一人では戦えない勇者

高橋

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2章

7話  ようやく自己紹介

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 僕の愛麒麟は優秀です。
 なんとなく来てくれそうな気がしたので「松風、助けて」と呟いたら、颯爽と登場して拠点まで案内してくれた。
 昨日、僕を見捨てたのは、これでチャラにしろと? しょうがないなぁ。

 ちょっと出掛けてる間に、豪邸の外装の修繕が終わっていた。見た目は新築だ。由香と由希の仕事だろう。

 豪邸のリビングで寛いでいたら、ユリアーナが半泣きで帰ってきた。
 僕に抱きつき、耳を顎に擦り付けるユリアーナを撫でながら、話を聞く。

「怒られた」

 だろうね。

「ギルマスの部屋に呼び出されて、すっごい怒られた」

 だろうね。

「ミスリルの手甲を、こう、ガチガチ鳴らしながら怒られた」

 だろうね。
 ギルマスが、拳と拳をガチガチ鳴らしながら説教する様を想像して、心の底から「行かなくて良かったぁ」と思った。

「明日の昼までにパーティリーダーのマゴイチが釈明に来なかったら、マゴイチの顔の中心線を殴るって言ってた」

 死ぬよ?

「なんか、説教中に『漆黒の翼』の幹部が半裸で怒鳴り込んできたから、眠らせて全裸に剥いて記憶を消そうとしたら更に怒られたの」

 それは僕のせいじゃないよ。

「お説教の邪魔だろうと思って幹部を二階の窓からポイしたら、お説教がヒートアップしたの」

 そりゃそうだろ。

「だからね。"我が家の行動方針は、盗賊からは命以外の全てを奪っていい"って言ったら、ミスリルの手甲で机を大破させちゃったの」

 火に油注ぐの好きな。

「そんで、"お前の旦那連れてこい。説教のついでに殴ってやる"って言われたの」

 殴るの確定?

「マゴイチは殴ったら死んじゃうから、"代わりにマーヤが殴られます"って言ったら、腹パンされた」

 それに関してはお前が悪いよ。

「というわけで、私の代わりに怒られてきてね」

 上目遣いで可愛く言うな。
 ……行くけどね。



 昼食前に全員揃ったけど、昼食後に自己紹介することになった。
 ちなみに、一番最後になったのはロジーネ姉さん。昼前には起きて出掛けてたらしいけど、まだお疲れみたい。
 目が合ったら顔を赤くしてそっぽ向かれた。可愛い反応だ。

 それはさておき、正直に言ってしまうと、飛翼族の親子以外は興味がない。しかし、名前くらいは知っておかないと不便なので、真面目に聞こう。
 まずは僕たちの方から自己紹介して、今日連れてきた七人の、一番左にいた本田さんにユリアーナが自己紹介を促す。

「その前に、治療が先じゃない?」

 すっかり忘れていたけど、人馬族の二人は前足を一本、半ばから切られているし、森人族の片方は、体の左半分が火傷によるケロイドで覆われている。
 マーヤと縁は、この三人に対する印象が悪いようで、動こうとしない。
 代わりに、ユリアーナが、食後のデザートの棒アイスを咥えながら手早く治療した。
 足がニョキっと生えた人馬族は、抱き合いながらユリアーナに感謝した。
 森人族の方は、鏡を渡されるまで状況が掴めなかったようで、鏡を見て驚き固まっていた。本人が呆然とする中、もう一人の方が代わりに感謝していた。
 三人が落ち着くまで時間がかかりそうなので、ソファに横になり、御影さんのムチムチした膝枕で寛ぐことにした。ヤバい。見上げたら、巨大な胸しか見えないよ。このまま永眠しても悔いはない。



 落ち着きを取り戻したのか、僕が寛ぐソファの前に七人の女性が集まる。
 先程と同じ並び順だ。

「改めて自己紹介してくれる?」

 左端の本田さんに寛いだまま言うと、釈然としないような顔で頷いた。

「えっと、本田真弘です。十七歳。日本人、こちらからだと、異世界人って言った方がいいのかな?」
「本田先輩は、なにをして売り飛ばされたんですか?」

 縁が本田さんを見ず、手元の魔道具を弄りながら聞く。先輩に対して失礼だよ。

「私はただ、平賀君から聞いた話をゆうちゃんに伝えようと思って、城の人に会わせるように頼んだだけだよ」

 少し粘ったけど、会わせてくれないからその日は諦めて戻ろうとしたら、【光の勇者】らしき人影が見えたから、強引に城へ入ろうとしたら捕まって、そのまま奴隷商の下へ送られたらしい。
 彼女のことは知ってるけど、人となりは全然知らなかった。
 清楚で大人しい印象があるけど、結構行動力があるのか? 【光の勇者】の一歩後ろを付いて歩いてる印象しかない。
 僕は、彼氏に流されるまま僕を無視していたんだと思ってたけど、自主性はあったのかもしれないな。

「本田さんが今後どうするかは、明後日の朝までに考えといてね。俺たちは、明後日にはダンジョンに潜るから、この家を留守にする。だから、それまでに決めてね」
「私は、ゆうちゃんに助けてもらうから」
「兄さんに助けてもらっておきながら、よく言えますね」

