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第3章「海と大地の箱庭」
61話 狂気の氷刃、真正直の炎刃
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「はぁ……はぁ……、本当、容赦ないですね……」
セルジュさんを見つけたが、ひどい状態だ。呼吸がかなり荒れており、白いクロスボウを構えつつも膝をついて座り込んでいる。
「セル! ユキとメアが来てくれたのだ!」
「っ、レノ!! 逃げろと言ったじゃないですか! それにたった二人来たところで────」
言葉の途中で、とてつもない殺気が首筋を過ぎていった。間一髪のところで回避したので怪我はなかった。
薄暗い空間の中で、青白い刀身が僅かな光を照り返していた。
その気高き佇まいを、小さくも強い少女の面影を、ずっと探していた。
「……シュノー!!」
血の気のない、無機質な顔。心を失くしたあどけない瞳。
確かに、シュノーのものだった。けれど……私たちは知らない。
「な、なぜシュノーが私たちに刃を……!?」
「わからないです。クレーも気がついたらいなくなっていて、何が何だか────」
「『グレイシア・リージョン』」
洞窟内が冷気で満たされる。一瞬凍えそうになった私の前に、シュノーが躍り出るように突撃してきた。
「っ、シュノー!! 私だよ、ユキアだよ!!」
「無駄です! 今のシュノーにぼくたちの声は届かないです!」
咄嗟に剣を構え、刀を防ぐ。冷気の中なだけあって、基礎体力も魔力も上昇しているらしい。
彼女は永久庭園に封じられていた魔物にとどめを刺すほどの実力者。今のシュノーの目は、魔物に向けるときの冷たい目だ。
「シュノー、止まれ!」
メアが魔銃を構え、光線を何度も放つことで牽制してくれる。しかし、光線がシュノーを貫くことはなく、軽い足取りで避けられてしまう。
セルジュさんも、クロスボウでメアに加勢する。闇の光線と電撃の矢が交差し、いくつかがシュノーに掠った。
「痛くない……こんなもの」
抜き身に薄い光をまとい、冷気を生み出す。凍えるくらい冷えた刃を振りかぶり、メアとセルジュに向かって振りかざした。冷気は鋭い波動へと変貌し、二人を斬り裂いて傷口を凍らせた。
「ぐあっ!?」
「な、なんですかこれ……力が……」
「メア、セル!! 寝ちゃダメなのだ!!」
洞窟内の気温が著しく下がっていることも相まって、傷を受けた二人の顔から血の気が失われ、みるみる衰弱していく。最後にはその場に崩れ落ちてしまい、残されたのは私とレノだけになった。
「いい加減にして、シュノー!!」
「……なんのこと?」
「いいから大人しくして!! 〈ルクス・ブラストブレイク〉!!」
収束させた魔力を放ち、爆発させる。洞窟全体が大きく揺らされ、崩れた小岩がぱらぱらと降ってくる。周囲に奇妙な物体がいくつもぶら下がっているが、一つも落ちてくる気配はない。ひとまずは問題なさそうだ。
それよりも、この状況をどうにかして打破しないとけない。本当のシュノーは神に危害を加えたりしない。そもそも、こんなことがあり得るはずもないのに……!
