ディバイン・レガシィー -箱庭の観測者-

月詠来夏

文字の大きさ
121 / 276
第6章「最高神生誕祭」

119話 どこで鍛錬しよう?

しおりを挟む
 宮殿の中も、祭りの準備で慌ただしい様子であった。入口からエントランスホールに向かい、二階への螺旋階段を上る。アイリスの部屋の付近に大きな部屋があるのだが、白を基調とした金の魔法陣を模した紋章が描かれた旗が飾られている。そこが、魔特隊の本部となる部屋だ。
 私はアスタと一緒にその部屋へ向かうところだった。

「む? ユキア、ここで何をしておるのじゃ」
「げっ」

 古めかしい口調の幼い声に、恐る恐る振り返る。長ったらしいストロベリーブロンドと、桃色のドレスの幼女……もといアイリスが私たちの後ろに立っていた。後ろには、なんかニヤニヤしているアリアも立っていた。

「あっ、アスタだ! 遊ぼ!」
「ちょっとアリア、何考えてんの!」
「ユキア? な、なんでもないよ?」

 少なからず手を出す気だったのか、目が泳いでいる。
 しかし、アスタ本人はアリアの発言を気に留めている様子はなく、アイリスの方を不機嫌そうな顔で見据えていた。

「キミこそ何してるのさ、アイリス。今日はキミに用はないよ」
「なぬっ!? アスタ……聞いたぞ、最近爺様にちょっかいをかけたんじゃろう!? どこまで無礼なんじゃ!」
「ちょっかいじゃないもん、気に食わないことを言われたから腹が立っただけだもん!」
「お主の方が余計なことを言ったからではないのかえ!? おまけにあの場所に忍び込みおって……!!」
「あーもう、アイリス様落ち着いて」

 アスタとアイリスがギャーギャーと喚きながら喧嘩を始めた。顔が真っ赤なアイリスを、アリアが押さえている。
 この二人、メアの事件のときに初めて会って、それ以来はあまり顔を合わせていなかった気がするのだが。なんでこんなくだらない言い合いができるのだろう。

「妾はこれでも最高神なのじゃぞ、もっと敬意を示さんか!」
「やだよ! ボクはキミじゃなくて、初代最高神しか尊敬してないから! キミはちっちゃい子供にしか見えないんだよね~」
「お主……やはり不敬じゃ! クリムに頼んで刑罰を与えてもらうわい!!」
「クーは関係ないでしょ! そこは自分でやりなよ!」

 ……くだらない喧嘩はまだ続いていた。さすがに鬱陶しく感じてきた。
 そこで、私たちの前の両開き扉が勢いよく開け放たれた。緋色の長髪が舞い踊り、怒号が飛び出してきた。

「お前らさっきからうるせーんだよっ!! ちょっとは静かにしろ────って、アイリス様!?」
「す、すまぬなティアル……仕事中だったかの」

 魔特隊の本部から出てきたティアルは、いつも通り鎧の姿だった。平常時くらいは別の格好で仕事すればいいのに。
 アイリスまで喧嘩に参加しているとは思わなかったのか、呆気にとられた顔でうなだれていた。

「はぁ……すみません。っていうか、なんでそいつと喧嘩してたんですか」
「色々と事情があったのじゃよ! それよりユキアよ、もしやティアルたちに用事があったのではないかえ? 早く済ませるがよい」

 遅れたのはあんたたちが原因だろうが、という恨み言は引っ込めて、本題にさっさと入ってしまおう。
 私たちは本部である部屋の中に招き入れられる。総指揮官であるティアル専用のテーブルに椅子、他には部屋の外に飾られていたのと同じ魔特隊の紋章の旗が設置されている。
 ティアルの他に、魔特隊に所属する一般神が何人か駐在していた。顔見知りはいなさそうだ。ティアルは席につき、他の一般神たちに仕事に行くよう告げた。部屋には私たち二人、なぜかついてきたアイリスとアリアが残る。
 
「それで、どういう用事だ? 忙しいから手短に頼むぜ」

 私はここに来た理由を話す。ティアルはこくこくと頷きつつ、私の話を遮ることなく聞いてくれていた。立場が私よりも遙かに上なのに、こうして平等に話を聞いてくれるのは本当にありがたいことだ。

