140 / 276
第6章「最高神生誕祭」
138話 罪科の侵食
しおりを挟む
*
狭い中で剣を振り回すのも、風の刃で敵を斬り裂くのも、一苦労だった。
カフェの中は、もうグチャグチャだ。食器もお菓子も、装飾品も客たちも、みんな一緒くたになって床に倒れ伏している。
僕とメアは、背中合わせになってその中に座り込んでいた。
「はぁ……はぁ……大丈夫かい、メア……?」
「お前こそ、やけに呼吸が荒いじゃないか……アーケンシェンのくせに……」
限定スイーツを食べた者たちは、カフェの騒ぎに気付いたからかカフェの外からもなだれ込んできた。その者たちもすべて薙ぎ払っていたら、かなりの魔力と体力を使い果たしていた。
特に、メアは元々体力が多い方ではない。彼女の分もカバーするとなると、僕が動くしかなかったのだ。
「殺さないように立ち回るのも大変なんだよ。君に神を殺させるわけにもいかなかったしね」
「……別に、今更じゃないか。私は神殺しなんだぞ」
「ユキアを悲しませるようなことをするのは不本意だろう? なら、その分僕が背負うしかない」
ガラスの剣を床に突き立て、剣を支えにして立ち上がる。しばらく座っていたから、体力魔力ともにある程度回復した。
「結局、誰も応援に来なかったな。他のアーケンシェンは何をしているんだ?」
「今、アリアとトゥリヤの行方がわかっていないんだ。ティアルは魔特隊の任務だし、カルデルトは診療所にいるけれど」
「……それ、かなりまずい状況なんじゃないか。アイリス様は?」
「宮殿におられる。アリアたちの行方は、今ヴィータが探してるよ」
そうか、とメアは力なく答えた。
もはやこのカフェはもぬけの殻だ。誰かが目覚める前に、さっさと離れた方がいいかもしれない。
僕はメアに手を差し出す。彼女の冷たい手を握り、ゆっくりと立たせた。
「ユキアたちは、大丈夫だろうか……」
「アスタがいるとはいえ、戦況は結構厳しいかもね。あのスイーツを食べた者が予想以上に多すぎた。みんな敵だと考える方がいいかも」
考えていても仕方がない。僕たちはカフェから走り出て、繁華街に出る。
いつの間にか、雲行きがとても怪しくなっていた。空が鼠色に染まり、今にも雨が降りそうだ。さっきまでよく晴れていたのに。
そして、街中からかなり人気が消えていた。祭りで賑わっていたのが嘘みたいだった。
「みんな、どこへ消えたんだ……?」
「メア、伏せて!」
殺気を感じると同時に魔法陣型のバリアを展開する。黒い結晶の破片がバリアに当たり、より小さな破片となり砕け散った。
「また会ったな、天使野郎」
灰色の空から、藍色の装束の子供──シファが姿を現す。背後に黒結晶でできた翼のようなものを展開しており、それにより浮遊しているのだと悟った。
「僕は天使野郎じゃない。クリムだよ」
「いちいち細かいこと気にするなよ。それに……おまえ、まだ生きてられてんだな」
シファは僕の背後にいるメアに目を向けた。当の本人は首を傾げていたが、少なくとも敵だとわかっているので目をキッと鋭くさせる。
「私は貴様と会った覚えはないぞ」
「だろうな。おまえ、あのとき魔物にとり憑かれていたもんな」
「……なぜ君がそれを知っているんだ?」
「だって、あの魔物をそこの女に取りつかせたの、おれだし。もしかして、気づいてなかったの?」
メアの事件当時、僕たちは魔物がメアにとり憑いていたことにばかり意識が集中していて、なぜ魔物が彼女の身体を乗っ取っていたのかを全然考えていなかった。
思えば、確かに不自然な部分もあった。今となっては後の祭りだが。
「え? 現代の神って、もしかして予想以上に弱っちい?」
「君こそ、こんな目立つところで何をしているんだ」
「教えるわけねぇだろ! バーカ!」
シファがどこからか金色のカードを取り出し、僕たちに向かって投げつける。僕もメアも、即座に横へ飛ぶことで回避した。
あのカードは確か、アストラルでできている可能性があるはずだ。以前、魔力の防壁で防いだら異常な壊れ方をしたのを覚えている。
「メア、ここは僕に任せて行くんだ」
「なっ!? あいつはアスタたちと同じ観測者じゃないのか!? お前だけでどうにかなるとは……」