「……ふふっ。やっぱり、シュノーは強い」
粉塵に隠れていた彼女には、傷一つついていない。周囲に冷気をまとった薄い光が漂っている。うまいこと防がれてしまったらしい。
命のやり取りをしているはずなのに、笑っている。光を失った黄緑の目を、極限まで見開きながら。
「エルザ。シュノー、強くなったよ。これでエルザの願い、叶ったよ」
知らない名前を呟きながら、狂気の宿った瞳でふらふら歩いてくる。剣を構え直し、狂ってしまったシュノーをまっすぐと見つめる。
人、というか……神って、狂ったらこうなるのかな。怖くて仕方がない。
「ねぇ、シュノー……私たちを裏切ったの?」
「裏切りも何も、シュノーは最初から独り。だから仲間も、裏切りもない。独りだから、そんなもの関係ない」
「……もう誰も犠牲にさせないって。庭園で言ったあの言葉は、嘘だったの?」
「どうでもいい。シュノーは、エルザの未練さえ果たせればそれでいいの!」
構え直した刀は冷え切り、刀身に触れた空気を凍らせていく。早く止めないと、レノもみんなも危ない。
私は〈ルクス・ガードサークル〉で防壁を張り、〈ルクス・ランスクラッド〉で剣に光をまとわせ強化する。これで一太刀でも防御できればいいのだが────
「もうやめるのだ、シュノー! ユキも!」
走り出そうとしたところで、レノの叫び声が響き渡った。シュノーの動きが止まり、刀を下ろす。
「レノ……」
向こうは、冷気をまとったままの刀の切っ先を下に向けた状態で佇んでいる。再び構える様子もない。私も、剣を構えるのをためらいそうになる。
だって、彼女は……苦しそうなのに、笑っていたのだから。
「……レノはやっぱり、いい子だね……」
「シュノー……?」
「やっぱり、シュノーにはできないよ……大事な妹だもん。エルザがいなくなってからも、独りになってからもずっと……レノだけが、心の拠り所だった……」
二人だけの秘密。二人だけの世界。それを二人の間で垣間見ている、部外者の私。いつも、こういうときばかり、無力感だけが募って虚しくなる。
目の輝きは消えたまま。しかし、大粒の涙があふれ伝っている。
刃がこちらに向けられ、再び身構える。最初よりも動きは鈍くなっている。
「だから、殺したくないよ。でも、身体も心も言うことを聞かないの。瞳に映るすべてを殺したくなってしまう。もうダメなの。おかしくなっちゃったんだよ、シュノーは」
「っ、シュノー!! 私たちが助けるから、そんな悲しいこと言わないでよ!!」
「ごめんね、ユキア。レノを守ってくれてありがとう。もう大丈夫。全部終わらせるから」
両手で刀を握り、刃を私たちから逸らす。そして、自らの華奢な胸へと、切っ先を突きつけた。
終わらせるって……そんなやり方、あんまりじゃないの……?
「苦しいよ……もう、生きたくないよ……エルザと同じところにいってもいいよね……? ねぇ、レノ……」
「────勝手に決めるな」
私の後ろに下がっていたレノが、冷たくそう呟いた。私の前に立ちふさがり、左手で桃色の刀を引き抜く。
そしてすぐに、自刃しようとしたシュノーへと飛びかかった。
「エルの形見で、レノたちの宝物で、消えようとするなっ!!」
「────!!」
冷気をまとった薄水色の刃に向かって、桃色がかった刃をぶつける。刃同士が火花を散らし、炎の魔力が溢れ出す。あっという間に、レノの刀は紅蓮の炎に包まれた。
「『フレイム・リージョン』っ!!」
凍り付くような空気で満たされていた空間に、熱風が吹き荒れる。冷たすぎる、暑すぎる温度が混ざり合い、相殺し合う。双子の魔法が同時に使われたことで、ちょうど普通に過ごしやすい気温に調整されていた。
今のうちに、メアとセルジュさんを安全な場所へ運ぶ。二人が目覚めるまで、そう時間はかからないだろう。それまで、剣を構えたまま双子の戦いの行く末を見守ることにした。