「ほーん、なるほどねぇ。強くなりたいから鍛錬させてほしいと……そんなら魔特隊に入ればいいじゃねぇか」
「いや、それとこれとは話が別だから無理。人手不足なのはわかってるけど」
「ま、そうなるよなー。別に無理して入ることはねぇよ。何しろ危険が多すぎるからな」

 どこか苦々しい笑みを浮かべるティアルの言葉。ここ最近の事件がなかったら、私はこの言葉の意味を理解できなかったと思う。

「ほう、鍛錬とな。妾も付き合おうか? ちょうど仕事も一段落したところじゃからな」
「ちょっ、何言ってるんですか! 私はともかく、アイリス様は安静にしてないとダメですよ!」
「失礼な! 妾も昔は魔物とやり合ってたのを忘れたかえ!?」
「だ、だってアイリス様、発作は大丈夫なんですか……!?」

 アリアは必死に止めようとしていたが、アイリスはなぜかやる気満々のようだ。
 というか、今不穏な言葉が聞こえたような……?

「アイリスは手を出さないで! ユキは自分で強くなるんだから!」
「なんでお主が反発してくるんじゃ……まあよい、どうせならアリアに稽古をつけてもらうのはどうじゃ?」
「あっ、そっか。昔みたいにまた剣術教えてあげよっか?」
「何勝手に話進めてんの!?」

 私やアイリスたちで色々話している中、ティアルは少し考えたあと、ぱんっと手を強く叩いて顔を上げた。

「あっ、そうだ。正式に入隊はしなくていいから、一時的に任務に参加するのはどうよ」
「一時的にって……それっていいの?」
「知ってるだろ? 神隠し事件があってから、めっきり戦闘員が減ったから、今進行中の任務で人手不足のところが結構あってな。それを手伝ってほしいんだ」
「……それで身体を鍛えられるの?」

 ちっちっち、とティアルが人差し指を立てて見せた。

「魔特隊の任務はハードだぜ? 舐めてかかると痛い目見るぞ」
「えぇ……死なないかなぁそれ」
「ユキ、やってみたらいいと思うよ。実戦経験は多いに越したことはないからね」

 うーん、アスタの言う通りだとは思う。ハードな任務を積み重ねているうちに身体も慣れるかもしれないし。

「あっそうだ。アスタ、お前も魔特隊の任務手伝え」
「ええっ、なんでボクも!?」
「いや、冷静に考えてみろよ。お前、ユキアの家に住まわせてもらってるんだから、ちょっとはキャッセリアに貢献してくれたっていいだろ? それにめっちゃ強いって聞いたし、手伝ってもらえば溜まってる任務が大体片付きそうだしな!」
「それっていいように利用しようとしてない!? ボク、毎日ユキのご飯作ってるのにぃー!」

 ……なんかアスタが泣き言を言っている気がするけど、放っておこう。多少酷使しても死ぬことはなさそうだし。
 私のこれからやることが決まったところで、アイリスが残念そうな顔でティアルの方へ近づいた。

「むぅ……今ちょうどアリアが暇してるところだったんじゃが。結局剣術は稽古せんのか」
「まあまあアイリス様。本人なりに鍛錬の計画があるなら、それに準じてやるのが一番ですよ。アリアとユキアじゃ使う武器種が異なりますし、今ならもっといい師がいるかもしれませんし」
「えー、私の前でそれ言っちゃうのティアル? 失礼にも程があるよ?」
「だって事実だろー。それに戦い方とかパワーバランスも考えると、腕っぷしが強いお前よりも適任がいるだろ?」
「うーん、それを言われちゃうとねぇ……」

 アリアは私が幼い頃、アイリスによって私の剣術の稽古をつけるように言われそれに従った。ついでに言うと、私がアーケンシェンと少し繋がりがあるのはそれが発端だった。
 剣術をもう少し洗練させるなら、私もアリアではなく別の神から教わる方がいいと思っている。アリアは両手剣で、私は片手剣。同じ剣でも扱い方が違う。
 つまり、新たに剣術の稽古をするなら、同じ片手剣使いが望ましいのだけど……。

「まっ、まずは基礎体力からって話だからな。ユキア、アスタ、私についてこい!」
「ちょっ、引っ張らないでよ!?」

 ティアルが私たちの手を掴んで、一気に部屋から飛び出した。そこから宮殿を走り出るのに、ちょっとまばたきを繰り返すほどしか時間はかからなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...