「やるしかないんだ。早く!」
メアは少しだけ何か考えを巡らせたようだが、一度縦に首を振ったらすぐに郊外の方向へ走り去っていった。意外にも、シファはメアに追い打ちをかけることはせず、冷めた目で消えゆく背中を見送っている。
そして、小馬鹿にしたような目で僕を見下してくるのだ。
「バカだなぁ、おまえ。どこに逃がしたって安全だとは限らないぜ?」
「だからといって、ここで一緒に戦わせても足手まといになるだけだ。無駄死にはさせない」
「ふーん。別に殺さなきゃいけないってわけじゃないし、どうでもいいけど」
どうやら、本当の標的は別にいるらしい。だからといって、僕たちが殺されないという保証はどこにもないが。
やがて、雨が少しずつ降り始めてきた。春が来たばかりの雨は、まだ冷たい。
「おれたちは、偽りの平和を終わらせに来たんだよ。姉さんが来たらここも終わりだ」
「……姉さん? 何はどうあれ、生誕祭をめちゃくちゃにしたのが君たちだというなら、容赦はしない」
「はっ。どうせおまえには止められねぇよ」
構わずに翼を広げて、浮遊するシファへガラスの剣を突き出した。すぐにシファも反応し、カードを投げて牽制してくる。
思わずガラスの剣で斬り裂いてしまったが、刃が侵食されたり壊れたりといった変化は見受けられない。直に触れなければ問題はなさそうだ。
「生誕祭を壊しにきたということは、異変の正体も知っているんだろう? あのお菓子に何が入っているのかも」
「そうだよ。まあ、仕組んだのはおれじゃなくて姉さん……に付き従ってる神だけどね」
「神、って────」
金色の光が暴発する勢いで放たれ、魔法陣型の防壁で防ぐもあっという間に砕かれた。防壁が防壁の意味をなさず、僕の身体は繁華街の道路を勢いよく転がっていった。
一瞬、何が起きたのかわからなかった。身体を地面に打ちつけられたことによる痛みや吐き気が、僕に現実を突きつける。
「あっはははは! おまえらってバカだよな! あんな最高神に付き従ったって、捨て駒にされるだけなのにさぁ!」
地面に倒れた僕を嘲りながら追ってきて、地面に降り立った。その瞬間、背後に展開されていた黒結晶の翼が砕け散って消える。地面に降りたら自動的に消える仕組みなのだろうか……?
「おれの攻撃を浴びて、無事でいられるはずがない。おまえはここで死ぬ」
「なっ……ぐうっ!?」
外側からの痛みに加え、内側から滲み出るような激痛に苦痛の声を漏らす。その場にうずくまることしかできない。
頭が割れるように痛い。身体が疼き、猛烈な熱を生み、経験したこともない苦痛が僕を侵食しようとしている。
身体の中で暴れ回る痛みに、そのまま意識を持っていかれそうだった。こんな痛みを感じ続けていたら、確実に気が狂ってしまう。
「アストラルに侵食されてなお、まだ意識を保ってんのかよ……やっぱ、アーケンシェンってなると一筋縄じゃいかねぇな」
ふと、僕のそばに何か転がっているのが見えた。それは、ズボンのポケットに入れておいたはずの、薄い茶色の手帳だった。雨が強まる中、痛みに耐えながら手を伸ばす。
しかし、その手をシファによって思い切り踏みつけられた。
「へっ、苦しくて苦しくて仕方ねぇだろ? ざまあみろ!」
「ぐぅっ……!!」
何かおぞましいものに乗っ取られてしまう気がした。そうなってしまったら、僕という命はいずれ消えるしかなくなる────恐ろしいなんてものじゃない。
────待って。この力、遠い昔にどこかで────
「見つけました、『〈Camellia Peccator〉』!」
「げっ!?」
突然、シファに向かって光できた椿の花が落ちて爆発した。シファがすぐにその場を飛び退いてしまい、あまりダメージは入っていないようだ。
気づけば、僕の前で見慣れた長い銀髪が揺れていた。
「ヴィー、タ……?」
「シファのアストラルを受けたのですか。……あまり猶予がありませんね」
凛とした声が、今は焦っているように聞こえる。
確か、ヴィータにはアリアとトゥリヤの捜索を頼んでいたはずだ。無事に見つけることはできたのだろうか?