シュノーの繊細な戦い方に比べ、レノは力をそのまま叩きつけるような荒い戦い方だった。氷柱を生み出され、何本も一斉に放たれても、レノが魔法で一気に爆破する。追撃として
正反対の属性と戦法なのに、それでも力は互角。性格も能力も違えど、やはり二人はかけがえのない姉妹なのだ。
「レノはシュノーを二度と独りにはしないのだっ!! だから、だからっ、消えちゃいやなのだっ!!!」
「っ……!!」
本当の子供のように泣き叫ぶレノ。シュノーは明らかに動揺し、動きが鈍くなっていた。
「今度は、レノがシュノーを守るのだ!! 二人で一緒に強くなって、この世界を守るのだ!!!」
叫びに呼応するように、薄桃色の刀身から炎が噴き出す。レノの身体があっという間に炎に包まれて、私もシュノーも驚くことしかできなかった。生命を焼き殺すような炎ではない、優しい灯火にも見えた。
レノはそのまま、シュノーに抱き着いた。普通だったら、そのまま二人一緒に焼け死んでしまいそうだった。
「えっ……レノ……?」
シュノーの瞳に、光が戻っていく。安心しきって、シュノーの胸の中に顔を埋めている。
何が起きているのかわからなくて、頭がこんがらがりそうだ。
セルジュさんを見つけたが、ひどい状態だ。呼吸がかなり荒れており、白いクロスボウを構えつつも膝をついて座り込んでいる。
「セル! ユキとメアが来てくれたのだ!」
「っ、レノ!! 逃げろと言ったじゃないですか! それにたった二人来たところで────」
言葉の途中で、とてつもない殺気が首筋を過ぎていった。間一髪のところで回避したので怪我はなかった。
薄暗い空間の中で、青白い刀身が僅かな光を照り返していた。
その気高き佇まいを、小さくも強い少女の面影を、ずっと探していた。
「……シュノー!!」
血の気のない、無機質な顔。心を失くしたあどけない瞳。
確かに、シュノーのものだった。けれど……私たちは知らない。
「な、なぜシュノーが私たちに刃を……!?」
「わからないです。クレーも気がついたらいなくなっていて、何が何だか────」
「『グレイシア・リージョン』」
洞窟内が冷気で満たされる。一瞬凍えそうになった私の前に、シュノーが躍り出るように突撃してきた。
「っ、シュノー!! 私だよ、ユキアだよ!!」
「無駄です! 今のシュノーにぼくたちの声は届かないです!」
咄嗟に剣を構え、刀を防ぐ。冷気の中なだけあって、基礎体力も魔力も上昇しているらしい。
彼女は永久庭園に封じられていた魔物にとどめを刺すほどの実力者。今のシュノーの目は、魔物に向けるときの冷たい目だ。
「シュノー、止まれ!」
メアが魔銃を構え、光線を何度も放つことで牽制してくれる。しかし、光線がシュノーを貫くことはなく、軽い足取りで避けられてしまう。
セルジュさんも、クロスボウでメアに加勢する。闇の光線と電撃の矢が交差し、いくつかがシュノーに掠った。
「痛くない……こんなもの」
抜き身に薄い光をまとい、冷気を生み出す。凍えるくらい冷えた刃を振りかぶり、メアとセルジュに向かって振りかざした。冷気は鋭い波動へと変貌し、二人を斬り裂いて傷口を凍らせた。
「ぐあっ!?」
「な、なんですかこれ……力が……」
「メア、セル!! 寝ちゃダメなのだ!!」
洞窟内の気温が著しく下がっていることも相まって、傷を受けた二人の顔から血の気が失われ、みるみる衰弱していく。最後にはその場に崩れ落ちてしまい、残されたのは私とレノだけになった。
「いい加減にして、シュノー!!」
「……なんのこと?」
「いいから大人しくして!! 〈ルクス・ブラストブレイク〉!!」
収束させた魔力を放ち、爆発させる。洞窟全体が大きく揺らされ、崩れた小岩がぱらぱらと降ってくる。周囲に奇妙な物体がいくつもぶら下がっているが、一つも落ちてくる気配はない。ひとまずは問題なさそうだ。
それよりも、この状況をどうにかして打破しないとけない。本当のシュノーは神に危害を加えたりしない。そもそも、こんなことがあり得るはずもないのに……!
