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第2章「月下に煌めく箱庭」
25話 人里での邂逅
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ユキアとメアが永久庭園に辿り着いてしばらくした一方、シオンたちもまた人間たちの住む街に辿り着く。
街は坂付近とは違って曇り空であった。こちらもまた、前回まで滞在していた箱庭とはまた違った様相の街並みである。全体的に建物の階層が多く、四階建てのアパートらしき建物が街の大半を占めている。
シオンとソルは、手分けして魔物の手がかりを探していた。神といえど、人間の中に混じることは容易い。なので、聞き込みや情報収集をすること自体は苦ではない。
ある程度情報収集が終わったところで、シオンはあらかじめ待ち合わせ場所に選んでいた、街中の狭い公園に向かう。葉が生い茂る木の根元には、あまり表情の変わっていないソルが寄りかかっていた。
「あ、シオン。そっちはどうだった?」
「いや、全然だめだ」
「こっちも。そもそも、街にほとんど人が出ていないんだ」
端的に言うと、街の人々は魔物を恐れていた。魔物がいるのは森の奥深く、ちょうどシオンたちがやってきた坂付近だという。そこから魔物が街にやってくることがあって、人々に危害を加えているのだそうだ。
幸い、街にまったく人がいないというわけではなかった。質問を変えたりして、「何か最近妙なことは起きていないか」と尋ねてみたりはしたものの────
「決まって出てくるのはあの庭園の話だね」
「やっぱなー……あそこ、本当にヤバいのか」
「あの女の人が話していたこと以上の情報は出てこなかった。これ以上街に留まっても、何も得られなさそうだよ」
無駄骨だったと感じた二人は、そのまま公園から離れようとした。
しかし────ソルは立ち止まり、すごい勢いで振り返って魔導書を開いた。
「ソル?」
「誰かいる。シオン、気をつけて」
ソルが身構えたことにただ事じゃないと察し、シオンも斧を召喚して構えた。
何者かが二人に襲いかかってくる気配はない。しかし────
「気づかれちゃったか。気持ちはわかるけど、武器はしまって。怪しまれるから」
幼い声とともに、ある木の影からゆっくりと人影が現れた。
それはシオンとソルよりもかなり背の低い、子供の影。陰から姿を現したのは、薄橙色の髪に夜空色の瞳を持つ、少年のような見た目をした子だった。
「……なんだこいつ、ちっちゃ」
「うっ!?」
「ちょっとシオン、初対面に対して失礼だよ。子供が小さいのは当たり前じゃん」
「うぅ~っ、何なのキミたち!? ボクを見下ろすなー!!」
子供は何気ない二人の言葉に両腕を振り上げ、その場で飛び跳ねる。
二人は敵意はなさそうだと判断し、それぞれの武器をしまった。そこでようやく、子供は落ち着いて深く息をついた。
「で、誰だお前。オレたちに用か?」
「ああそうだ。初めまして、だよね。シオンに……ソル、だったかな」
「は? なんでオレたちの名前を知ってやがんだ」
「待って、シオン。この子……多分、ユキアを助けたアスタって子なんじゃないかな」
言われてみれば、と子供──アスタに目を向けるシオン。確かに、ユキアが以前伝えた情報には合致していた。
しかし、華奢な身体を見ている限り、どう考えても攻撃を飛び膝蹴りで防ぐほどの力はなさそうだった。それ以上に、自分たちの情報を把握していた彼に対して疑う以外の選択肢が見つからなかった。
「それにしたって、名乗ってもいないのに知ってるなんておかしいだろ。どうやって名前を知った?」
「そんなのどうだっていいじゃない。それより、ここにはキミたちの求めるものはないよ」
「……なんだって?」
アスタの言葉に、二人は耳を疑った。しかし、目の前の子供は微笑みを崩すことなく続ける。
「キミたちが求めるものは、あの庭園にある。ここにいても、クレーの的にされるだけだよ」
「やっぱ無駄骨だったじゃねぇか! てか、知ってたなら早く教えろよ!」
「まあ、仕方ないね。こうして教えてくれただけでもありがたいと思うしかない」
抗議するシオンを抑えつつ、ため息をつく。アスタはそんな二人の様子を見守りつつも、辺りを見回している。何かを警戒しているかのようだった。
