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【巨大聖戦編】第7章「誰がための選定」
154話 闇に縋る
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「……それが復讐のつもりなの、クロウ?」
クロウは問いに答えぬまま、僕の頭を乱暴に引き寄せた。元々頭を掴まれていた僕は強すぎる力と屈強な腕に逆らえず、まんまとクロウに捕らえられてしまう。
片腕で羽交い締めにされて、息ができない────
「さーて、どこから食ってやろうか。頭からじゃつまんねーし、脚からいくか?」
「────ふざけないでください!! どういうつもりですか!?」
滅多に声を荒げないヴィータの叫びに、僕は思わず息を飲んだ。クロウは笑うのをやめて、ヴィータを冷たく見下ろす。
「今のオレはな、定期的に血肉を食べないと持たねぇんだよ。二度死んで蘇ったのはいいんだが、今回はちょいとばかしリスクが大きい手段を使っちまったからな」
「そんなの、こちらが知ったことじゃありません」
「この薬はオマエらと敵対するノーファが作った特別製だ。そんなもんを安々と渡せるほど、オレはお人好しじゃねぇんだよ」
言いたいことはわかるし、理屈としても理解はできる。クロウは元より、他人の事情や感情には左右されない男だ。
ただ、いくら憎んでいても構わないから、復讐の手段くらい選んでほしかった。
「血肉なら、なんでもいいのでしょう? ならば、わたしの腕を食べなさい」
ヴィータが苦々しい顔をしながら、クロウに右腕を差し出す。クロウは怪訝そうな顔を彼女へ向けていた。
「あ? なんでテメェなんだ」
「観測者の身体は再生力が著しく高いです。今のあなたの身体がどうなっているのかは知りませんが、普通の神を食べるよりはお得かもしれませんよ?」
「…………まあ、その方が合理的かもな。じゃあ寄こせよ」
僕の身体を放ったと思ったら、すぐにヴィータの腕を掴んだ。そのまま彼女を引っ張り、書斎から出て行こうとする。
「クロウ! ヴィータを巻き込まないでよ!!」
「そんなに血相変えんなよ、死ぬこたぁねぇだろ」
そういう問題じゃない。何を言っても思い留まることはなく、廊下へ出てどこかへさっさと歩いていく。
ヴィータもさすがに、いつも通りのすました顔ではいられないようで、冷や汗を流しながら腕を引かれていく。僕はいてもたってもいられず、二人の後を追った。
二人が行く先は────「あの部屋」だった。
「あの部屋」というのは、このデウスプリズンにある唯一の拷問部屋のことだ。百年前、僕がクロウを殺した場所でもある。夢によく出る「薄暗い部屋」はここであり、僕にとっては初めて自分の手で神を殺したという事実の象徴でもあった。
そんな薄暗い部屋には、拷問器具や拘束具など、神を痛めつけるための物騒なものが様々置かれている。一応、百年前にすべて綺麗にしたはずなのに、いつの間にか埃臭くなって空気がひどく淀んでしまっている。
僕は部屋の端で、ヴィータとクロウを見ていた。懐にガラスペンを忍ばせながら。
「……余計なことはしないでください、クリム」
「っ、ヴィータ! そいつの言うことなんか聞かなくていい!」
「わたしは大丈夫です。腕さえ渡せば、お兄様を助けられるのですから」
そう言いながら、上半身だけ装束を脱いでいる。ヴィータの後ろ姿は長い銀髪で隠れているけれど、髪の隙間から白い肌が見え隠れしていた。
それ以上、僕は何も言えなかった。ヴィータの覚悟を無駄にするべきじゃない。
「じゃ、もらうぜ」
クロウの武器である、赤いラインの入った黒い鎌も健在だった。今思えば、クレーと名乗って暗躍していたときも、同じものを使っていたような────
「ううっ────!?」
鎌を振りかざすと同時に、闇の中で血が舞った。細く白い腕が床に落ちて、僕はひっ、と情けない声を出してしまう。
全然形は違うのに、落ちた腕がクロウの生首に見えてしまったのだ。
「あんまり悲鳴上げなくてつまんねぇなー。もうちょっと斬っても────」
「早くしなさい……っ、こんなことをしている時間なんて、ないんですよ……」
「へーへー」
断ち切ったのは肉だけではない、骨も剥き出しになっているのにそのまま食べ始めた。子供の腕を、骨ごと食べて異音を立てながら貪っている姿は、もはや人間に似た神には見えない。
