ディバイン・レガシィー -箱庭の観測者-

月詠来夏

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第3章「海と大地の箱庭」

52話 箱庭の端

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 *

 翌日、私たち四人とアスタは、この街の港へとやってきた。
 朝食を食べてからしばらくして宿を離れたので、まだ昼前の時間帯だ。しかし、快晴の空の下を歩く者の数は多く、海にも随分と多くの観光客がいる。
 アスタが持っているお金を使い、私たちは一隻のボートを借りた。どうも魔法で動かすものではないらしく、何か機械のようなものがとりつけられていた。
 私やメア、シオンは全然使い方がわからなかったのだが、ソルが見様見真似で操作してみたら、普通に動かせた。初めは全然スピードも出ていなかったが、慣れていくうちに波しぶきが増していき、潮風が強く私たちを吹き付けてくるようになる。

「ヒャッホォォォォ!! 気持ちいいぃぃぃ!!」
「シオンうるさい!」

 両手を上げて大声で騒いでいる。完全に子供だ。
 メアは波しぶきがかかってこないか、心配そうに周囲を見回している。ソルは運転席に、アスタはソルの隣で操縦をアシストしている。
 なんで船の操縦方法なんて知ってるの、こいつ……。

「それにしても、箱庭の端とやらにはいつ辿り着くんだ?」
「もうすぐだと思うよー」
「さっきからそればっかりだよね。このスピードのまま突っ走って船が壊れたら、たまったもんじゃないんだけど」

 今のところ、進行方向を見ていてもそれらしいものは見えてこない。この辺りになってくると船の数も極端に少なくなり、なんとなく嫌な雰囲気が漂ってくる。
 そもそも、普通の生命にとっては箱庭の端というものはわかりづらいものなのだそうだ。どうやってそんなものを見つけるというのだろう。

「……あ、ユキ! ちょっとあっちに魔法撃ちこんでみて!」
「急すぎない!? 〈ルクス・ブラストレイズ〉!」

 アスタの言う通り、魔力を指先に集中させて前方に光線を放った。
 一見、光線は目標もなく突き進んでいくかと思えた。しかし次の瞬間────何もないはずの空気中に、光の波紋のようなものが大きく浮かび上がった。

「ソル、この辺りで船止めて!」
「ようやくか。よいしょっと……」

 浮かんだ波紋のすぐ近くになって、船がスピードを落としつつゆっくりと止まる。
 言われた通り止まったのはいいものの、周囲には果てしない海しかない。先程から感じていた「嫌な気配」がさらに強まっていた。
 アスタは席から立ち上がり、何の前触れもなく浮遊し、海上へと移動した。

「ねー、シオン。武器貸して?」
「は? まあ、いいけどよ……」

 戦斧を召喚し、アスタに手渡す。細い腕で軽々と斧を持ち上げ、波紋に向かって刃をぶつけた。
 すると、再び波紋が空間中に広がった。波紋が浮かぶ先には、確かに景色が続いている。なのに、そこから先はどうやっても行けないようだった。

「箱庭の端というのは、あらゆる物質を通さないようにできているんだ。人間のような普通の生命だと、まずこの辺り一帯には近づかない。って本能的に感じるんだよ」
「だから、この辺り一帯には船がいないのね」
「そういうこと。神であれば、箱庭の端に近づいてもなんとなく嫌な気配がするだけで、近づくこと自体はできる。でも、この波紋の向こうへ行くことはできない」

 実際に見ながら説明を聞くと、確かにわかりやすい気がする。
 だが……まだ解消しきれない疑問が一つだけある。

「じゃあ、クレーはどうやって私たちを箱庭から箱庭に連れ去ることができたの? あんただって、私のストーカーできてるじゃない」
「その秘密を今から見せてあげる」

 アスタはシオンに武器を返すと、再び波紋の近くへ浮遊していった。
 それから、波紋へと身を寄せていく。やがて、波紋とアスタの身体が溶け合っていき────姿が消えてしまった。

『────えええぇぇ!?』

 私たち四人、驚かずにはいられなかった。
 しかし姿を消してまもなく、再び波紋の中からアスタが顔を出した。恐ろしいことに、本人はけろっと笑っている。

「どう? ボクみたいに特殊な存在だと、こうやって端を通り抜けられるんだよー☆」
「ちょっと一体どうなってるの!? ここまでくるともはや世界の法則無視してるよね!? ずっと気になってたけどここで調べさせて!?」
「待て待てソル! 落ち着け!!」

 探求心が爆発したあまり船から身を乗り出すソルを、シオンが必死に押さえている。
 二人がじゃれ合っている間も、アスタは何回も箱庭の端を行ったり来たりする。特に箱庭を超えるのに制限はないみたいだ。
 話がひと段落したところで、船に戻ってきたアスタがソルの代わりに運転し始めた。

「確かに、アスタは特別だろうな。しかし、それならなぜクレーは箱庭を行き来できる?」

 方向転換して進み始めたところで、メアが問いかける。アスタは運転しながらも、メアへほんの少しだけ顔を向けた。
 もし、クレーが神でないとしたら、アスタのように何か特別なものを持っているのだろうか? しかし、キャッセリアの掟や事情を少なからず知っているようだったし、神でないとは考えにくい。
 奴自身にも隠されたものがあるみたいだ。

「クレーについては、ボクもわからないことが多いよ。でも同時に、向こうもボクを謎めいた奴だと思ってるはず。そこまで悲観的になる必要はないよ」
「こっちからしたら、お前ら全員意味不明野郎どもなんだがぁ!?」

 急に話に割って入ってきたシオンは、未だにアスタに近寄ろうとするソルを押さえ込んでいる。ここまで探求心が暴走しているとなると、治まるのはだいぶ後の話になりそうだ。

「ま、用事は終わったし一旦帰ろうかー。また街で情報収集しよう」

 方向転換し、操作レバーを引かれスピードが増す。そこからはあまり重要な会話をすることなく、地上が近づいてくるのをぼんやりと眺めていた。
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