンを打つ手を一旦止めて、溜息交じりに目頭を指で押さえた。
事の発端は、一昨日の土曜日の夜のこと。
休日返上で仕事をしていた私は、会社から徒歩数分の大衆居酒屋で一人お酒を嗜んでいた。
ささっと飲んで帰るにはうってつけの店で、枝豆をつまみに喉を鳴らして冷えたビールを胃の奥に流し込む。
ここ最近は案件が立ちこみ、こうやって息抜きすらできない日が続いていた。
「ハァ……、最高!」
抱えていた案件の企画書をなんとか納得のいく形に仕上げることができた。
頑張った自分への労いの為に訪れた店で、私は偶然にも後輩の黒川さん見つけてしまった。
さらに最悪なことに、私の席と彼女の席は目と鼻の距離だった。
大騒ぎする男女三人ずつの六人のグループ。
合コンなのか知らないが、店や他の客の迷惑を考えずにどんちゃん騒ぎをする真っ赤な顔の彼女を呆れたように眺める。
しばらくすると、彼女は隣の男にしなだれかかり、誘惑するように上目遣いをした。
男は彼女の豊満な胸の谷間に視線を落して、下心丸出しに鼻の下を伸ばす。
黒川さんは私より一つ年下の二十六歳だ。
精神年齢は明らかに低く、男に依存するタイプで自分の意思を持っておらず流されやすい。
『結婚したい!』が口癖なのに、どうしてこうも軽い行動をとるのか私には全く理解ができない。
やれやれと溜息を吐く。
休日に私が彼女に会いたくないように、彼女だって先輩の私になど会いたくないだろう。
トイレを済ませてコッソリ帰ろうと席を立つ。
すると、トイレの通路を塞ぐように言葉を交わす男二人組がいた。
彼らは黒川さんと一緒に飲んでいたグループの男たちだった。
「ユウキはミカちゃん狙いだって。ヨウコちゃんはガード固そうだから、グダられそう」
「おけ。俺ら二人で萌花ちゃん持ち帰ろうぜ。あの子なら絶対ヤレるって」
周りへの配慮に欠ける男二人は、背後に立つ私に気付く様子もなく大声でこれからの作戦会議をはじめる。
コホンッと咳ばらいをしてアピールしても、男達は全く気付かない。
「あの子使えるな。さっきちょこっと煽ったら、ここの代金も払ってくれそうだったし」
「なにそれ、マジバカじゃん。いい会社に勤めてるからってお高くとまってんじゃね?飯おごってもらって持ち帰れるとかマジ最高!頼めばホテル代も出してくれんじゃね?」
「それな。ぎゃはははは!!」
下品なやりとりとバカ笑いにいよいよ我慢ならなくなった私は「あの」と、男達に声をかけた。
「そこにいられると、トイレに入れないんですが。どいてもらえます?」
トイレを指差して冷ややかに言うと、男たちは私と目を合すことなく「あっ」と情けない声を出して場所を譲った。
彼らの横を通り過ぎてトイレのドアノブに手をかけたとき、「ヤバっ、超キツそうな女」と背後で男の声がした。
こんなところで女を持ち帰る作戦を立ててるアンタ達の方がよっぽどヤバいわよ。
「なにか?」
振り返って男たちを冷ややかに見つめる私を見てタジタジになりながら、「いや、別に」と愛想笑いを浮かべる。
東光エージェンシーは国内第三位のシェアを誇る大手広告代理店だ。
毎年目覚ましい成長を続け、本社だけでは手狭になり近くのビルにいくつかのフロアを賃借りしていた。
総従業員数は五万人越え。海外にも複数の支社を置いている。
広大なフロアには現在三十人程の人間がいる。
全員が集まればゆうに百人を超えるが、足を使ってなんぼの営業職。
今日も大半の人間が外回りに出かけていて、全員が顔を合わせることなんてめったにない。
フロアに残っている人間はバタバタと動き回って電話をかけたり、険しい顔でPCに向かい合ったりしている。
その中にも、もちろん例外はいる。
「ねえ、黒川さんからあの話聞いた?」
「聞いた聞いた!悪女、またやらかしたんでしょ?」