そこで、気づいてしまった。クロウから漂っていた異臭……百年前、嫌でも鼻をついてきた不快な匂いの正体を。
「クロウ……もしかして、ここに来る前誰かを────」
「口にしない方がいいと思うぜ? これ以上過去を穢したくないならな」
奴は狂ったような笑みを浮かべながら、僕の思考を打ち切らせるようなことを言う。
好きで考えていたわけじゃない。自然と頭が働いてしまっただけ。今は元とはいえ、仲間だったひとがそのような残酷な行為に及んでいるなどと考えたくはない。
「早く薬を渡しなさい」
「ほらよ。飲ませれば多分大丈夫だ」
書斎に戻ったときには、ヴィータの腕が戻っていた。観測者とは、本当に不可思議な生命だ。
クロウが薬を差し出すとすぐに奪い取り、ベッドで気を失っているアスタへ駆け寄った。僕は必死に動く彼女の姿を、背後から見ることしかできなかった。
「普通に剣で斬りかかってきてもよかったんだぜ? なんならそうすることを期待してた」
僕の背後から話しかけてきた奴の口元は、拭き取っていたはずなのに僅かに赤黒い跡が残っている。顔を見たくなくて、自分からそっぽを向く。
「……ヴィータの意思を尊重しただけだ。彼女が観測者じゃなかったら、真っ先にお前に剣を刺した」
「まあ、そうだろうな。……そういや、アリアの奴どうしているんだ? 神隠し事件のときは全然見なかったけどよ、生きてんのか?」
「白々しい。お前が殺そうとしたくせに」
ふと、アスタとヴィータの様子に目を向けた。ヴィータの手にある小瓶はすでに空になっており、アスタの表情もかなり楽そうなものになっていた。呼吸も規則的になって、ここに来たときよりもだいぶ落ち着いている。
「多分、お兄様はもう心配ありません。しばらくは休ませておきましょう」
「お、そうかそうか」
調子よく笑うクロウとは反対に、ヴィータは元々鋭い目つきをさらに厳しいものにする。
「……クロウリー。今回は感謝しますが、わたしはあなたをまだ敵だと思っていますから」
「おう、それでいい。オレもオマエらに味方しているわけじゃねぇから」
「それってどういう意味?」
「敵でも味方でもねぇってことだ。オレは面白いと感じた方につく。今はオマエらの方がカオスになってて、見ていて楽しいからな」
行動理由が不純というか、迷惑極まりないと感じた。今に始まったことではないとはいえ、今後も振り回されることになりそうで憂鬱だ。
……そうだ、悠長にしている場合じゃない。
「クリム、どうせオマエも調査とかするんだろ? 多分、オレとオマエは行き先が一緒だ」
「も、もちろんするけど。まさか、君も一緒に来るつもり?」
「まあな。安心しろよ、オレもアイツらには一矢報いたいんだ」
安心できる要素が一ミリもない。だが……クロウが言っていた「組織」とやらは、行方不明者に何か関係がありそうだ。
言い方は悪いが、ここはクロウを利用してみるか。してやられっぱなしはごめんだ。
「じゃあ、ヴィータ。僕は調査に行ってくる。デウスプリズンと、それからアスタをお願いね」
「わかりました。……クロウリー、クリムに何かしたら燃やしますからね」
「ネチネチうるせぇっての」
今はベッドが塞がっているので、僕の机の椅子に腰かけて本を開き始めた。クロウがさっさと出ていく中、僕はヴィータの様子を少しだけ見てから書斎を出た。
早歩きじゃないと追いつけないほどの速さで、灰色の廊下を無遠慮に歩いていく背中。僕は子供のように、その後を追っていた。
クロウとともにデウスプリズンを出て、空へ飛び立って繁華街に辿り着いた。蘇ってもなお、彼の黒い翼は大きくはためくことができており、翼の動き方も生前と変わっていなかった。
地面に降り立って周囲を見ると、いつの間にか繁華街の瓦礫や損傷がすべてなくなっていることに気づく。まだ平和に祭りが開催されていたときと同じ状態……アリアほど、壊れる前の状態まで綺麗に直すことができる人物はいない。
少しだけ、安心できた。
「色々知りたいことがあるんだろ。教えてやるからついてこい」
「は? 僕はユキアを探しに行きたいんだけど?」
「事前情報がないと後が大変になるんだよ。それに、急いで行ったところでユキアはあっちの手中に落ちてる。余計に警戒しないといけないんじゃねぇの?」
