ディバイン・レガシィー -箱庭の観測者-

月詠来夏

文字の大きさ
32 / 276
第2章「月下に煌めく箱庭」

32話 朝の異変

しおりを挟む
 射しこむ日の光に目が覚ましたとき、青白い天井が目に入った。私は静かに起き上がり、割り当てられた部屋を見回す。
 フローリアさんの部屋には少し劣るが、客室にしては豪華だった。ベッドの布団もふかふかだし、久しぶりによく眠れた気がする。
 目を開けるたびに、寝起きの私は違う景色を目にしている。まるで旅人のようだった。

「……ユキア? 起きたのか?」

 考え事をしていたところ、隣のベッドから声が聞こえた。メアもちょうど起きたようだ。
 目を擦りながら身を起こすメアに、私は笑いかける。

「おはよう、メア。朝ご飯食べに行こうよ。シオンたちももう起きてるだろうし」
「そうだな。十分に栄養を摂らないと……」

 これでも神なのに、栄養を摂らなきゃいけないというのもおかしな話だ。



 シオンたちと合流し、一緒に食堂へ向かった。
 食堂では、既にシュノーとレノが待っていた。待たせてしまったかと思いきや、私たちが来てちょうど準備が終わったところなのだという。
 昨日と同じく、数人の使用人と……あれ、人が足りない。

「おはよう、二人とも。フローリアさんたち、どこにいるかわかる?」
「あ、おはよう。ルルカにはさっき会った」
「先に食べていいって言ってたのだ!」

 館の主が来ていないのに先にいただくのは申し訳なかったが、ルルカさんが言うなら仕方がない。
 今回はバイキング形式ではなく、最初から決まった食事が用意されていた。クロワッサンとオムレツ、コーンスープにミルク。いたってオーソドックスな朝食だった。
 みんなで挨拶をしてから、まずはオムレツからいただいた。甘くて美味しい。
 シオンとソル、シュノーとレノでそれぞれ会話を繰り広げている。私とメアは特に話すことがなく、黙って食べているだけだった。ただ、私の向かい側の席が空っぽなのが気がかりだった。
 無心で料理を食べていると、使用人たちの声が聞こえてきた。シェフとメイド、二人で声をひそめて会話している。

 ────お客人はここにいても平気なのか?
 ────庭園の外から来て間もないからじゃない? 私たちは長くいるから、ねぇ……。
 ────なんでわざわざ来たんだろうな。噂を知らないわけではないだろうに。

 ……何のことだろう?
 私は軽くメアの肩を叩いて、耳を貸すように言った。

「ねえねえメア、聞こえる?」
「ああ……にしても、仮にも客人の前なのに失礼な物言いだな」
「それはいいとして。フローリアさんとルルカさん、遅いね」
「さすがに心配だな」

 フローリアさんは若いのに礼儀正しいから、寝坊するというイメージはまったく湧いてこない。ただ、身体が不自由みたいだから、ルルカさんが彼女の補助をしているのだろう。
 それでも、食事が始まって十分以上経っているのに、全然食堂にやってくる気配がない。

「────誰か! 急いで来てくださいませんか!?」

 ゆったりと食事を楽しんでいたとき、食堂にもう一人のメイドが飛び込んできた。先程ひそひそ話をしていた使用人たちがどよめき始める。
 私たちも驚かないわけがなかった。驚きすぎたあまり喉を詰まらせたシオンは放っておくとして……。

「な、何があったの!?」

 私が尋ねるも質問に答える者はいなかった。使用人たちが出て行って、食堂には私たちだけが残された。
 絶対ただ事ではない。恐らく、フローリアさんに何かあったのだ。そうでなければ、客人である私たちを放っておいて全員いなくなる理由はない。

「ごほっ、ごほ……み、みず……」
「一気に食べてたからだよ。ほらこれ」
「うっ……せんきゅ……」

 ソルが自分のミルクが入ったグラスを渡し、シオンがミルクをぐびぐび飲み干す。その間に、私たちは椅子から立ち上がった。もはや朝食どころではない。
 シュノーは思いつめたような顔をしている。レノは不安そうに、シュノーにしがみついた。

「シュノー……フー、大丈夫だよな……?」
「…………」

 とはいえ、このまま何もわからないまま待っているのは嫌だ。
 私は意を決して、食堂の扉へ向かって駆け出した。

「ちょっ、ユキア!?」
「レノも行くのだ!」
「っ、シュノーも!」

 食堂の扉を開け放ち、シュノーとレノと一緒に館の廊下を走る。とにかく、フローリアさんに無事でいてほしかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...