背後数メートルの距離でひそひそ話す声がする。
その悪女にわざわざ聞こえるように話すアンタたちのほうがよっぽど悪女でしょ。
心の中で吐き捨て、自席でノートパソコンのキーボードを叩く。
来週までが納期の企画書が突如、クライアントの意向によって明日に早まった。
なんとか今日中に仕上げなくてはならない私は、彼女たちに構っている暇などない。
「そうなの~!プライベートの時までお説教ってホント信じらんないでしょ~?」
会話にもう一人加わった。
鼻にかかった甘ったるい声を上げるのは、同じ部署の黒川萌花だ。
私はパソコンを打つ手を一旦止めて、溜息交じりに目頭を指で押さえた。
事の発端は、一昨日の土曜日の夜のこと。
休日返上で仕事をしていた私は、会社から徒歩数分の大衆居酒屋で一人お酒を嗜んでいた。
ささっと飲んで帰るにはうってつけの店で、枝豆をつまみに喉を鳴らして冷えたビールを胃の奥に流し込む。
ここ最近は案件が立ちこみ、こうやって息抜きすらできない日が続いていた。
「ハァ……、最高!」
抱えていた案件の企画書をなんとか納得のいく形に仕上げることができた。
頑張った自分への労いの為に訪れた店で、私は偶然にも後輩の黒川さん見つけてしまった。
さらに最悪なことに、私の席と彼女の席は目と鼻の距離だった。
大騒ぎする男女三人ずつの六人のグループ。
合コンなのか知らないが、店や他の客の迷惑を考えずにどんちゃん騒ぎをする真っ赤な顔の彼女を呆れたように眺める。
しばらくすると、彼女は隣の男にしなだれかかり、誘惑するように上目遣いをした。
男は彼女の豊満な胸の谷間に視線を落して、下心丸出しに鼻の下を伸ばす。
黒川さんは私より一つ年下の二十六歳だ。
精神年齢は明らかに低く、男に依存するタイプで自分の意思を持っておらず流されやすい。
『結婚したい!』が口癖なのに、どうしてこうも軽い行動をとるのか私には全く理解ができない。
やれやれと溜息を吐く。
休日に私が彼女に会いたくないように、彼女だって先輩の私になど会いたくないだろう。
トイレを済ませてコッソリ帰ろうと席を立つ。
すると、トイレの通路を塞ぐように言葉を交わす男二人組がいた。
彼らは黒川さんと一緒に飲んでいたグループの男たちだった。
「ユウキはミカちゃん狙いだって。ヨウコちゃんはガード固そうだから、グダられそう」
「おけ。俺ら二人で萌花ちゃん持ち帰ろうぜ。あの子なら絶対ヤレるって」
周りへの配慮に欠ける男二人は、背後に立つ私に気付く様子もなく大声でこれからの作戦会議をはじめる。
コホンッと咳ばらいをしてアピールしても、男達は全く気付かない。
「あの子使えるな。さっきちょこっと煽ったら、ここの代金も払ってくれそうだったし」
「なにそれ、マジバカじゃん。いい会社に勤めてるからってお高くとまってんじゃね?飯おごってもらって持ち帰れるとかマジ最高!頼めばホテル代も出してくれんじゃね?」
「それな。ぎゃはははは!!」
下品なやりとりとバカ笑いにいよいよ我慢ならなくなった私は「あの」と、男達に声をかけた。
「そこにいられると、トイレに入れないんですが。どいてもらえます?」
トイレを指差して冷ややかに言うと、男たちは私と目を合すことなく「あっ」と情けない声を出して場所を譲った。
彼らの横を通り過ぎてトイレのドアノブに手をかけたとき、「ヤバっ、超キツそうな女」と背後で男の声がした。
こんなところで女を持ち帰る作戦を立ててるアンタ達の方がよっぽどヤバいわよ。
「なにか?」
振り返って男たちを冷ややかに見つめる私を見てタジタジになりながら、「いや、別に」と愛想笑いを浮かべる。
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