クロウが歩いていったのは、繁華街の端にある教会がある場所だった。大量の蔦が這っており、白い壁や尖った屋根が特徴的だ。ここはどうやら廃墟らしい。壁には小さくひびが入っているし、地面には雑草が生い茂っている。
「教会……というより、教会を模した建物だよね、ここ」
「らしいな」
背中を追っていくと、教会の中に入る。礼拝堂の横に、「倉庫」と書かれた小さな扉がある。クロウとともに中に入っても、倉庫の中はほとんど空っぽだ。部屋の隅に放置されたランタンがいくつか置かれており、クロウはそのうち一つを僕に持たせた。
「地下へ続く階段がそこにある。ここから先、迷ったら死ぬぞ」
倉庫の奥には、確かに階段の入り口のようなものが設置されていた。問答無用で僕の手を掴み、穴の中へと引きずり込むように階段を下り始める。充満した埃とカビの匂いすらものともしない。
「ここって、もしかして」
「知ってんのか?」
「放棄された隠れ家でしょ。カトラスさんが言ってた」
「ああ、やっぱり本当だったのか」
ランタンをつけ、闇の先を照らしながら階段を下りていく。階段が終わっても、何も見えないくらい真っ暗な空間が先へ続いている。
「ここ、本当は迷路みたいに入り組んでいる地下通路なんだが、あの熱血女騎士が穴を開けまくったおかげでだいぶ通りやすくなったらしい」
周囲を照らすと、確かに壊れた壁がいくつも見えた。ティアルは物質を操る固有魔法を持っているから、壁に穴を開けるくらい造作もないだろう。
クロウに手を引かれながら、入り組んでいたであろう地下通路を歩いていく。周囲に誰かがいる気配はなく、僕たち二人の靴音だけが繰り返し響く。すぐに音が反響するから、天井はあまり高くなさそうだ。
お互いに言葉をかわすことなく、ひたすらまっすぐ突き進む。たまに穴が空いている部分を見つけたら、そちらへ引っ張られて通り抜けさせられる。だんだん、元いた世界に帰れるのか不安に思えてきた。こんな閉鎖的な空間にいたら、二度と戻れない気がしてくる。
「安心しろよ。オマエはオレと違って、日の当たる場所に戻れる資格がある」
何も言っていないのに、こちらを向くことなく慰めるようなことを言ってきた。心を見透かされたことにまた腹が立って、返事は返さなかった。
クロウは問いに答えぬまま、僕の頭を乱暴に引き寄せた。元々頭を掴まれていた僕は強すぎる力と屈強な腕に逆らえず、まんまとクロウに捕らえられてしまう。
片腕で羽交い締めにされて、息ができない────
「さーて、どこから食ってやろうか。頭からじゃつまんねーし、脚からいくか?」
「────ふざけないでください!! どういうつもりですか!?」
滅多に声を荒げないヴィータの叫びに、僕は思わず息を飲んだ。クロウは笑うのをやめて、ヴィータを冷たく見下ろす。
「今のオレはな、定期的に血肉を食べないと持たねぇんだよ。二度死んで蘇ったのはいいんだが、今回はちょいとばかしリスクが大きい手段を使っちまったからな」
「そんなの、こちらが知ったことじゃありません」
「この薬はオマエらと敵対するノーファが作った特別製だ。そんなもんを安々と渡せるほど、オレはお人好しじゃねぇんだよ」
言いたいことはわかるし、理屈としても理解はできる。クロウは元より、他人の事情や感情には左右されない男だ。
ただ、いくら憎んでいても構わないから、復讐の手段くらい選んでほしかった。
「血肉なら、なんでもいいのでしょう? ならば、わたしの腕を食べなさい」
ヴィータが苦々しい顔をしながら、クロウに右腕を差し出す。クロウは怪訝そうな顔を彼女へ向けていた。
「あ? なんでテメェなんだ」
「観測者の身体は再生力が著しく高いです。今のあなたの身体がどうなっているのかは知りませんが、普通の神を食べるよりはお得かもしれませんよ?」
「…………まあ、その方が合理的かもな。じゃあ寄こせよ」
僕の身体を放ったと思ったら、すぐにヴィータの腕を掴んだ。そのまま彼女を引っ張り、書斎から出て行こうとする。
「クロウ! ヴィータを巻き込まないでよ!!」
「そんなに血相変えんなよ、死ぬこたぁねぇだろ」
そういう問題じゃない。何を言っても思い留まることはなく、廊下へ出てどこかへさっさと歩いていく。
