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エピローグ
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しおりを挟む智哉さんと結婚してから約二年という月日が経った。
私は昨年、仕事の実績を評価され女性として初めて営業部の部長に昇格した。
あれから、意地悪な部長は僻地に異動になった。もちろん、栄転ではない。
家庭も仕事も全てがうまくいっていた矢先、妊娠が分かった。
元々、子供を望んでいた智哉さんは大喜びで今まで以上に私を甘やかしてくれた。
そして、穏やかで暖かな春の日、待望の赤ちゃんが産まれた。
「心音(ここね)のオムツかえてきたよ」
「ありがとうございます」
奥の部屋から心音を抱っこした智哉さんが現れた。
心音が産まれてから、智哉さんは積極的に育児に携わってくれている。
それもそのはず。彼は局長クラスでは誰一人取得していない育休を申請したのだ。
『男性の育休取得は会社として推進されているはずなのに、誰も取らない。それはおかしいよ。だから、俺が前例を作ることにしたんだ。そうすればみんな取りやすくなるしね』
来年度中に、智哉さんは異例のスピードで会社の役員に選出される予定だと風の噂で聞いた。
夫として、心音の父親としてだけでなく、智哉さんのことを私は一人の個人として心から尊敬している。
産後一か月半が過ぎた日曜日の今日、我が家には東光エージェンシーの仲間たちがお祝いにやってきた。
心音の妊娠を機に、智哉さんと相談して都心に一戸建てを構えた。
心音が歩けるようになったら外遊びができるようにと、南側には大きな庭を設けた。
広々としたリビング内は来客者が持ってきたお祝いの品で埋め尽くされている。
ベビー用の可愛らしい洋服やスタイや靴下、ケーキ型のおむつやこれから使うおもちゃ。
たくさんの人からの祝福に喜びが込み上げる。
「あ~、超可愛い!!心音ちゃん、目元は伍代さん似で、口元は白鳥さん似ですね~!」
ソファに座って心音を抱く黒川さんが目を細める。
彼女はJJTの一件から人が変わったかのように仕事に取り組むようになり、先月は大型案件のプレゼンを成功させたらしい。
自分に自信がついたのか、男に媚びを売ることもなった。
今は結婚よりも仕事が楽しいと少し前の私のようなことを言っている。
「ホント可愛い。懐かしくて癒されます……」
その隣で、斎藤さんが心音のふわふわの髪を優しく撫でる。
『白鳥さんがいつでも戻ってこられるように、私たち頑張りますね』
産休に入るとき、そんな言葉をくれた斎藤さん。
今も時短パートだけど、仕事に積極的になった彼女は社員と同じようにたくさんの仕事をこなしてくれている。
お子さんたちがもう少し大きくなったら、パートではなくフルタイムで仕事をしようと考えているらしい。
「ねぇねぇ、実咲。ちょっときて」
キッチンの傍のダイニングテーブルには奈々子と娘の春ちゃん、それから冬野くんが座っていた。
冬野くんは今も営業部にいる。仕事のコツを掴んだらしい彼が、『営業の仕事も楽しいですね』と言い出したものだから、私は驚愕した。
クリエイティブの仕事に未練はまだあるだろう。
でも、今いる場所で必死に頑張る冬野くんはキラキラと輝いていた。
奈々子に呼ばれて傍まで歩み寄ると、奈々子はキッチンに立つ智哉さんに目を向けた。
「伍代さんっていつも家であんな感じなの?」
「うん、そう。私よりも家事が得意っていうのもあるんだけど、いつもやってくれるんだよね」
『久しぶりにみんなに会えたんだから、今日はゆっくりおしゃべりしなよ。俺は裏方に回るから』
その言葉通り、智哉さんはキッチンに立ち食事の片付けをしてくれている。
「容姿も良くて、お金もあって、仕事もできて、家事もできて、余裕もあって、常に穏やかで妻にも娘にも優しくて気遣いもできる……。そんな男いる!?」
「私もびっくりだよ」
非の打ちどころがないとはこのことだ。
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