シオンが落ち着いたところで、ソルはアスタに尋ねる。
「そういえば君、ユキアのストーカーなんでしょ? なんで僕らの前に現れたの?」
「えぇ? なんでみんなボクのことをストーカー認定するかなぁ……」
「ユキアの後つけたことあるんでしょ。なら自然とそうなる」
至極当然な意見を突きつけられ、うなだれるアスタ。しかし、すぐに顔を上げて問いに答える。
「理由は簡単だよ。ユキには心強い味方がいるからさ」
「あ? メアのことか?」
「彼女とはまた別。君たちと同じ状況に立たされている者が、この箱庭にいるんだ」
「ま、まさか……女の人が言ってた、子供って奴じゃ……」
「それは自ずとわかることだよ。それに、ボクも色々と調べなきゃいけなくてね。ずっとユキを見ていられないのは残念だけど、そうも言ってられないから」
「おい今の発言で確定したぞ。こいつユキアのストーカーだ。やるぞ」
「こんなところで騒ぎを起こさないで。というか、ずっとは見られないって言ってるじゃん。バカなの?」
「んだとぉ!?」
二人の口論に対し、やれやれとしたような、微笑ましいような笑みを浮かべている。
口喧嘩には反応することなく、アスタは二人に背を向けた。
「ち、ちょっと待って」
「何?」
「君、どうしてここの箱庭にいるの。人間はおろか、神だって箱庭の行き来は自由にできないはずだ」
真剣な面持ちで問い詰めるソル。アスタの幼い顔から、一瞬だけ表情が消えた。
しかし、無言のまま少しだけ俯き、口元だけは笑っていた。
「それができるのはボクだけじゃないよ。キミたちやボクが追っている『あいつ』も────同じだからね」
そう言葉を残し、まもなく姿を消した。
アスタがいなくなってからも、二人は釈然としないまましばらく動かずにいた。
「……やっぱりよくわからないな。情報が少なさすぎる」
「まあ少なくとも、あの仮面男みたいにオレたちの命を狙ってるわけじゃなさそうだし、ほっといてもいいだろ」
「それもそうだね……シオン、これからどうする?」
「これ以上聞き込みしても無駄なんだろ? とっとと庭園に行って合流しようぜ」
「わかった」
そんな会話を繰り広げてから、二人はようやく動き出した。
ユキアとメアが永久庭園に辿り着いてしばらくした一方、シオンたちもまた人間たちの住む街に辿り着く。
街は坂付近とは違って曇り空であった。こちらもまた、前回まで滞在していた箱庭とはまた違った様相の街並みである。全体的に建物の階層が多く、四階建てのアパートらしき建物が街の大半を占めている。
シオンとソルは、手分けして魔物の手がかりを探していた。神といえど、人間の中に混じることは容易い。なので、聞き込みや情報収集をすること自体は苦ではない。
ある程度情報収集が終わったところで、シオンはあらかじめ待ち合わせ場所に選んでいた、街中の狭い公園に向かう。葉が生い茂る木の根元には、あまり表情の変わっていないソルが寄りかかっていた。
「あ、シオン。そっちはどうだった?」
「いや、全然だめだ」
「こっちも。そもそも、街にほとんど人が出ていないんだ」
端的に言うと、街の人々は魔物を恐れていた。魔物がいるのは森の奥深く、ちょうどシオンたちがやってきた坂付近だという。そこから魔物が街にやってくることがあって、人々に危害を加えているのだそうだ。
幸い、街にまったく人がいないというわけではなかった。質問を変えたりして、「何か最近妙なことは起きていないか」と尋ねてみたりはしたものの────
「決まって出てくるのはあの庭園の話だね」
「やっぱなー……あそこ、本当にヤバいのか」
「あの女の人が話していたこと以上の情報は出てこなかった。これ以上街に留まっても、何も得られなさそうだよ」
無駄骨だったと感じた二人は、そのまま公園から離れようとした。
しかし────ソルは立ち止まり、すごい勢いで振り返って魔導書を開いた。
「ソル?」
「誰かいる。シオン、気をつけて」
ソルが身構えたことにただ事じゃないと察し、シオンも斧を召喚して構えた。
何者かが二人に襲いかかってくる気配はない。しかし────
「気づかれちゃったか。気持ちはわかるけど、武器はしまって。怪しまれるから」
幼い声とともに、ある木の影からゆっくりと人影が現れた。
