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第5章「神々集いし夢牢獄」
92話 カフェでの甘いお祝い
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快晴の昼下がり。神隠し事件の終結から、今日で一か月が経った。
あれからは本当に平和な毎日が続いており、だんだん平和ボケが始まりそうになっていた。
今日は、繁華街にただ一つ存在するカフェを貸し切り、パーティーを開催している。集まったのは私、メア、シオン、ソル、アスタ、ノイン、アルバトス、ステラ、シュノー、レノ。
店の中のテーブルや椅子をかき集め、一人を上座に座らせた。盛大に祝いたいことがあったからだ。
『メア、退院おめでとうー!』
行事を始める合図として、参加者全員でクラッカーを鳴らし、私の親友の退院を祝った。当の本人は目をぱちくりさせており、それからしばらくして、頬を赤く染めた顔を綻ばせる。
「あ、ありがとう……こんなに祝ってもらえるとは思わなかった」
「メアも大変だったってことは、シュノーたちも聞いた。祝わないわけがない」
「そうなのだ! メアもレノたちの大事なトモダチなのだ!」
照れくさそうに俯いたが、笑みはしばらく消えない気がしている。シュノーもレノも、メアが黒幽病に罹患したことを知ったときはかなり驚いた上、ショックを受けていた。こうして無事に退院できたことを知ったときは、ぜひ一緒に祝わせてほしいと懇願されてしまったが、了承しない理由はなかった。
「いやー、本当によかったよ。ようやく元の日常が戻ってきたって感じだね」
「そうですね。よかったですね、ステラ様」
「うん! またみんなで一緒に遊びたいね!」
私の隣に座るアスタのさらに隣には、ノイン、アルバトス、ステラが並んで座っていた。ノインは既に頼んであったクリームソーダを飲み干そうとしている。他のみんなはまだいっぱい残っているというのに。
「メアちゃん、久しぶり! ご無沙汰だね」
私たちの席に、一人の神が歩いてきた。ワイン色が基調の制服を着ている、赤茶色のポニーテールと赤目が特徴的な笑顔を絶やさない女性だ。両手で真っ白なホールケーキを抱えている。
「久しぶり、トルテさん」
「ユキアちゃんも久しぶりね。これ、あたしからのお祝いよ」
女性──トルテさんが、メアの席の前にそのホールケーキを置いてくれた。メアだけでなく、私たちも目が釘付けになった。
というのも、トルテさんの作るケーキはキャッセリアの中で最も美味しい絶品と言われているのだ。特にホールケーキは一番人気で、競争率が高くなかなかお目にかかれない。
「メアちゃん、色々大変だったって聞いたわ。ユキアちゃんやみんなのためにも、自分を大切にしてね」
「そ、そうだったのか? ありがとう……トルテ」
トルテさんはカフェ店員を務める神で、戦いとは無縁だ。今回メアの身に何があったのかは詳しく知らない。そんな中でも、こうやって祝ってくれるのだから、本当にありがたい。
トルテさんは一度礼をしてから、厨房の方へ戻っていく。それから、あらかじめ頼んでいたデザートが次々と運ばれてきた。パンケーキやプリン、カップケーキにガトーショコラ……あらゆるデザートで十人が座るテーブルが一気に埋め尽くされる。
「あっ、プリンなのだ! 美味しそうなのだー!」
「レノ、まだ食べちゃダメだよ」
レノの手のひらよりも大きなプリンに手を伸ばしかけるも、シュノーにたしなめられ止められてしまっている。
微笑ましいなぁ、と勝手に思っていると、すぐ横からも似たような感嘆の声が聞こえてきた。
「わぁっ、美味しそう! これ、ボクも食べていいの!?」
「ちょっとは遠慮しなさいよ。あくまでもメアのお祝いなんだから」