「……ふふっ。やっぱり、シュノーは強い」
粉塵に隠れていた彼女には、傷一つついていない。周囲に冷気をまとった薄い光が漂っている。うまいこと防がれてしまったらしい。
命のやり取りをしているはずなのに、笑っている。光を失った黄緑の目を、極限まで見開きながら。
「エルザ。シュノー、強くなったよ。これでエルザの願い、叶ったよ」
知らない名前を呟きながら、狂気の宿った瞳でふらふら歩いてくる。剣を構え直し、狂ってしまったシュノーをまっすぐと見つめる。
人、というか……神って、狂ったらこうなるのかな。怖くて仕方がない。
「ねぇ、シュノー……私たちを裏切ったの?」
「裏切りも何も、シュノーは最初から独り。だから仲間も、裏切りもない。独りだから、そんなもの関係ない」
「……もう誰も犠牲にさせないって。庭園で言ったあの言葉は、嘘だったの?」
「どうでもいい。シュノーは、エルザの未練さえ果たせればそれでいいの!」
構え直した刀は冷え切り、刀身に触れた空気を凍らせていく。早く止めないと、レノもみんなも危ない。
私は〈ルクス・ガードサークル〉で防壁を張り、〈ルクス・ランスクラッド〉で剣に光をまとわせ強化する。これで一太刀でも防御できればいいのだが────
「もうやめるのだ、シュノー! ユキも!」
走り出そうとしたところで、レノの叫び声が響き渡った。シュノーの動きが止まり、刀を下ろす。
「レノ……」
向こうは、冷気をまとったままの刀の切っ先を下に向けた状態で佇んでいる。再び構える様子もない。私も、剣を構えるのをためらいそうになる。
だって、彼女は……苦しそうなのに、笑っていたのだから。
「……レノはやっぱり、いい子だね……」
「シュノー……?」
「やっぱり、シュノーにはできないよ……大事な妹だもん。エルザがいなくなってからも、独りになってからもずっと……レノだけが、心の拠り所だった……」
二人だけの秘密。二人だけの世界。それを二人の間で垣間見ている、部外者の私。いつも、こういうときばかり、無力感だけが募って虚しくなる。
目の輝きは消えたまま。しかし、大粒の涙があふれ伝っている。
刃がこちらに向けられ、再び身構える。最初よりも動きは鈍くなっている。
「だから、殺したくないよ。でも、身体も心も言うことを聞かないの。瞳に映るすべてを殺したくなってしまう。もうダメなの。おかしくなっちゃったんだよ、シュノーは」
「っ、シュノー!! 私たちが助けるから、そんな悲しいこと言わないでよ!!」
「ごめんね、ユキア。レノを守ってくれてありがとう。もう大丈夫。全部終わらせるから」
両手で刀を握り、刃を私たちから逸らす。そして、自らの華奢な胸へと、切っ先を突きつけた。
終わらせるって……そんなやり方、あんまりじゃないの……?
「苦しいよ……もう、生きたくないよ……エルザと同じところにいってもいいよね……? ねぇ、レノ……」
「────勝手に決めるな」
私の後ろに下がっていたレノが、冷たくそう呟いた。私の前に立ちふさがり、左手で桃色の刀を引き抜く。
そしてすぐに、自刃しようとしたシュノーへと飛びかかった。
「エルの形見で、レノたちの宝物で、消えようとするなっ!!」
「────!!」
冷気をまとった薄水色の刃に向かって、桃色がかった刃をぶつける。刃同士が火花を散らし、炎の魔力が溢れ出す。あっという間に、レノの刀は紅蓮の炎に包まれた。
「『フレイム・リージョン』っ!!」
凍り付くような空気で満たされていた空間に、熱風が吹き荒れる。冷たすぎる、暑すぎる温度が混ざり合い、相殺し合う。双子の魔法が同時に使われたことで、ちょうど普通に過ごしやすい気温に調整されていた。
今のうちに、メアとセルジュさんを安全な場所へ運ぶ。二人が目覚めるまで、そう時間はかからないだろう。それまで、剣を構えたまま双子の戦いの行く末を見守ることにした。
シュノーの繊細な戦い方に比べ、レノは力をそのまま叩きつけるような荒い戦い方だった。氷柱を生み出され、何本も一斉に放たれても、レノが魔法で一気に爆破する。追撃として
正反対の属性と戦法なのに、それでも力は互角。性格も能力も違えど、やはり二人はかけがえのない姉妹なのだ。
「レノはシュノーを二度と独りにはしないのだっ!! だから、だからっ、消えちゃいやなのだっ!!!」
「っ……!!」
本当の子供のように泣き叫ぶレノ。シュノーは明らかに動揺し、動きが鈍くなっていた。
「今度は、レノがシュノーを守るのだ!! 二人で一緒に強くなって、この世界を守るのだ!!!」
叫びに呼応するように、薄桃色の刀身から炎が噴き出す。レノの身体があっという間に炎に包まれて、私もシュノーも驚くことしかできなかった。生命を焼き殺すような炎ではない、優しい灯火にも見えた。
レノはそのまま、シュノーに抱き着いた。普通だったら、そのまま二人一緒に焼け死んでしまいそうだった。
「えっ……レノ……?」
シュノーの瞳に、光が戻っていく。安心しきって、シュノーの胸の中に顔を埋めている。
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