そんな憂いさえ、痛みを耐え続けていたらどうでもよくなってしまいそうだった。
「うっわ、オッドアイってことはおまえもか! どこに隠れていやがった!?」
シファの声色が、急に慌てだした。アーケンシェンの誰かが、僕たちの元に駆けつけたのだ。
大きな白銀の翼が見え、僕は苦しみの中息を飲む。そして、薄桃色の大きな刃が子供に向かって振りかざされる。
「お前がクリムを傷つけたのね!? 許さない!!」
今まで、どこに行っていたのかわからなかったアリアが、シファに向かって牙をむき出しにしていたのだった。
シファは再び星幽術を使ったのか、黒結晶の翼を生やして浮遊し始めた。同じくアリアも翼をはためかせ、シファに追撃をしかける。
だが、攻撃はすべてかわされ、アリアもまた追い詰められそうになっていた。
アリアは地上に降り立ち、両手剣を構えてシファを鋭く睨みつける。
「……ちっ。こうなったら、本気出すよ」
「本気?」
「ま、って……アリア……!!」
ヴィータは何のことかわかっていなかったようだが、僕は必死にアリアへ手を伸ばした。
その力だけは、使ってほしくない。使っているところを見たくない。
「『クラーウィス・アペリエンス・フルヴァルキリー』!!」
僕の願いが届くことはなく、冷たい声で詠唱される。アリアの頭に浮かんでいた青白い光の輪が霧散し、彼女の表情が苦しげなものになる。
身体からだらんと力が抜けかけたが、すぐに体勢を戻す。そのときには、アリアは鬼の形相になって歯を強く食いしばっていた。
「テメェ────ぶっ殺す!!」
百年前、激しく傷ついた天使が獣のように狂いながら、すべてを破壊しようとした姿を再び見てしまった。
言いようのない絶望感に苛まれ、僕はついに意識を失った。
狭い中で剣を振り回すのも、風の刃で敵を斬り裂くのも、一苦労だった。
カフェの中は、もうグチャグチャだ。食器もお菓子も、装飾品も客たちも、みんな一緒くたになって床に倒れ伏している。
僕とメアは、背中合わせになってその中に座り込んでいた。
「はぁ……はぁ……大丈夫かい、メア……?」
「お前こそ、やけに呼吸が荒いじゃないか……アーケンシェンのくせに……」
限定スイーツを食べた者たちは、カフェの騒ぎに気付いたからかカフェの外からもなだれ込んできた。その者たちもすべて薙ぎ払っていたら、かなりの魔力と体力を使い果たしていた。
特に、メアは元々体力が多い方ではない。彼女の分もカバーするとなると、僕が動くしかなかったのだ。
「殺さないように立ち回るのも大変なんだよ。君に神を殺させるわけにもいかなかったしね」
「……別に、今更じゃないか。私は神殺しなんだぞ」
「ユキアを悲しませるようなことをするのは不本意だろう? なら、その分僕が背負うしかない」
ガラスの剣を床に突き立て、剣を支えにして立ち上がる。しばらく座っていたから、体力魔力ともにある程度回復した。
「結局、誰も応援に来なかったな。他のアーケンシェンは何をしているんだ?」
「今、アリアとトゥリヤの行方がわかっていないんだ。ティアルは魔特隊の任務だし、カルデルトは診療所にいるけれど」
「……それ、かなりまずい状況なんじゃないか。アイリス様は?」
「宮殿におられる。アリアたちの行方は、今ヴィータが探してるよ」
そうか、とメアは力なく答えた。
もはやこのカフェはもぬけの殻だ。誰かが目覚める前に、さっさと離れた方がいいかもしれない。
僕はメアに手を差し出す。彼女の冷たい手を握り、ゆっくりと立たせた。
「ユキアたちは、大丈夫だろうか……」
「アスタがいるとはいえ、戦況は結構厳しいかもね。あのスイーツを食べた者が予想以上に多すぎた。みんな敵だと考える方がいいかも」
考えていても仕方がない。僕たちはカフェから走り出て、繁華街に出る。
いつの間にか、雲行きがとても怪しくなっていた。空が鼠色に染まり、今にも雨が降りそうだ。さっきまでよく晴れていたのに。
そして、街中からかなり人気が消えていた。祭りで賑わっていたのが嘘みたいだった。
「みんな、どこへ消えたんだ……?」
