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7.「身体が熱くなると香りが濃くなる……こっちは」※
しおりを挟むニーナがおろされたのは、想像通り王城だった。
もちろん足を踏み入れたこともなければ、間近で見上げたことすらない。
そんな場所にやはり荷物用に抱えておろされ、登城するやいなや数人に囲まれて収穫したての野菜のように身体を洗われた。
香水とはまた違った清潔感のある香りの泡に包まれ、栗色の長い髪には艶が宿る。
そして新緑色の瞳によく似合う紺碧の美しいドレスまで用意されていた。
レースは襟元のリボンだけと最小限なシンプルなつくりは一見大人しそうに見えるニーナによく似合っていた。
王宮勤めの使用人によって美しく磨き上げられたニーナは逃げ道を塞がれ、第二王子の寝室に立っている。
――私になにをしろというのだろう。酷いことをされる覚悟だったけれど、こんなふうに……意味が分からない。
「適当に用意させたものだったが……悪くない」
大きな出窓を背にして、肘を突いて椅子に座り、しばらくニーナを鑑賞していた第二王子が顎で近寄るよう指示をした。
「もっとこっちへこい」
「……っ」
逃げられない。そう分かっているニーナは命令に従うしかない。獲物に追い詰められた猫は捕食者の元へじりじりと向かう。
「もっとだ」
一歩進むごとに何度も急かされ、ついに互いの膝が触れあう距離になると焦がれた男がニーナの腕を掴み引き寄せた。
「きゃっ――」
力強い手がニーナの腰を掴み、意図せずとも椅子に座る王子に跨がる体勢になってしまう。
「この香りだ……なぜ……おい、君、魔法属性は陽か?」
「は、はい」
なぜ王子がそんなことを聞くのか分からない。魔法属性は陰か陽しか存在しないのだから珍しくもないのだ。意図が分からず訝っていると、更に引き寄せられ王子の顔が首筋に埋まる。はあっと吐き出された息がかかって、思わずぞわりとしてしまう。
「……なんの香水をつけている……? いや、この身体からなのか……?」
まるで探るように鼻を近づけられ嗅がれている。いったいなんのかさっぱり分からず、ニーナはただ困惑と羞恥で無意識にその腕から逃げようと藻掻く。だがそれが悪かったようで逃がすまいとさらに力を込められてしまった。身体は王子に密着し、完全に膝の上に乗り上げてしまっている。
「もっ、お戯れは……ッ、ぁっ、そこは……っ!」
ニーナの抵抗など全く聞いていない王子の唇は器用にドレスの胸元のリボンを解き柔らかな素肌を露わにする。ニーナがあまりの羞恥に戸惑っている間にボタンも外され、ふるり、と胸が曝け出された。
「や、やめてくださいっ……見ないで……っ」
大人しく、年齢と身長の割に大きな胸はニーナの隠れたコンプレックスだった。実際このドレスを着せて貰うときも胸だけが少し苦しかったのだ。なにより、好きでもない異性の前で晒すものではなかった。
反射的に隠した両腕を王子は簡単に捕らえて自分の肩に置くよう促す。
「酷くされたくはないだろう?」
視線が重なる。深い蒼の瞳に熱が宿っているのをニーナは本能的に理解した。捕食者の目だ。逆らってはいけない。
ニーナが震えた手で王子の肩を掴んだのと、熱い舌が胸の突起に触れたのはほぼ同時だった。
突然襲った刺激にニーナは身体を仰け反らせ短い悲鳴をあげてしまう。
「ひっ! ……ッ、ぁっ、あっ」
やめてほしいのに身体は強ばるだけで力が入らない。
恐怖と羞恥心がせり上がり腰の辺りで痺れているようだ。
「身体が熱くなると香りが濃くなる……こっちは」
ニーナの反応を面白がるように男は足を少し上げて、ニーナのドレスの奥に隠された秘部をぐりぐりと押して弄ぶ。強い刺激にニーナの身体は大きく跳ね上がる。
「――ッ、ロ、ロルフ様っ……いやっ、ァ!」
ニーナは何度も震える手で離れようと試みる。
胸から口を離された男は不機嫌そうにニーナを下から睨み付けた。
「王族に噛み付いておいてこの程度で済むんだ。あまり抵抗しないほうが身のためだぞ」
――どうして。私、こんなの変よ。
目が合うと心臓が早鐘を打つ。抵抗してはいけないという恐怖ではない。
ニーナは自分がおかしいのだと思う。こんな状況だというのに、間近で見るこの男の青い瞳を美しいと感じてしまう。嫌だと、やめてほしいと思っているのは本心なのに、この瞳に捕らえられると抗えない。
男の瞳に映る自分が、見たこともないほどいやらしい顔をしていてニーナは思わず目を逸らした。そこでニーナは自分に触れる男の手が震えていることに初めて気がついた。
ハッとしてよく見てみれば白銀の前髪の奥ではほんのりと額が汗ばんでいる。ニーナも服がはだけているのに身体が熱くなる訳の分からない状態だが、男のそれは違って見えた。
――もしかして、体調が……?
