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第3章「海と大地の箱庭」
55話 草原で情報共有
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観光地カナルを出て、広々とした草原に出る。街の外はびっくりするぐらい殺風景で、遠くには森や山といった自然ばかりが広がっている。
のどかな景色を見てゆったりしたかったが、レノはうずうずした様子で私の服の袖を引き、私の意識を現実に戻す。
「ゆっくりしている場合じゃないのだ、ユキ! シュノーを助けるのだ!」
「そ、それはそうだけど、状況がわからないよ。どうやってクレーから逃げてきたの?」
「ああ、それはぼくが説明するのです。レノから話は聞いたので」
セルジュさんは的確に私たちへ説明してくれた。
レノはシュノーによってクレーから逃がされ、セルジュさんを見つけて一緒に行動していたという。とにかく私たちと合流したくて、手当たり次第に街を見つけては探していたらしい。
合流したのが昨日の夜という話だから、早めに私たちを見つけられてよかった。本当にどうなることかと思っていたし……。
それと、セルジュさんはキャッセリアにおける魔物討伐部隊「魔特隊」の一員で、シュノーの直属の上司らしい。シオンとソルも「魔特隊」に属しているという話を聞いたことがあるから、セルジュさんと知り合いなのも納得がいく。
こう考えると、シュノーとシオンたちが初対面だったのは不思議な話だ。
「そういや、このちっちゃい子は誰なのだ? 迷子か?」
「迷子じゃない! ボクはアスタ! これでも小さいのは気にして────」
レノに頭を掴まれてぐりぐり回されていたアスタが、言葉の途中ではっと息をのむ。
「……誰か、レノの身体を調べることってできる?」
今度は何かと思えば、そう私たちに尋ねてきた。
私はそのような魔法を持ち合わせていない。
「どうしたの急に?」
「いいから。何かわかるかもしれない」
「こういうのって、ソルかメアが一番得意だよな」
「じゃあ、私がやろう。〈ノクス・イグザミネーション〉」
メアが手のひらをレノへかざし、魔法を行使する。紫色の魔力で刻まれた魔法陣がレノの足元に浮かび、頭上までゆっくり浮き上がっていき消えた。
レノの身体には何の変化もなく、本人も首を傾げている。
「メア、何したのだー?」
「お前の身体を調べさせてもらったんだ。でも、これは……」
「やっぱり、おかしいよね」
私たちには何もわからない。セルジュさんは不安な顔をするばかりである。
アスタとメアは互いに顔を見合わせてから、真剣な顔でレノを見た。
「レノ。キミの身体に、クレーの魔力が刻まれてるんだ」
「ええっ!? レノ、そんなの知らないのだ!」
「無理もないよ。本人には自覚できないくらい微弱なものだからね」
「どういうことなの、二人とも?」
メアがこちらに戻ってきて、事細かに説明してくれるらしい。魔法を行使した本人も、難しい顔をしていた。
「今のレノには、クレーによる魔法が施されている。アスタの言うとおり普段は微弱で影響は少ないが、この魔力が強まれば簡単に本人に干渉し得る」
「魔力が強まるのは、クレー側が魔法を強めたときとか?」
「ああ。前の箱庭で、レノが急に襲いかかってきたことがあっただろう。あれは恐らく、この微弱な魔力が関係している」
「そ、そんな恐ろしいことが……まったく気がつきませんでした……」
セルジュさんの場合は、無理もない。事件に巻き込まれたばかりだし。
私たちとレノが出会ったときは何もわからなかったが、一体いつからクレーの干渉を受けるようになったのだろう。そこまでは、メアの魔法ではわからなかったみたいだ。
「微弱な魔力が活性化されると、レノの身体から自由が奪われるわけだけど。その鍵となるのが、ボクたちも知る魔法なんだ」
アスタがレノを連れてこちらに戻ってきて、メアの話に補足する。未だにレノに頭をぐりぐり回されているが、平然と話を続けている。
「クレーの使ってきた魔法の中に、『イロウシェン・エングレイバー』ってものがあったでしょ? あれは他者の身体に干渉して、相手を思い通りに動かしたりする魔法。その効果がまだ続いているのかも」
「そうなのか? てっきり、敵の動きを止める魔法かと思ってたぜ」
「それもあながち間違いではない。相手によって効果を使い分けることができるタイプの固有魔法なんだろうね」
ソルやアスタの話で、ある程度は納得できた。
今まで戦ってきて知った通り、クレーは厄介な固有魔法をいくつも持っている。『イロウシェン・エングレイバー』はもちろんのこと、こちらの魔法をすべて封じ込む『エーテル・ヴォイダー』にも相当苦戦させられた。
何より防がなければいけないのは……人間たちを炭のように変え、崩壊させた魔法────『《Diabolic Lamentation》』。あれを受けたら確実に全滅する。
考えてみれば、気をつけるべき点があまりにも多すぎる。どうすれば犠牲を出さずに相手をねじ伏せられるだろうか……。
「とりあえず、解除とかしておいた方がいいだろ。ソル、お前の魔法で────」
「そんなことしてみろ。オレがソイツの身体を内側から爆破するぜ」
頭上から人影が降りてくる。黒い影と大きな鎌を持つ男……クレーだった。いつ私たちの居場所を突き止めたのだろう?