「メア、伏せて!」
殺気を感じると同時に魔法陣型のバリアを展開する。黒い結晶の破片がバリアに当たり、より小さな破片となり砕け散った。
「また会ったな、天使野郎」
灰色の空から、藍色の装束の子供──シファが姿を現す。背後に黒結晶でできた翼のようなものを展開しており、それにより浮遊しているのだと悟った。
「僕は天使野郎じゃない。クリムだよ」
「いちいち細かいこと気にするなよ。それに……おまえ、まだ生きてられてんだな」
シファは僕の背後にいるメアに目を向けた。当の本人は首を傾げていたが、少なくとも敵だとわかっているので目をキッと鋭くさせる。
「私は貴様と会った覚えはないぞ」
「だろうな。おまえ、あのとき魔物にとり憑かれていたもんな」
「……なぜ君がそれを知っているんだ?」
「だって、あの魔物をそこの女に取りつかせたの、おれだし。もしかして、気づいてなかったの?」
メアの事件当時、僕たちは魔物がメアにとり憑いていたことにばかり意識が集中していて、なぜ魔物が彼女の身体を乗っ取っていたのかを全然考えていなかった。
思えば、確かに不自然な部分もあった。今となっては後の祭りだが。
「え? 現代の神って、もしかして予想以上に弱っちい?」
「君こそ、こんな目立つところで何をしているんだ」
「教えるわけねぇだろ! バーカ!」
シファがどこからか金色のカードを取り出し、僕たちに向かって投げつける。僕もメアも、即座に横へ飛ぶことで回避した。
あのカードは確か、アストラルでできている可能性があるはずだ。以前、魔力の防壁で防いだら異常な壊れ方をしたのを覚えている。
「メア、ここは僕に任せて行くんだ」
「なっ!? あいつはアスタたちと同じ観測者じゃないのか!? お前だけでどうにかなるとは……」
「やるしかないんだ。早く!」
メアは少しだけ何か考えを巡らせたようだが、一度縦に首を振ったらすぐに郊外の方向へ走り去っていった。意外にも、シファはメアに追い打ちをかけることはせず、冷めた目で消えゆく背中を見送っている。
そして、小馬鹿にしたような目で僕を見下してくるのだ。
「バカだなぁ、おまえ。どこに逃がしたって安全だとは限らないぜ?」
「だからといって、ここで一緒に戦わせても足手まといになるだけだ。無駄死にはさせない」
「ふーん。別に殺さなきゃいけないってわけじゃないし、どうでもいいけど」
どうやら、本当の標的は別にいるらしい。だからといって、僕たちが殺されないという保証はどこにもないが。
やがて、雨が少しずつ降り始めてきた。春が来たばかりの雨は、まだ冷たい。
「おれたちは、偽りの平和を終わらせに来たんだよ。姉さんが来たらここも終わりだ」
「……姉さん? 何はどうあれ、生誕祭をめちゃくちゃにしたのが君たちだというなら、容赦はしない」
「はっ。どうせおまえには止められねぇよ」
構わずに翼を広げて、浮遊するシファへガラスの剣を突き出した。すぐにシファも反応し、カードを投げて牽制してくる。
思わずガラスの剣で斬り裂いてしまったが、刃が侵食されたり壊れたりといった変化は見受けられない。直に触れなければ問題はなさそうだ。
「生誕祭を壊しにきたということは、異変の正体も知っているんだろう? あのお菓子に何が入っているのかも」
「そうだよ。まあ、仕組んだのはおれじゃなくて姉さん……に付き従ってる神だけどね」
「神、って────」
金色の光が暴発する勢いで放たれ、魔法陣型の防壁で防ぐもあっという間に砕かれた。防壁が防壁の意味をなさず、僕の身体は繁華街の道路を勢いよく転がっていった。
一瞬、何が起きたのかわからなかった。身体を地面に打ちつけられたことによる痛みや吐き気が、僕に現実を突きつける。
「あっはははは! おまえらってバカだよな! あんな最高神に付き従ったって、捨て駒にされるだけなのにさぁ!」
地面に倒れた僕を嘲りながら追ってきて、地面に降り立った。その瞬間、背後に展開されていた黒結晶の翼が砕け散って消える。地面に降りたら自動的に消える仕組みなのだろうか……?
