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第九章 重なる想い

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「どうしてあの場に久我さんが……?」

聞きたいことは山ほどあった。
そう尋ねると、彼は「静かな場所で話そう」と私を自分のマンションに連れてきた。

「少し落ち着いたか?」
「……はい。取り乱してしまってすみません」
「気にするな。あんなことがあったんだ。無理もない」

高層階のマンションの最上階にある彼の部屋は信じられないぐらい広かった。けれど、物が少ないせいでガランッとした寂しい印象を受ける。
最低限の家具家電しかないせいか、生活感もない。
革張りの高級そうな黒いソファに揃って座り、隣に座る彼を見つめる。

「私……久我さんになんてお礼を言ったらいいのか……。私ひとりじゃお店を守れませんでした」
「礼なんていらない。ヤクザ相手に怯まなかった自分を褒めてやれ」

ポンっと私の頭を叩く久我さん。

「竹政組と黒岩のことももう心配はいらない。これからどうするかは、薄葉組に一任しているが、萌音や呉服屋に手を出してくることはないだろう。もちろん、継母もだ」
「ありがとうございます」

その言葉にホッと胸を撫で下ろす。
継母や黒岩をあのまま野放しにしていれば、傍若無人な振る舞いでたくさんの人を傷付けていただろう。
彼らがどうなるか私には分からない。けれど、これを機に自らの行いを反省して悔い改めてくれることを願うことしかできない。

「あの、久我さん。神城さんに連れられて出て行ったアルバイトの女の子……秋穂ちゃんって言うんですが、彼女は今どこにいるんでしょうか?」

私はずっと心の中にあった心配事を口にした。

「秋穂は無事だ。組の者に家まで送り届けるよう、神城が指示を出しているはずだ」

唐突に秋穂ちゃんを呼びつけにした久我さんに驚く。

「あのっ、もしかして久我さんと神城さんは秋穂ちゃんと知り合いなんですか?」

あのとき、神城さんは秋穂ちゃんになにかを囁いていた。不思議になって尋ねる。

「ああ。秋穂は妹だからな」
「……ん?」

聞き間違いかと思い首を傾げると、久我さんは至極真面目に言う。

「俺の妹だ。今まで秋穂が世話になったな」

いもうと?妹……?

「えっ、ちょ、ちょっと待ってください!秋穂ちゃんが久我さんの妹?お嬢様で箱入り娘で、清楚で穏やかで可愛らしいあの秋穂ちゃんが……?」
「穏やかで可愛い?バカ言え。アイツは怒ったら男でも止められないぐらい凶暴だ。アイツには子供の頃兄妹喧嘩で何度流血させられたか」

吐き捨てるように言う久我さんに目をむく。

「ま、まさか。久我さんってば冗談ばっかり!あの秋穂ちゃんがそんなこと……」

そこまで言って、思い出す。

「――やめんか、こら!!」という彼女の怒声と、据わった目。
黒岩を恐れず言い返す負けん気の強さ。

「アンタらの会話は全部録音したよ。一歩でもそこを動いてみな?ここにサツを呼んでやる」という口調。
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