そう思ってみてみれば、どこか顔色も良くない。
与えられる刺激に耐えながらニーナはそっと声をかける。
「……あ、あの、ロルフ様……もしかして体調が優れないのでは……」
もし、勘違いでないのならこんなことをしている場合ではない。だが、男はなぜか一瞬驚いたような目をして、すぐ悪戯に細める。
「随分余裕だな」
途端、ぐっと脚を揺らされ、不意打ちの刺激にニーナは体の力が抜けてしまった。
膝に力が入らず自ら男の脚に秘部を押し付けてしまっている。上質なドレスの生地がなめらかに擦れて、それさえもさらに刺激を増す材料になる。
「ァッ――んっ、んっ……ぁ!」
今更ながら自分の口から漏れる変な声が恥ずかしくて口を塞ごうとしたが、その手は男の片手で胸の上にまとめあげられてしまう。
自分の腕で胸を寄せているような体制になり、男はそんなニーナの醜態を鼻で笑う。
その表情はしっとりと色気を纏っていて、顔色も先程よりは良いようにみえる。
体調が悪そうにみえたのは気のせいだったのかもしれない。
「もし俺が弱って見えたのなら張り倒してでも逃げればいいものを、お人好しなことだ」
呆れた口調の男はニーナのドレスの中に空いている手を侵入させ、脚で刺激していた場所に直接触れる。本来ならもう一枚隔てるものがあるはずなのに、くちっと水音がして、男は満足気に目を細めた。
「下着をつけていなかったのか。案外乗り気とは驚いた」
割れ目をなぞるように指を往復させられると身体が震えて言葉がでてこない。
「違っ、それは――ッ、ああっ!」
下着は用意されていなかった。元々身に付けていたものは見当たらず、使用人たちの押しに負けて流されてしまったのだ。
この男の体調など気にせず、本当に逃げればよかった、とニーナが後悔した瞬間、触れていた長い指が挿入された。
「……どこが感じる?」
男の指は花弁を濡らし、探るように腟内で蠢いた。その度粘着質な音がニーナの耳を犯していく。
「ぁっ……んんッ、どこも、いやですっ……もう、やめっ、ひゃっぁっ!」
口では与えられる刺激を否定しつつも、男の指が硬くなった秘豆を押し潰した瞬間悲鳴に変わってしまう。
「ここが好きか」
男はニーナの反応に確信を得たようで腟内の指を激しく抽挿させながら親指で秘豆を押し上げた。そのうえ、自ら差し出しているような胸の先端を甘噛みされては一度に与えられる刺激の多さに頭がついて行かない。
「ァアッ、んっ……あっぁッ、あ……!」
ニーナは白い首をさらけ出して短い呼吸を繰り返す。目の前がチカチカと瞬いてなにかが近づいてくる恐ろしさに腰を引いた。
「逃げるな」
腰を連れ戻されて同時に秘豆を指で弾かれるとニーナは身体を一層大きく跳ね上がらせた。
腟内に咥えこんだ男の指をきゅうっと締め付ける。
――こわいっ、でも、もうだめ。
「ッーーぁあっ……にゃっ……、ふっ……にゃぁ」
体が痺れ、目をぎゅっと瞑ると一気に身体が軽くなった気がした。
それもそのはずだ。ニーナは目を開けて驚いた。まさか魔力を使いすぎてしまったからか、考えたくはないが初めての刺激に思考が限界を迎えたのか、ニーナは男の膝の上で完全に猫化してしまっていた。
これには男も驚いたようで、上品な顔を綻ばせくつくつと笑い出す。
自分に向けられているはずの視線は、何故か途端に優しくなった。
自分ではない、誰かを見ている。なぜか瞬時にそう理解した。
「なんて奴だ……君……っ、本当によく似ている」
完全に猫化したのは子供の頃以来だ。そもそも人一倍魔力量の多いニーナは魔力の消耗による猫化をしたことがなかった。だが、今はそんなことを考えている場合ではないとニーナは猫特有の脚力で男に飛びかかる。
男の背後の出窓に体当たりし、運良く開いた窓と一緒に外へ飛び出した。最初からこうすればよかったのだ。
「なっ――」
男は猫に手を伸ばしたが届かず、近くの木に降り立ち、男が追ってきていないことを確認するとそのまま逃げ出した。
ニーナが木に飛び移った瞬間、男の表情が安心したように見えたのは多分気のせいだろう。
――魔力とか、香りとか、突然あんなことされて意味がわからない。
全力で走り去る猫は茜色に染まり始めた空に随分長い時間あの男の腕の中にいたのだと認識させられて、高鳴る心臓を誤魔化すために限界までスピードをあげた。
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