それはシオンとソルよりもかなり背の低い、子供の影。陰から姿を現したのは、薄橙色の髪に夜空色の瞳を持つ、少年のような見た目をした子だった。
「……なんだこいつ、ちっちゃ」
「うっ!?」
「ちょっとシオン、初対面に対して失礼だよ。子供が小さいのは当たり前じゃん」
「うぅ~っ、何なのキミたち!? ボクを見下ろすなー!!」
子供は何気ない二人の言葉に両腕を振り上げ、その場で飛び跳ねる。
二人は敵意はなさそうだと判断し、それぞれの武器をしまった。そこでようやく、子供は落ち着いて深く息をついた。
「で、誰だお前。オレたちに用か?」
「ああそうだ。初めまして、だよね。シオンに……ソル、だったかな」
「は? なんでオレたちの名前を知ってやがんだ」
「待って、シオン。この子……多分、ユキアを助けたアスタって子なんじゃないかな」
言われてみれば、と子供──アスタに目を向けるシオン。確かに、ユキアが以前伝えた情報には合致していた。
しかし、華奢な身体を見ている限り、どう考えても攻撃を飛び膝蹴りで防ぐほどの力はなさそうだった。それ以上に、自分たちの情報を把握していた彼に対して疑う以外の選択肢が見つからなかった。
「それにしたって、名乗ってもいないのに知ってるなんておかしいだろ。どうやって名前を知った?」
「そんなのどうだっていいじゃない。それより、ここにはキミたちの求めるものはないよ」
「……なんだって?」
アスタの言葉に、二人は耳を疑った。しかし、目の前の子供は微笑みを崩すことなく続ける。
「キミたちが求めるものは、あの庭園にある。ここにいても、クレーの的にされるだけだよ」
「やっぱ無駄骨だったじゃねぇか! てか、知ってたなら早く教えろよ!」
「まあ、仕方ないね。こうして教えてくれただけでもありがたいと思うしかない」
抗議するシオンを抑えつつ、ため息をつく。アスタはそんな二人の様子を見守りつつも、辺りを見回している。何かを警戒しているかのようだった。
シオンが落ち着いたところで、ソルはアスタに尋ねる。
「そういえば君、ユキアのストーカーなんでしょ? なんで僕らの前に現れたの?」
「えぇ? なんでみんなボクのことをストーカー認定するかなぁ……」
「ユキアの後つけたことあるんでしょ。なら自然とそうなる」
至極当然な意見を突きつけられ、うなだれるアスタ。しかし、すぐに顔を上げて問いに答える。
「理由は簡単だよ。ユキには心強い味方がいるからさ」
「あ? メアのことか?」
「彼女とはまた別。君たちと同じ状況に立たされている者が、この箱庭にいるんだ」
「ま、まさか……女の人が言ってた、子供って奴じゃ……」
「それは自ずとわかることだよ。それに、ボクも色々と調べなきゃいけなくてね。ずっとユキを見ていられないのは残念だけど、そうも言ってられないから」
「おい今の発言で確定したぞ。こいつユキアのストーカーだ。やるぞ」
「こんなところで騒ぎを起こさないで。というか、ずっとは見られないって言ってるじゃん。バカなの?」
「んだとぉ!?」
二人の口論に対し、やれやれとしたような、微笑ましいような笑みを浮かべている。
口喧嘩には反応することなく、アスタは二人に背を向けた。
「ち、ちょっと待って」
「何?」
「君、どうしてここの箱庭にいるの。人間はおろか、神だって箱庭の行き来は自由にできないはずだ」
真剣な面持ちで問い詰めるソル。アスタの幼い顔から、一瞬だけ表情が消えた。
しかし、無言のまま少しだけ俯き、口元だけは笑っていた。
「それができるのはボクだけじゃないよ。キミたちやボクが追っている『あいつ』も────同じだからね」
そう言葉を残し、まもなく姿を消した。
アスタがいなくなってからも、二人は釈然としないまましばらく動かずにいた。
「……やっぱりよくわからないな。情報が少なさすぎる」
「まあ少なくとも、あの仮面男みたいにオレたちの命を狙ってるわけじゃなさそうだし、ほっといてもいいだろ」
「それもそうだね……シオン、これからどうする?」
「これ以上聞き込みしても無駄なんだろ? とっとと庭園に行って合流しようぜ」
「わかった」
そんな会話を繰り広げてから、二人はようやく動き出した。
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