ディバイン・レガシィー -箱庭の観測者-

月詠来夏

文字の大きさ
28 / 276
第2章「月下に煌めく箱庭」

28話 食事会と大食い競争

しおりを挟む
 メアと一緒に料理を見て回っているだけでも、今の状況の緊迫感を少しでも忘れられる気がした。シュノーちゃんとレノちゃんは、二人で楽しそうに何かを話している。会話の内容は聞こえてこなかった。
 デザートのオレンジケーキに心を躍らせていたところで、食堂に二つの人影が現れる。

「おーっす。戻ってきたぜー」
「シオ、ソルー! 待ってたのだー!」
「ここが夕飯の会場みたいだね。随分と広いけど」

 お風呂に入っていた二人が戻ってきた。人も揃ったことだし、ようやく夕飯を食べられる。

「フローリア、好きな料理選んでいいって言ってたよ。あ、でもそこの寝ぐせ男はだめ」
「んだとっ!? このチビ女!!」
「だからシュノーはチビじゃない。レノと同じ特製料理を食べてもらうだけ」

 睨み合ってはいるけれど、仲自体はそこまで悪くなさそう……に見える。
 大食い競争で食べる料理と、バイキングの料理は別になるようだ。どんな料理が出てくることやら。
 みんなそれぞれ料理をとったところで、私たちは使用人たちに案内され、食堂の真ん中に置かれた長く広いテーブルについた。
 私とメア、シオン、ソルの座る向かい側に、シュノーちゃんとレノちゃん、フローリアさんが座った。

「さあ、お客人の皆さん。本日もおもてなしさせていただきますので、どうぞごゆっくりお楽しみくださいね」

 フローリアさんの挨拶により、夜の食事会が始まった。
 とった料理に個性が現れて、そっと眺めるだけでも面白い。私は何かと肉料理が多いけれど、メアは甘いものや卵料理が多い。ソルはサラダや野菜料理が一番多かった。
 比較的物静かで、圧倒的頭脳派の二人は、今までの状況をまとめながら食事をしていた。

「なるほど……僕らやこの子たちは、例の事件の被害者だったんだね」
「ああ。私やユキアも驚いたよ。クレーのことも知っていたし、情報共有できて助かった」
「僕も『神隠し事件』について噂だけは聞いたことがあったからね。今思えば、キャッセリアで僕らの前に現れた時点で怪しかったわけだ……」
「そうだな。私ももっと早く気づけばよかった……」

 メアとソルは食事をしつつ、真剣な顔で話をしている。テーブルの向こう側には聞こえないくらい小さな声だったが、私には大体聞こえていた。
 本当に、事件についてほとんど知らなかったのは私だけだったらしい。

「あれ、シュノーちゃん? デザート早くない?」
「アイス食べたかった。冷たいものが好きなの」

 シュノーちゃんは、サラダの他に様々な色のアイスを並べていた。しかも、食事が始まったばかりなのにアイスから食べている。
 そういえば、シオンとレノちゃんは特製料理を食べる、と言っていた。どういう感じなのか眺めてみる。
 なんと────二人の前には、私たちの数倍以上の量の料理が置かれていた。しかも、バイキングで用意されていたものよりもボリュームが多い。
 デザートの類は見当たらないが、心なしかカロリーが高そうに見える。絶対あんな量は食べたくない。

「おい、チビ女二号……オレに大食い勝負を吹っかけた以上、容赦しねぇぞ」
「チビじゃないっ、レノなのだ!! 絶対後悔させてやるのだっ!!」

 こっちは私以上に気楽な奴らの集まりだった。大食い競争、やっぱり本当にやるんだ……。
 二人はナイフとフォークを両手に身構えている。レノちゃんの後ろには、ルルカさんが立っていた。どうにも落ち着かない様子だ。
 巻き込まれたんだな……。

「そ、それではお二方。勝利条件は、先に規定量の料理を食べきることでございます。準備はよろしいでしょうか?」
「おう!」
「おーけーなのだ!」
「では……スタート!」

 ルルカさんのかけ声で、二人は一斉に料理を口に放り込み始める。
 小さい頃からシオンのことは見ているから、大食いの光景もある程度見慣れている。肉類が大好物とはいえなんでも食べるから、あいつは大食い競争の類に負けたことは一度もなかった。
 とはいえ、それは身内の中だけでの話だ。同じ神とはいえ、まだ知り合ったばかりのレノちゃんのことはよく知らない。姉のシュノーちゃんよりもさらに小さい背丈で、果たしてどれだけの料理を胃に収められるというのか。

「うおおぉぉ!! 負けられるかああぁぁ!!」
「レノも本気出すのだー!!」

 料理がすさまじい勢いで減っていく。テーブルの上の料理が尽きそうになるたび、使用人が皿を入れ替えて料理を追加していく。
 シオンもレノちゃんも、手が止まる気配はない。ひたすら料理を胃の中に収めていくだけだ。

「シオンはともかく、レノちゃんがあんなに大食いだとは思わなかったな……」
「レノ、小さい頃からあんな感じ。昔の方がもっとすごかった」

 私の言葉に応えたシュノーちゃんも、ひたすらアイスを頬張っている。
 いくつアイスを食べたのか知らないが、こっちも手を止める気配はない。

「レノさん、シオンさん! 頑張ってくださーい!」
「お、お嬢様、もう少し抑えた方が……」
「はっ。私としたことが……少々はしゃぎすぎてしまいました」

 フローリアさんに注意するルルカさん自身も、少し表情が緩んでいるように見えた。
 そういえば、ルルカさんは庭師だと聞いた。その言葉が本当なら、この場にいる他の使用人とはまた少し違うのだろうか?
 ここに来るまでも、フローリアさんの車椅子を押していたのはルルカさんだった。他の使用人よりも、距離が近く思われる。

「まったく……小さい子相手なんだから、シオンも手加減してやればいいものを……」
「この調子じゃ、手加減したらあっという間に負けそうだけど」
「えぇ?」

 ソルの言葉に耳を疑った。
 見ると、二人とも最初よりも食べる速度が落ちていた。顔にも苦しみが滲み出てきている。
 限界ギリギリといったところか……。

「勝負、もうちょっとでつきそう」
「ですね……! お二人とも、あとちょっとです!」

 私たちだけでなく、シュノーちゃんもフローリアさんも、ルルカさんも大食い競争に釘付けになっていた。
 それからまもなく────決着はついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...