「おれの攻撃を浴びて、無事でいられるはずがない。おまえはここで死ぬ」
「なっ……ぐうっ!?」
外側からの痛みに加え、内側から滲み出るような激痛に苦痛の声を漏らす。その場にうずくまることしかできない。
頭が割れるように痛い。身体が疼き、猛烈な熱を生み、経験したこともない苦痛が僕を侵食しようとしている。
身体の中で暴れ回る痛みに、そのまま意識を持っていかれそうだった。こんな痛みを感じ続けていたら、確実に気が狂ってしまう。
「アストラルに侵食されてなお、まだ意識を保ってんのかよ……やっぱ、アーケンシェンってなると一筋縄じゃいかねぇな」
ふと、僕のそばに何か転がっているのが見えた。それは、ズボンのポケットに入れておいたはずの、薄い茶色の手帳だった。雨が強まる中、痛みに耐えながら手を伸ばす。
しかし、その手をシファによって思い切り踏みつけられた。
「へっ、苦しくて苦しくて仕方ねぇだろ? ざまあみろ!」
「ぐぅっ……!!」
何かおぞましいものに乗っ取られてしまう気がした。そうなってしまったら、僕という命はいずれ消えるしかなくなる────恐ろしいなんてものじゃない。
────待って。この力、遠い昔にどこかで────
「見つけました、『〈Camellia Peccator〉』!」
「げっ!?」
突然、シファに向かって光できた椿の花が落ちて爆発した。シファがすぐにその場を飛び退いてしまい、あまりダメージは入っていないようだ。
気づけば、僕の前で見慣れた長い銀髪が揺れていた。
「ヴィー、タ……?」
「シファのアストラルを受けたのですか。……あまり猶予がありませんね」
凛とした声が、今は焦っているように聞こえる。
確か、ヴィータにはアリアとトゥリヤの捜索を頼んでいたはずだ。無事に見つけることはできたのだろうか?
そんな憂いさえ、痛みを耐え続けていたらどうでもよくなってしまいそうだった。
「うっわ、オッドアイってことはおまえもか! どこに隠れていやがった!?」
シファの声色が、急に慌てだした。アーケンシェンの誰かが、僕たちの元に駆けつけたのだ。
大きな白銀の翼が見え、僕は苦しみの中息を飲む。そして、薄桃色の大きな刃が子供に向かって振りかざされる。
「お前がクリムを傷つけたのね!? 許さない!!」
今まで、どこに行っていたのかわからなかったアリアが、シファに向かって牙をむき出しにしていたのだった。
シファは再び星幽術を使ったのか、黒結晶の翼を生やして浮遊し始めた。同じくアリアも翼をはためかせ、シファに追撃をしかける。
だが、攻撃はすべてかわされ、アリアもまた追い詰められそうになっていた。
アリアは地上に降り立ち、両手剣を構えてシファを鋭く睨みつける。
「……ちっ。こうなったら、本気出すよ」
「本気?」
「ま、って……アリア……!!」
ヴィータは何のことかわかっていなかったようだが、僕は必死にアリアへ手を伸ばした。
その力だけは、使ってほしくない。使っているところを見たくない。
「『クラーウィス・アペリエンス・フルヴァルキリー』!!」
僕の願いが届くことはなく、冷たい声で詠唱される。アリアの頭に浮かんでいた青白い光の輪が霧散し、彼女の表情が苦しげなものになる。
身体からだらんと力が抜けかけたが、すぐに体勢を戻す。そのときには、アリアは鬼の形相になって歯を強く食いしばっていた。
「テメェ────ぶっ殺す!!」
百年前、激しく傷ついた天使が獣のように狂いながら、すべてを破壊しようとした姿を再び見てしまった。
言いようのない絶望感に苛まれ、僕はついに意識を失った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる