ディバイン・レガシィー -箱庭の観測者-

月詠来夏

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第6章「最高神生誕祭」

134話 甘美に溺れる

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 *

 しばらく繁華街を回った後、シオンとソル、それからステラとも無事に合流できた。私たち六人は、トルテさんのカフェの列に並んでいる。最後尾は、私たちの遙か後ろの方で、私たちはもう入口目前だ。

「ケーキ、もうすぐだね! アルトも来られればよかったんだけどな~」
「仕方ないよ。レノがノインとアルバトス連行してどこか行ったんだから」
「腹減ったぁ~。早く食いてぇ~」
 
 ステラの隣にはいつもアルバトスがいるはずなのに、今日はいない。アルバトスがみっともなく泣きながら、ノインとともにレノに引きずられていったらしい。そこでシオンとソルがやってきたらしいので、ステラは二人と一緒に行動している。それから、私たちと祭りを回ることになったわけだ。
 ちなみに、シュノーは繁華街の屋台で自作の漫画を売りさばいていた。内容がちょっと私には合わなかったから買ってはいないけれど。
 
「むぅー。ユキ、結構並んでるのにまだ食べられないのー?」
「仕方ないでしょ、トルテさんのスイーツ人気なんだから。というか、あとちょっとで店入れるじゃない」

 カフェの入り口手前まで、私たちの前に二人立っている。どちらも女の子で知り合い同士らしく、限定スイーツの話をしている。
 またしばらく待っていると、カフェのドアが開いて中から女性が出てきた。女の子たちは黄色い叫びに近い声を上げながら、女性と入れ替わるような形でカフェに入っていった。
 カフェから出てきた女性は満面の笑顔を浮かべており、少し顔を赤くさせながら私たちの横を通り過ぎる。

「……ユキア。限定スイーツ、もしかして酒でも入ってるんじゃないか」

 メアの耳打ちに、私はすれ違った女性に目を向けた。顔は赤かったけれど、特に酒の匂いはしなかった。
 それに、私はお菓子用の酒は別に嫌いではない。許容量以上入っていたら食べるのは躊躇するが、トルテさんはその辺りのプロフェッショナルだから信頼している。
 女の子たちが入って列が短くなったので、出入り口前に詰めて開くのを待つ。詰めてすぐに扉の鈴の音が響き渡り、見知った人物が出てきた。

「あらー、あんたたちも来てたの」
「あ、オバサン」
「なんですってこのガキンチョ!?」

 会うのはメアの事件以来だ。さっきの女性のように顔を赤くさせたミラージュさんが、カフェから出てきたのだ。シオンに目くじらを立てたと思ったら、すぐにコホンと咳払いをして微笑みを浮かべた。

「普段ここにはあまり来ないんだけど、限定スイーツなかなか美味しかったわよ。あんたたちもそれが目的なんでしょ? 後ろがつかえてるし、早く入っちゃいなさい」

 そう言ってスタスタ歩いて行ってしまった。あまりにも早く去っていったので呆気にとられていると、カフェから数人の神たちが出てきた。今度は知らないひとたちだったが、みんな顔が赤くて気が大きくなっているように見えた。

「ミラージュがあんなに機嫌よさそうにしているの、久々に見たな……」
「あのひと、いつも不機嫌そうだもんね。ちょっと期待しようかな」

 メアとソルの言う通り、ミラージュさんはちょっと怖いひとだと思っていたのに、今日はとても元気そうだった。スイーツにますます期待を寄せてしまう。
 そんな中、アスタだけは難しい顔をしていた。さっきまで、あんなにスイーツを楽しみにしていたのに。

「アスタ、どうしたの?」
「ミラージュや他の客から、何か変な気配を感じたんだ。すごく微弱なんだけど、違和感があって」
「さすがに気のせいじゃないの?」
「それならいいんだけど。うーん」

 とりあえず、順番が来たのでカフェに入る。
 カフェの中は至って普段通りだった。いつもと違う点があるとするなら、席がほとんど埋まってしまっているという点と、カウンター席に限定スイーツのサンプルが置かれている点だった。
 限定スイーツはホールケーキのようだった。薄ピンク色のクリームに包まれている上に、紫の花弁が添えられている。限定スイーツの横に、黄色い花が入れられた花瓶が置かれていた。

「いらっしゃいませ! 六名様ですね。空いている席の都合上、離れて座っていただくことになりますが、よろしいでしょうか?」

 トルテさんではない女性店員が、忙しそうな中で走りながら私たちの前に現れた。
 見た感じ、空いているのはカウンター付近のテーブル席と、窓際のテーブル席だ。お互いの顔が見えて手を振るくらいしかできなさそうなくらい離れているが、それ以外の席はみんな埋まっている。

「んー、しゃあねーなぁ。オレとソルは一緒に座るけど、ステラどうする?」
「わたし、ユキアおねーちゃんたちと座ってもいい?」
「わかった。じゃあ、僕たちは窓際の席で」
「かしこまりました! それでは席へどうぞ」

 シオンとソルは店員に指し示され、窓際の方へ歩いていった。私とメア、アスタ、ステラでカウンター付近のテーブル席へ向かった。私の横にアスタが座り、メアとステラが隣になってこちらと向かい合うような形で座る。
 それからすぐに、さっき案内してくれた店員がオーダー表を片手にやってきた。

