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第九章 重なる想い

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食事を終えたあと、北斗さんに送ってもらい自宅アパートに戻った。

「ゆっくり用意してくれ」

という彼の言葉に甘えながらも、できるだけ早急に身支度を済ませる。
メイクのあとに髪を緩く巻いてハーフアップにしてパールの髪飾りをつけた。

あとは着て行くものをどうするかだ。
私はウォークインクローゼットを開けて頭を悩ませる。

普段は動きやすいパンツスタイルが多いけど、今日は彼との初めてのデートだ。
少しでも可愛いと思って欲しい。
なにを着て行こうかと頭を悩ませていると、奥のワンピースに目がいった。

去年の夏、一目ぼれして買った楊柳シフォンを用いた優雅なピンクベージュ色のロングワンピースだ。
サイドにギャザーデザインが取り入れられてボリューム感を出したドレッシーなスタイルだ。
肩回りがやや隠れるくらいの品の良いスリーブが特にお気に入りだ。

「よしっ。これにしよう」

用意を済ませると、姿見に自分の姿を映して一度回転する。
自然と顔が緩む。私ってば、相当浮かれてる……。

玄関先でヒールのないパンプスを履いて北斗さんの車に乗り込む。

「お待たせしてすみません」
「いや、大丈夫……だ」

ふと私の方へ視線を向けた北斗さんは、私の姿をまじまじと見つめて言葉を切った。
普段ポーカーフェイスな彼の驚いたような表情になんだか不安が込み上げる。

もしかして……こういう格好好きじゃなかったのかな……?

「この格好……変でしたよね。着替えてこようかな」
「――着替える?なんでだ?」

私の言葉に彼はハッとしたように聞き返す。

「北斗さんとのデートは初めてなので、ちょっとでも可愛いって思って欲しくてワンピースを着て見たんですけどあんまり好きじゃなかったですか?」
「いや、好きだ」
「へ?」

北斗さんは目をわずかに泳がせて狼狽える。

「すまない。いつもの萌音も良いが、お洒落をしてる姿あまりにも眩しくてうまく言葉が出てこなかった」
「北斗さん……」
「しかも、俺とのデートの為に可愛い恰好をしてくれたんだろう?」
「……はい」

照れくさくて頬を赤らめながら小さく頷く私を見て北斗さんは悩ましそうに溜息を吐いた。

「俺の理性がいつまで持つか心配だ」
「え?」
「いや、なんでもない。エアコン、寒くないか?」
「大丈夫です」

私の頭を優しく撫でた後、北斗さんはハンドルを握りゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
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