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第八章 新たな命
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しおりを挟む彼は黙って首を横に振る。
血の繋がりはなくても、今まで尚を弟として大切に思ってきた。
信じていた分、裏切られたショックは大きい。
例え黒岩に脅されていたとはいえ、父の残してくれた呉服屋を私の許可なく勝手に売ろうとしていたなんて……。
「私、尚のこと許せない。もう二度と私にも呉服屋にも関わらないで」
「そうだよね。俺、最低だ……」
ハッキリ告げると、尚は頭を垂れてふらふらと店から出て行く。
その丸まった後ろ姿を見送ると、途端に涙が溢れた。
「……っ……うぅ……」
本当はどうしてこんなことをしたのかと問いただしたかった。
信じてたのに!と気持ちをぶつけたかった。
でも、そんなことをしたら、一緒に過ごした情が沸き上がり尚を許してしまう気がした。
そんなことをしても、お互いの為にならない。
私は心を鬼にして尚を突き放す道を選んだ。
「よく頑張ったな」
誰もいなくなった店内で久我さんがそっと私の体に腕を回す。
「うっ……うう……」
怒涛のような時間だった。様々なことが一気に起こり頭の中が混乱して感情がグチャグチャに絡み合う。
大きな背中に腕を回してしがみつき涙を流す私を久我さんは黙って抱きしめてくれた。
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