ヴィータもさすがに、いつも通りのすました顔ではいられないようで、冷や汗を流しながら腕を引かれていく。僕はいてもたってもいられず、二人の後を追った。
二人が行く先は────「あの部屋」だった。
「あの部屋」というのは、このデウスプリズンにある唯一の拷問部屋のことだ。百年前、僕がクロウを殺した場所でもある。夢によく出る「薄暗い部屋」はここであり、僕にとっては初めて自分の手で神を殺したという事実の象徴でもあった。
そんな薄暗い部屋には、拷問器具や拘束具など、神を痛めつけるための物騒なものが様々置かれている。一応、百年前にすべて綺麗にしたはずなのに、いつの間にか埃臭くなって空気がひどく淀んでしまっている。
僕は部屋の端で、ヴィータとクロウを見ていた。懐にガラスペンを忍ばせながら。
「……余計なことはしないでください、クリム」
「っ、ヴィータ! そいつの言うことなんか聞かなくていい!」
「わたしは大丈夫です。腕さえ渡せば、お兄様を助けられるのですから」
そう言いながら、上半身だけ装束を脱いでいる。ヴィータの後ろ姿は長い銀髪で隠れているけれど、髪の隙間から白い肌が見え隠れしていた。
それ以上、僕は何も言えなかった。ヴィータの覚悟を無駄にするべきじゃない。
「じゃ、もらうぜ」
クロウの武器である、赤いラインの入った黒い鎌も健在だった。今思えば、クレーと名乗って暗躍していたときも、同じものを使っていたような────
「ううっ────!?」
鎌を振りかざすと同時に、闇の中で血が舞った。細く白い腕が床に落ちて、僕はひっ、と情けない声を出してしまう。
全然形は違うのに、落ちた腕がクロウの生首に見えてしまったのだ。
「あんまり悲鳴上げなくてつまんねぇなー。もうちょっと斬っても────」
「早くしなさい……っ、こんなことをしている時間なんて、ないんですよ……」
「へーへー」
断ち切ったのは肉だけではない、骨も剥き出しになっているのにそのまま食べ始めた。子供の腕を、骨ごと食べて異音を立てながら貪っている姿は、もはや人間に似た神には見えない。
そこで、気づいてしまった。クロウから漂っていた異臭……百年前、嫌でも鼻をついてきた不快な匂いの正体を。
「クロウ……もしかして、ここに来る前誰かを────」
「口にしない方がいいと思うぜ? これ以上過去を穢したくないならな」
奴は狂ったような笑みを浮かべながら、僕の思考を打ち切らせるようなことを言う。
好きで考えていたわけじゃない。自然と頭が働いてしまっただけ。今は元とはいえ、仲間だったひとがそのような残酷な行為に及んでいるなどと考えたくはない。
「早く薬を渡しなさい」
「ほらよ。飲ませれば多分大丈夫だ」
書斎に戻ったときには、ヴィータの腕が戻っていた。観測者とは、本当に不可思議な生命だ。
クロウが薬を差し出すとすぐに奪い取り、ベッドで気を失っているアスタへ駆け寄った。僕は必死に動く彼女の姿を、背後から見ることしかできなかった。
「普通に剣で斬りかかってきてもよかったんだぜ? なんならそうすることを期待してた」
僕の背後から話しかけてきた奴の口元は、拭き取っていたはずなのに僅かに赤黒い跡が残っている。顔を見たくなくて、自分からそっぽを向く。
「……ヴィータの意思を尊重しただけだ。彼女が観測者じゃなかったら、真っ先にお前に剣を刺した」
「まあ、そうだろうな。……そういや、アリアの奴どうしているんだ? 神隠し事件のときは全然見なかったけどよ、生きてんのか?」
「白々しい。お前が殺そうとしたくせに」
ふと、アスタとヴィータの様子に目を向けた。ヴィータの手にある小瓶はすでに空になっており、アスタの表情もかなり楽そうなものになっていた。呼吸も規則的になって、ここに来たときよりもだいぶ落ち着いている。
「多分、お兄様はもう心配ありません。しばらくは休ませておきましょう」
「お、そうかそうか」
調子よく笑うクロウとは反対に、ヴィータは元々鋭い目つきをさらに厳しいものにする。
「……クロウリー。今回は感謝しますが、わたしはあなたをまだ敵だと思っていますから」
「おう、それでいい。オレもオマエらに味方しているわけじゃねぇから」
「それってどういう意味?」
「敵でも味方でもねぇってことだ。オレは面白いと感じた方につく。今はオマエらの方がカオスになってて、見ていて楽しいからな」