どこからともなく現れて警戒心を露わにした私たちは、一斉に武器を構えたりして身構える。
「はっ、犯人じゃないですか!! 魔特隊のみんなはどこへやったですか!!」
「あ? 全員魔物の餌食になったよ。シュノーはまだ生きているけどな」
「真っ黒仮面男! シュノーを返すのだ!! みんなをこれ以上苦しめるなら、レノが成敗してやるのだ!!」
クレーはこちらを冷ややかに見つめるだけで、攻撃を仕掛けようとはしてこない。
「自分が姉の足枷になってるってことを知らねぇから、そんなことが言えるんだよ」
「な……何を言ってるのだ……」
「知りたいか? それなら、この場所に来い」
懐から丸めた紙を取り出し、私へ投げつけてくる。紐をほどいて開くと、この箱庭の地図が描かれていた。
カナルから北東に移動した山脈付近に、赤い丸がついている。
「そこがオレたちの隠れ家だ。シュノーもそこにいる」
「……もう逃げる気はないのね?」
「どうせシュノーを取り返さない限り、オマエらも逃げる気はないんだろ? 今度こそ、本気で殺す」
そう言い残し、空の遠い彼方へと飛んでいった。
「待つのだ!!」
「レノ! 待ってください!!」
刀を構えたままクレーを追おうとするレノを、セルジュさんが止める。
「どうして止めるのだ、セル!!」
「一人じゃ危険です! レノは神幻術すら使えないんですよ、あいつに敵うわけないじゃないですか!!」
「そんなの関係ないのだ!! レノはシュノーを独りにしないって決めたのだ!!」
手を振りほどいて、たった一人でクレーを追っていってしまった。
誰もが黙り込んで、重たい空気が漂い始めた。
「セルジュさん、どういうこと?」
「あ……それは……」
はっとして、ばつが悪そうな顔になって言葉を失う。しばらく硬直していたが、首をぶんぶんと横に振って、レノの後を追い始める。
「おい、待てよセルジュ!!」
「っ、皆さんには関係ないことです! 忘れてください!」
……行っちゃった。
神幻術が使えないって、どういうことなのだろう。シュノーの妹なら、当然神幻術が使える年齢であるはずだ。私たちだって神幻術は大人の神となったときに発現しているのだから。
「とりあえず、考えてもきりがない。早く二人を追うよ」
私たちも、後れを取るわけにはいかないのだ。全員で二人の後を追った。
のどかな景色を見てゆったりしたかったが、レノはうずうずした様子で私の服の袖を引き、私の意識を現実に戻す。
「ゆっくりしている場合じゃないのだ、ユキ! シュノーを助けるのだ!」
「そ、それはそうだけど、状況がわからないよ。どうやってクレーから逃げてきたの?」
「ああ、それはぼくが説明するのです。レノから話は聞いたので」
セルジュさんは的確に私たちへ説明してくれた。
レノはシュノーによってクレーから逃がされ、セルジュさんを見つけて一緒に行動していたという。とにかく私たちと合流したくて、手当たり次第に街を見つけては探していたらしい。
合流したのが昨日の夜という話だから、早めに私たちを見つけられてよかった。本当にどうなることかと思っていたし……。
それと、セルジュさんはキャッセリアにおける魔物討伐部隊「魔特隊」の一員で、シュノーの直属の上司らしい。シオンとソルも「魔特隊」に属しているという話を聞いたことがあるから、セルジュさんと知り合いなのも納得がいく。
こう考えると、シュノーとシオンたちが初対面だったのは不思議な話だ。
「そういや、このちっちゃい子は誰なのだ? 迷子か?」
「迷子じゃない! ボクはアスタ! これでも小さいのは気にして────」
レノに頭を掴まれてぐりぐり回されていたアスタが、言葉の途中ではっと息をのむ。
「……誰か、レノの身体を調べることってできる?」
今度は何かと思えば、そう私たちに尋ねてきた。
私はそのような魔法を持ち合わせていない。
「どうしたの急に?」
「いいから。何かわかるかもしれない」
「こういうのって、ソルかメアが一番得意だよな」
「じゃあ、私がやろう。〈ノクス・イグザミネーション〉」
メアが手のひらをレノへかざし、魔法を行使する。紫色の魔力で刻まれた魔法陣がレノの足元に浮かび、頭上までゆっくり浮き上がっていき消えた。
レノの身体には何の変化もなく、本人も首を傾げている。
「メア、何したのだー?」
「お前の身体を調べさせてもらったんだ。でも、これは……」
「やっぱり、おかしいよね」
私たちには何もわからない。セルジュさんは不安な顔をするばかりである。
アスタとメアは互いに顔を見合わせてから、真剣な顔でレノを見た。
「レノ。キミの身体に、クレーの魔力が刻まれてるんだ」
「ええっ!? レノ、そんなの知らないのだ!」
「無理もないよ。本人には自覚できないくらい微弱なものだからね」
「どういうことなの、二人とも?」