「いいよユキア。私はこのホールケーキだけで充分だ。アスタは前から世話になっているし、好きなだけ食べるといい」
微笑みかけるメアに「ありがとう!」と笑い返すアスタ。この二人も今となってはほとんどわだかまりがなくなって、私としてもかなり気楽になった。やっぱり、みんな仲が良いのが一番だ。
ふと、トルテさんは私の隣に目を向ける。
「あれ? あなた、見ない顔ね?」
「え? あ、えっと……」
デザートに目を輝かせていたアスタが、トルテさんの視線に気づき気まずそうに顔を逸らす。
「あ、この子は私の友達なの! 普段あんまりカフェに来ないから……」
「そうなのね。あたしはトルテ。このカフェで働いているから、よかったらいつでも遊びに来てね」
私が慌ててフォローを入れたおかげで、あまり怪しまれずに済んだようだ。
そんなこんなで、お祝いパーティーが幕を開けた。甘い匂いに包まれながらのお祝い。ここまで大盤振る舞いでやるのも珍しい。
……ていうか、冷静に考えるとある疑問に気づいてしまった。メアの手前、あまり言いたくはなかったけれど────
「ねぇ、シュノー。こんな豪勢な料理に出すお金どこから出てきたの?」
「シュノーはお祝いをある程度渡しただけだよ。あれだけじゃこんなには頼めないはずだけど」
向かいに座っている出資者(?)に聞いてはみたが、彼女だけではないらしい。
そこに、ふっふっふという不敵な笑い声が聞こえてきた。こんな調子に乗った笑い方をするのは、一人だけだ。
「実はな……今回のパーティーの出費は、大半がオレだ」
「はぁ!? そんな魔法みたいな……あっ、まさか『ユニヴァ・クリエイツ』で────」
「失礼な!! ちゃんと正式な方法で稼いだわ!!」
魔法じゃないなら、地道に魔物を討伐して稼いだ……ということ? 確かに、魔特隊に所属する者は頻繁に魔物を倒している代わりに、他の神より高めの収入を得ているという話は聞いたことがある。
この間まで、ミラージュさんの屋敷の弁償に苦しんでいたシオンが、半月近くという短期間でどうやって金を稼いだというんだ……?
ここで、シオンが仁王立ちになる。
「聞いて驚け。この度、シオン・エタンセルは……魔特隊第三小隊の隊長に抜擢されたんだぜーっ!!」
人差し指を天井に突き立てて、あーっはっはっはと高らかに笑いながら宣言する。ステラとレノは拍手をしてわーっと褒めるものの、それ以外は言葉を失ってしーんと静まり返ってしまった。
……なんでシオンみたいなバカが隊長に選ばれてんの? 失礼だけど、何かの間違いじゃない?
「お、おい。なんでこんなに反応わりぃんだよ?」
「いや、だってシオンだよ? ねぇ……?」
「よくやったというべきなのか……?」
「色々と偶然が重なったんだと思う。先の事件の影響で、魔特隊もかなりの隊員が入れ替わってるし」
「ボク、まだこの箱庭のシステムについてよくわかってないんだけど……すごいことなの?」
「あたしそういうの興味なーし」
「誰が決めたんだ? なんというか……大丈夫なのか?」
私たち幼なじみ組の世話神の立場であるノインとアルバトスでさえ、反応が薄いというかひどい言い様だった。それほどシオンの人望はなかったということである。
そんな中、シュノーは「おー」と感嘆しつつ、ニヤリと笑ってみせた。なんか、ちょっと怖い。
「まあ、やるね。でも、まだまだシュノーには及ばない」
「んだと!? すぐにでも追い越してやるよ、チビ女!!」
「やれるもんならやってみろっての。寝ぐせ男め」
まさかの挑発だった。シュノーなりの鼓舞と見ればいいのだろうか……?
その後も、シオンはシュノーにやたらと噛みついては軽くあしらわれていた。相変わらず、変な仲だな。こんな賑やかで退屈しない日常が、今となっては当たり前になりつつあった。
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