行動理由が不純というか、迷惑極まりないと感じた。今に始まったことではないとはいえ、今後も振り回されることになりそうで憂鬱だ。
……そうだ、悠長にしている場合じゃない。
「クリム、どうせオマエも調査とかするんだろ? 多分、オレとオマエは行き先が一緒だ」
「も、もちろんするけど。まさか、君も一緒に来るつもり?」
「まあな。安心しろよ、オレもアイツらには一矢報いたいんだ」
安心できる要素が一ミリもない。だが……クロウが言っていた「組織」とやらは、行方不明者に何か関係がありそうだ。
言い方は悪いが、ここはクロウを利用してみるか。してやられっぱなしはごめんだ。
「じゃあ、ヴィータ。僕は調査に行ってくる。デウスプリズンと、それからアスタをお願いね」
「わかりました。……クロウリー、クリムに何かしたら燃やしますからね」
「ネチネチうるせぇっての」
今はベッドが塞がっているので、僕の机の椅子に腰かけて本を開き始めた。クロウがさっさと出ていく中、僕はヴィータの様子を少しだけ見てから書斎を出た。
早歩きじゃないと追いつけないほどの速さで、灰色の廊下を無遠慮に歩いていく背中。僕は子供のように、その後を追っていた。
クロウとともにデウスプリズンを出て、空へ飛び立って繁華街に辿り着いた。蘇ってもなお、彼の黒い翼は大きくはためくことができており、翼の動き方も生前と変わっていなかった。
地面に降り立って周囲を見ると、いつの間にか繁華街の瓦礫や損傷がすべてなくなっていることに気づく。まだ平和に祭りが開催されていたときと同じ状態……アリアほど、壊れる前の状態まで綺麗に直すことができる人物はいない。
少しだけ、安心できた。
「色々知りたいことがあるんだろ。教えてやるからついてこい」
「は? 僕はユキアを探しに行きたいんだけど?」
「事前情報がないと後が大変になるんだよ。それに、急いで行ったところでユキアはあっちの手中に落ちてる。余計に警戒しないといけないんじゃねぇの?」
クロウが歩いていったのは、繁華街の端にある教会がある場所だった。大量の蔦が這っており、白い壁や尖った屋根が特徴的だ。ここはどうやら廃墟らしい。壁には小さくひびが入っているし、地面には雑草が生い茂っている。
「教会……というより、教会を模した建物だよね、ここ」
「らしいな」
背中を追っていくと、教会の中に入る。礼拝堂の横に、「倉庫」と書かれた小さな扉がある。クロウとともに中に入っても、倉庫の中はほとんど空っぽだ。部屋の隅に放置されたランタンがいくつか置かれており、クロウはそのうち一つを僕に持たせた。
「地下へ続く階段がそこにある。ここから先、迷ったら死ぬぞ」
倉庫の奥には、確かに階段の入り口のようなものが設置されていた。問答無用で僕の手を掴み、穴の中へと引きずり込むように階段を下り始める。充満した埃とカビの匂いすらものともしない。
「ここって、もしかして」
「知ってんのか?」
「放棄された隠れ家でしょ。カトラスさんが言ってた」
「ああ、やっぱり本当だったのか」
ランタンをつけ、闇の先を照らしながら階段を下りていく。階段が終わっても、何も見えないくらい真っ暗な空間が先へ続いている。
「ここ、本当は迷路みたいに入り組んでいる地下通路なんだが、あの熱血女騎士が穴を開けまくったおかげでだいぶ通りやすくなったらしい」
周囲を照らすと、確かに壊れた壁がいくつも見えた。ティアルは物質を操る固有魔法を持っているから、壁に穴を開けるくらい造作もないだろう。
クロウに手を引かれながら、入り組んでいたであろう地下通路を歩いていく。周囲に誰かがいる気配はなく、僕たち二人の靴音だけが繰り返し響く。すぐに音が反響するから、天井はあまり高くなさそうだ。
お互いに言葉をかわすことなく、ひたすらまっすぐ突き進む。たまに穴が空いている部分を見つけたら、そちらへ引っ張られて通り抜けさせられる。だんだん、元いた世界に帰れるのか不安に思えてきた。こんな閉鎖的な空間にいたら、二度と戻れない気がしてくる。
「安心しろよ。オマエはオレと違って、日の当たる場所に戻れる資格がある」
何も言っていないのに、こちらを向くことなく慰めるようなことを言ってきた。心を見透かされたことにまた腹が立って、返事は返さなかった。
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