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第2章「月下に煌めく箱庭」

32話 朝の異変

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 射しこむ日の光に目が覚ましたとき、青白い天井が目に入った。私は静かに起き上がり、割り当てられた部屋を見回す。
 フローリアさんの部屋には少し劣るが、客室にしては豪華だった。ベッドの布団もふかふかだし、久しぶりによく眠れた気がする。
 目を開けるたびに、寝起きの私は違う景色を目にしている。まるで旅人のようだった。

「……ユキア? 起きたのか?」

 考え事をしていたところ、隣のベッドから声が聞こえた。メアもちょうど起きたようだ。
 目を擦りながら身を起こすメアに、私は笑いかける。

「おはよう、メア。朝ご飯食べに行こうよ。シオンたちももう起きてるだろうし」
「そうだな。十分に栄養を摂らないと……」

 これでも神なのに、栄養を摂らなきゃいけないというのもおかしな話だ。



 シオンたちと合流し、一緒に食堂へ向かった。
 食堂では、既にシュノーとレノが待っていた。待たせてしまったかと思いきや、私たちが来てちょうど準備が終わったところなのだという。
 昨日と同じく、数人の使用人と……あれ、人が足りない。

「おはよう、二人とも。フローリアさんたち、どこにいるかわかる?」
「あ、おはよう。ルルカにはさっき会った」
「先に食べていいって言ってたのだ!」

 館の主が来ていないのに先にいただくのは申し訳なかったが、ルルカさんが言うなら仕方がない。
 今回はバイキング形式ではなく、最初から決まった食事が用意されていた。クロワッサンとオムレツ、コーンスープにミルク。いたってオーソドックスな朝食だった。
 みんなで挨拶をしてから、まずはオムレツからいただいた。甘くて美味しい。
 シオンとソル、シュノーとレノでそれぞれ会話を繰り広げている。私とメアは特に話すことがなく、黙って食べているだけだった。ただ、私の向かい側の席が空っぽなのが気がかりだった。
 無心で料理を食べていると、使用人たちの声が聞こえてきた。シェフとメイド、二人で声をひそめて会話している。

 ────お客人はここにいても平気なのか?
 ────庭園の外から来て間もないからじゃない? 私たちは長くいるから、ねぇ……。
 ────なんでわざわざ来たんだろうな。噂を知らないわけではないだろうに。

 ……何のことだろう?
 私は軽くメアの肩を叩いて、耳を貸すように言った。

「ねえねえメア、聞こえる?」
「ああ……にしても、仮にも客人の前なのに失礼な物言いだな」
「それはいいとして。フローリアさんとルルカさん、遅いね」
「さすがに心配だな」

 フローリアさんは若いのに礼儀正しいから、寝坊するというイメージはまったく湧いてこない。ただ、身体が不自由みたいだから、ルルカさんが彼女の補助をしているのだろう。
 それでも、食事が始まって十分以上経っているのに、全然食堂にやってくる気配がない。

「────誰か! 急いで来てくださいませんか!?」

 ゆったりと食事を楽しんでいたとき、食堂にもう一人のメイドが飛び込んできた。先程ひそひそ話をしていた使用人たちがどよめき始める。
 私たちも驚かないわけがなかった。驚きすぎたあまり喉を詰まらせたシオンは放っておくとして……。

「な、何があったの!?」

 私が尋ねるも質問に答える者はいなかった。使用人たちが出て行って、食堂には私たちだけが残された。
 絶対ただ事ではない。恐らく、フローリアさんに何かあったのだ。そうでなければ、客人である私たちを放っておいて全員いなくなる理由はない。

「ごほっ、ごほ……み、みず……」
「一気に食べてたからだよ。ほらこれ」
「うっ……せんきゅ……」

 ソルが自分のミルクが入ったグラスを渡し、シオンがミルクをぐびぐび飲み干す。その間に、私たちは椅子から立ち上がった。もはや朝食どころではない。
 シュノーは思いつめたような顔をしている。レノは不安そうに、シュノーにしがみついた。

「シュノー……フー、大丈夫だよな……?」
「…………」

 とはいえ、このまま何もわからないまま待っているのは嫌だ。
 私は意を決して、食堂の扉へ向かって駆け出した。

「ちょっ、ユキア!?」
「レノも行くのだ!」
「っ、シュノーも!」

 食堂の扉を開け放ち、シュノーとレノと一緒に館の廊下を走る。とにかく、フローリアさんに無事でいてほしかった。
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