ディバイン・レガシィー -箱庭の観測者-

月詠来夏

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第2章「月下に煌めく箱庭」

29話 決着

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「おっしゃああぁぁぁ!!! 勝ったぜイエェェェーイ!!!」
「うわあぁぁん!! 負けたのだあぁぁ!!!」

 謎すぎる状況で始まった大食い競争、なんとシオンが勝ってしまった。レノちゃんが机に突っ伏して泣き喚いている。
 一度人里に下りて、また坂を上ってきたゆえに空腹を極めていたのかもしれない。

「あーっはっはっは!! このオレに大食い競争を挑むなんて千年早いんだよ!! 出直してこいや!!」
「シオン、行儀悪い。ていうか大人げないよ」
「なんだよソル? 文句あんのか!?」

 下手したら私にも喧嘩を吹っかけられそうだったので、私は席を立つ。
 バイキングの料理も、残り少なくなってきた。最後にデザートのオレンジケーキを持ってきて、席に戻った。
 ソルとメアは、未だにレノちゃんに威張るシオンを抑えている。シュノーちゃんは、号泣するレノちゃんを慰めつつ、アイスを食べていた。

「レノ、仕方ない。相手が悪かった」
「うわあぁぁぁ~!! 悔しいのだぁ~!! レノが負けるなんてありえないのだぁ~!!」

 シュノーちゃんでも、レノちゃんの号泣は抑えられないようだった。余程悔しかったのか。
 しばらく困った顔をしたシュノーちゃんだったが、今度は私を見た。

「ユキア。デザートのところに、プリンってあった?」
「プリン? さすがになかったと思うけど……」

 シュノーちゃんの言わんとすることはなんとなくわかる。
 すると、彼女の隣に座っているフローリアさんが、小さく手を上げた。

「じゃあ、私たちが作りましょうか?」
「いや、フローリアさん、ここは任せてください」

 これ以上館の人たちに何かをお願いするのも忍びない気がした。
 そこで、私はシオンにじっと目を向けた。メアたちに呆れられながらも、未だに勝ち誇ったままでいる。

「なんだよユキア、お前も文句あんのかよ」
「レノちゃんにプリン作って。もう勝負は終わったんだから、威張るのは十分でしょ」
「なんでオレが……」
「やれるならやれ、寝ぐせ男。さもなくばシュノー、本気を出す」
「……はぁ?」

 そこからしばし沈黙が漂う。シオンに向けた目があまりにもギラギラしているように見えた。
 本気を出す、という言葉の意味がいまいち汲み取れなかった。腰の刀に手を伸ばすといった様子もない。なんか怖くなってきた。

「うぅ……仕方ねぇな。断ったら余計ひどい目に遭いそうだ」

 シオンもシュノーちゃんの隠された恐ろしさを悟ったらしい。珍しく勘がいい。

「ぐすっ……何なのだ……?」
「『ユニヴァ・クリエイツ』」

 渋々シオンが唱える。その時のシュノーちゃんの目は、僅かに見開かれていた。
 テーブルに向かって差し出した両手に、黄金の魔力の塊が現れた。顔を上げて涙をぬぐうレノちゃんの前で、魔力の塊は小さなプリンに姿を変えた。

「わーっ!! プリンなのだー!!」
「またどっかでリベンジでも挑んでこいよ。その時は受けて立つ」
「やったー!! シオ、次は負けないのだ!!」

 そう高らかに宣言するレノちゃん。シオンはため息をつきつつも、口元を緩ませていた。
 メアとソルも、お互いに顔を見合わせて微笑んでいた。これで一件落着────と思ったのだが。

「あれ? シュノーは?」

 レノちゃんの隣に座っていたはずのシュノーちゃんの姿がなく、辺りを見渡している。
 さっきまで一緒に慰めていたのに、いつの間にどこに行ったんだろう。姉の存在が見つけられず、レノちゃんの顔が再び悲しみに染まる。

「シュノーに食べさせてほしかったのに……」
「じゃあレノさん、こちらに来てください。私でよろしければ……」
「わーい! フー、お邪魔するのだ!」

 プリンを持って立ち上がり、元々シュノーちゃんが座っていた席に移動する。フローリアさんはレノちゃんからスプーンを受け取って、プリンをひとかけらすくって食べさせる。

「はい、レノさん。あーん」
「はむっ。おいひいのだ! もっと食べるのだー!」
「ふふっ、喜んでもらえて嬉しいです」

 思わず笑みがこぼれるくらい、微笑ましい光景だった。
 でも、今の私にはシュノーちゃんの行方が気がかりだった。フローリアさんもわからなさそうだし、聞くならルルカさんだろうか。
 私は一度立ち上がり、フローリアさんの横に控えるルルカさんに声をかける。

「ルルカさん。シュノーちゃんどこに行ったかわかります?」
「シュノー様でしたら、先程食堂を出ていかれましたよ」
「どうしたんだ、ユキア?」
「シュノーちゃん探してくる!」

 メアにそう伝えておいて、私も食堂を出た。
 食事会で賑わう食堂とは正反対に、廊下は静まり返っていた。誰もいない長い通路を歩き、シュノーちゃんの姿を探す。
 館の中にはいないのかもしれない。今度は窓の外に目を向ける。前の箱庭では見えなかった、大きな満月が浮かんでいた。
 月明かりに照らされた庭園に、人影を見つける。それは、青白く寂しげな後ろ姿だった。
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