メアがこちらに戻ってきて、事細かに説明してくれるらしい。魔法を行使した本人も、難しい顔をしていた。
「今のレノには、クレーによる魔法が施されている。アスタの言うとおり普段は微弱で影響は少ないが、この魔力が強まれば簡単に本人に干渉し得る」
「魔力が強まるのは、クレー側が魔法を強めたときとか?」
「ああ。前の箱庭で、レノが急に襲いかかってきたことがあっただろう。あれは恐らく、この微弱な魔力が関係している」
「そ、そんな恐ろしいことが……まったく気がつきませんでした……」
セルジュさんの場合は、無理もない。事件に巻き込まれたばかりだし。
私たちとレノが出会ったときは何もわからなかったが、一体いつからクレーの干渉を受けるようになったのだろう。そこまでは、メアの魔法ではわからなかったみたいだ。
「微弱な魔力が活性化されると、レノの身体から自由が奪われるわけだけど。その鍵となるのが、ボクたちも知る魔法なんだ」
アスタがレノを連れてこちらに戻ってきて、メアの話に補足する。未だにレノに頭をぐりぐり回されているが、平然と話を続けている。
「クレーの使ってきた魔法の中に、『イロウシェン・エングレイバー』ってものがあったでしょ? あれは他者の身体に干渉して、相手を思い通りに動かしたりする魔法。その効果がまだ続いているのかも」
「そうなのか? てっきり、敵の動きを止める魔法かと思ってたぜ」
「それもあながち間違いではない。相手によって効果を使い分けることができるタイプの固有魔法なんだろうね」
ソルやアスタの話で、ある程度は納得できた。
今まで戦ってきて知った通り、クレーは厄介な固有魔法をいくつも持っている。『イロウシェン・エングレイバー』はもちろんのこと、こちらの魔法をすべて封じ込む『エーテル・ヴォイダー』にも相当苦戦させられた。
何より防がなければいけないのは……人間たちを炭のように変え、崩壊させた魔法────『《Diabolic Lamentation》』。あれを受けたら確実に全滅する。
考えてみれば、気をつけるべき点があまりにも多すぎる。どうすれば犠牲を出さずに相手をねじ伏せられるだろうか……。
「とりあえず、解除とかしておいた方がいいだろ。ソル、お前の魔法で────」
「そんなことしてみろ。オレがソイツの身体を内側から爆破するぜ」
頭上から人影が降りてくる。黒い影と大きな鎌を持つ男……クレーだった。いつ私たちの居場所を突き止めたのだろう?
どこからともなく現れて警戒心を露わにした私たちは、一斉に武器を構えたりして身構える。
「はっ、犯人じゃないですか!! 魔特隊のみんなはどこへやったですか!!」
「あ? 全員魔物の餌食になったよ。シュノーはまだ生きているけどな」
「真っ黒仮面男! シュノーを返すのだ!! みんなをこれ以上苦しめるなら、レノが成敗してやるのだ!!」
クレーはこちらを冷ややかに見つめるだけで、攻撃を仕掛けようとはしてこない。
「自分が姉の足枷になってるってことを知らねぇから、そんなことが言えるんだよ」
「な……何を言ってるのだ……」
「知りたいか? それなら、この場所に来い」
懐から丸めた紙を取り出し、私へ投げつけてくる。紐をほどいて開くと、この箱庭の地図が描かれていた。
カナルから北東に移動した山脈付近に、赤い丸がついている。
「そこがオレたちの隠れ家だ。シュノーもそこにいる」
「……もう逃げる気はないのね?」
「どうせシュノーを取り返さない限り、オマエらも逃げる気はないんだろ? 今度こそ、本気で殺す」
そう言い残し、空の遠い彼方へと飛んでいった。
「待つのだ!!」
「レノ! 待ってください!!」
刀を構えたままクレーを追おうとするレノを、セルジュさんが止める。
「どうして止めるのだ、セル!!」
「一人じゃ危険です! レノは神幻術すら使えないんですよ、あいつに敵うわけないじゃないですか!!」
「そんなの関係ないのだ!! レノはシュノーを独りにしないって決めたのだ!!」
手を振りほどいて、たった一人でクレーを追っていってしまった。
誰もが黙り込んで、重たい空気が漂い始めた。
「セルジュさん、どういうこと?」
「あ……それは……」
はっとして、ばつが悪そうな顔になって言葉を失う。しばらく硬直していたが、首をぶんぶんと横に振って、レノの後を追い始める。
「おい、待てよセルジュ!!」
「っ、皆さんには関係ないことです! 忘れてください!」
……行っちゃった。
神幻術が使えないって、どういうことなのだろう。シュノーの妹なら、当然神幻術が使える年齢であるはずだ。私たちだって神幻術は大人の神となったときに発現しているのだから。
「とりあえず、考えてもきりがない。早く二人を追うよ」
私たちも、後れを取るわけにはいかないのだ。全員で二人の後を追った。
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