「ご注文はなんでしょうか?」
「えっと、限定スイーツ四つで!」
「かしこまりました。少々お待ちください」

 ステラが指で四を示してすぐ、店員は厨房へ突っ走っていった。
 カフェ内はいつも以上に甘い匂いに包まれており、この空間にいるだけで胸やけを起こしそうだった。こんなに甘い匂いする場所だったっけ、とぼんやり思う。
 アスタは席から身を乗り出して、厨房のある方向をチラチラ見るばかりだった。

「ねぇーユキー、ちょっと厨房に行ってみない?」
「は? あんた何非常識なこと考えてんの」
「だって気になるんだもん! それにトルテはどこに行ったのさ!?」
「厨房で限定スイーツを作っているんじゃないのか。レシピは彼女が考えたんだし」

 メアの言う通り、トルテさんはお菓子作りで忙しくて出てこられないみたいだ。会えたら新しいコスチュームのお礼をしたかったのだけど、この調子じゃ今日明日で直接会える機会はごく限られていそうだ。
 悶々とした感情を隠せていないアスタを見てか、ステラがパッと何かひらめいたような顔を見せる。

「それなら、お菓子作りの見学を装えばいいんだよ! わたしも一緒に行けば、きっと厨房の中見せてもらえるよ」
「さ、さすがにそれは危険だよ!」
「ふぇ? どうしてお菓子作りの見学が危険なの?」

 当然の疑問だ。普通なら、お菓子作りが危ないものだなんて思わない。ステラが首を傾げてしまったので、アスタは慌てて苦笑いした。

「だ、だよね~。ケーキ作りが危険なわけないよね、あはは」
「ちょっと覗くだけなら大丈夫だよ! 怒られる前に戻ろう」
「そうだね、そのくらいにしておこっか。じゃあ行こう」

 アスタとステラが立ち上がり、厨房の方へと歩いていった。行かないという選択肢はないのか、と思ったけど、すぐに戻ってくるなら大きな問題にはならないだろう。
 甘い匂いが鬱陶しくなりつつあったとき、誰かが私たちのいるテーブル席の前にやってきた。見慣れた白い翼と、アッシュブロンドの短い髪が目に入る。

「あれ、クリム? あんた並んでたの?」
「ううん、裏から店員に入れてもらったんだ。僕は調査を頼まれてきたんだよ」
「調査って、何かあったのか?」

 メアの問いにすぐ答えることはせず、少し間を置いてから事情を説明してくれた。

「非常に言いにくいんだけど……どうも、ここの限定スイーツを食べたひとがおかしくなっているらしいんだ」
「えっ。それって、みんな顔が赤くなって陽気になってるみたいな感じ?」
「ユキアは気づいてたのかい?」
「まあ、それ以上はよくわからなかったんだけど」
「そうなんだ。他の席の神たちにも話をしようとしたんだけど、誰もきちんと聞いてくれなくてね」

 一般神がクリムの話を無視するって、そんなことあるの?
 やがて、厨房から店員の女性が出てきて、四等分されたケーキと人数分の皿を持ってきた。

「お待たせしました! 限定スイーツ、『クランベリー・アイリス』です!」

 人数分のケーキを机に置いていき、カトラリー類も渡された後、店員はさっさと厨房へ引っ込んでしまった。アスタたちはまだ戻ってこない。
 クリムの調査の目的であるケーキが来たのはいいけれど……。

「そうだ、ケーキ調べるならこれあげるわよ」
「え、いいの?」
「もし何も問題なければ、また明日来ればいいから。疑いを晴らす方が先でしょ」

 正直、今は甘い匂いで胸やけを起こしかけていたので、食べる気が進まなかった。なので、私の分のケーキをクリムに差し出した。
 ステラが座っていた場所に、今度はクリムが座る。受け取ったケーキを入念に観察し、私の場所に置かれていたフォークで切って中身を見たりしている。

「見た目は何も問題なさそうだけどな。僕も食べてみるかな」
「やめときなさいよ、あんたまで顔赤くなって酔っ払いみたいになったら困るっての」
「微量なら問題ないと思う。ちょっとだけ切って、これを────っ!?」

 ケーキの欠片を刺したフォークを口元に持っていこうとした瞬間、急にクリムが右目を押さえてフォークを落とした。激しい頭痛に苛まれるように苦しみだして、必死に右目を押さえるだけだった。

「だ、大丈夫かクリム!?」
「うぅ……急に右目が痛くなった。でも、一瞬だけだったみたい」

 激痛はすぐにやんだようで、次第に落ち着きを取り戻していった。
 右目には、特に血が出たりなどの異常はなさそうだ。左目の方は普通らしい。片目だけが痛むなんて、変な話だ。

「やっぱり、毒見するより成分調査した方がいいかもしれないね」
「なら最初からそうしておきなさいよ……って、問題があるなら今食べてるひとたちも止めなきゃ!」
「そうだな、もしかしたら私たちの話なら聞いてもらえるかも」

 私は思い立つがままに席を立ち、辺りを見回す。他のひとは止められなくても、せめてシオンとソルだけは阻止できれば────

「シオン、ソル! そのケーキ食べちゃダメ!」

 窓際に辿り着いたときには、もう遅かった。
 明るく笑い合う二人の近くには、食べかけのケーキが置かれていた。駆け寄った私の存在にも気づいていない。
 しばらく声を出せずにいると、シオンとソルが私に気づいた。シオンだけでなく、普段はあまり笑わないソルですら、ニッコリと笑いながら。

『潔く消えろよ、失敗作』

 親しい友達が、ひどく冷たい言葉を浴びせてきたのだ。
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