 本田さんは、縁の冷たい声にビクってなった。〈威圧〉使った? プラーナは感じなかったけど。

「まあ、後で現実を見せてあげますよ」

 ニタリと悪い笑みを浮かべる。

「ほんじゃあ、次ー」

 本田さんへの助け船ってわけじゃないけど、可愛そうになったので次を促す。
 隣の人馬族の双子が一歩前に出る。

「私は、ツェツィーリア・フォクト。十九歳。私が姉だ」
「ヘンリエッテ・フォクト。十九歳」
「まあ、フォクトを名乗るのは、最後になるだろうがな」

 二人が言うには、"フォクト"とは、人馬族の古い言葉で"忌み子"という意味らしい。

「足を治してくれたことには感謝するが、貴様の様な軟弱な男に仕える気はない」

 同じ顔の二人に睨まれながら、姉、ツェツィーリアさんの言葉を聞く。
 縁が弄ってた魔道具を握り潰す。

「二人も身の振り方を考えておくように」

 縁がなにかしでかす前に早口で言う。
 ツェツィーリアさんの言い分は正しいよ。
 御影さんの膝枕で、脇に座るマーヤの尻尾を抱き締めるように撫でてる男が、軟弱じゃないわけないもん。

「ん。次ー」

 有無を言わせず促すと、縁は引いてくれた。
 良かったぁ。
 僕が撫でてるマーヤの尻尾の毛が逆立ってたから、こっちも宥めなきゃいけないんだよ。
 人馬族の双子が一歩下がり、代わりに森人族の親子が一歩前に出る。

「イレーヌ・ベナール。二百十一歳よ」
「イヴェット・ベナール。三十一歳です」

 どう見ても、金髪碧眼の美少女姉妹だ。
 けど、その実態は美少女親子。いや、イレーヌさんが言うには、彼女の年齢は人族で言う三十路で、娘の方は二十歳前後らしいから、美熟女と美女の親子だ。
 ちなみに、元フライフェイスの方が母親。

「私も、火傷の痕を治してくれたことには感謝するけど、醜い人族の男に仕える気はない」

 二連続でフラれたよ。
 あと、せっかく宥めた狐尻尾が、また逆立ったよ。って、御影さんもイラついてる? 足をトントン貧乏揺すりして頭が揺れるよ。

「二人も身の振り方を以下略。次ー」

 最後の二人を促しながら起き上がる。この二人の話は、真面目に聞くよ。

「ロクサーヌ・フォルタンです。三十三歳です。よろしくお願いします」

 頭を下げる時、パックリ開いたドレスの胸元に視線が吸い寄せられる。

「娘のフルール・フォルタン。二十歳です。よろしく、お願いします」

 優雅にお辞儀した母親と対照的に、注目されることに慣れていないようなフルールさんが、ぎこちなく頭を下げる。
 こちらも、凶悪な胸に目が行ってしまう。
 頭を上げたフルールさんと目が合う。
 にっこり笑う合法ロリ巨乳に、谷間を凝視していた気不味さから目を逸らしたら、ジト目のユリアーナと目が合った。
 違うんです。これは僕が悪いんじゃないんです。『童貞を前屈みにする服』を作った縁が悪いんです。

「二人には、是非ともうちのパーティに入ってほしい。強制はしないけど。入ってくれたら歓迎します。それを踏まえた上で、明後日までに答えを出してください」
「そのことでしたら、もう答えは出ています」

 そう言って、ロクサーヌさんは確認するようにフルールさんを見て頷く。二人とも僕に触れられる距離まで前に出て跪く。

「命を救っていただいた御恩は、命でお返しします」
「ゆ、勇者様に、生涯の忠誠を誓います」
「いやいや。そんな重たい忠誠はいらないよ。ただ、ちょっと魔王討伐を手伝ってほしいんだ」

 ユリアーナとマーヤがいれば、なんとかなりそうなんだけどね。

「別に戦闘を強要するつもりはないし、やりたいことがあるなら、途中でパーティを抜けてもいい。というか、俺の〈支援魔法〉で鍛えたら、俺では止められないくらい強くなるだろうからね」

 パーティリーダーが、パーティ最弱だからな。

「二人に関しては、気長に待つよ」
「夕方までに答えを出せると思いますよ」

 縁が呟き、隣のマーヤが頷く。
 この二人が通じ合う。嫌な予感しかしない。

「自己紹介も終わったし、答えが出るまでこの家でのんびりしてて」

 二人がなにかやらかす前に解散する。

「私は、本田先輩に現実を見せてきますね」

 縁が本田さんを小脇に抱えて窓から飛び出す。玄関から出入りしなさい。

「では、御主人様。私たちは、駄馬と耳長の躾をしましょう」

 人馬族の双子と森人族の母親は、僕に対して明確な悪意を向けているけど、森人族の娘の方は、大人しく見ているだけだったから、躾る必要はないのでは?

「てか、俺がやんの?」

 奴隷の躾ってなにをすればいいの?

「そもそも、この四人は明後日にはお別れするだろうし、パーティに加わっても、勝手なことをして足を引っ張りそうだから、明後日まで放置でいいんじゃない?」

 飛翼族の親子、ロクサーヌさんとフルールさんはもてなすよ。

「……御主人様を侮辱したので許しません」

 本音を言いやがった。薄々感づいてたよ。僕を侮辱したからお仕置きしたいんだろうな、って思ってたけど、それ、言っちゃうんだ。
 折れそうにないマーヤを前に、助けを求めて室内を見渡す。

 僕の視線に気づいたユリアーナは、「私は手伝わないけど、躾には賛成」と言って、町ブラの続きに出掛けた。

 アリスとテレスをあやしてる常識人の御影さんなら、と思って声をかけようとしたら、先に「徹底的に躾てくださいね」と釘を刺された。

 由香と由希は、「夕飯の仕込みがあるから手伝えないの」「調教は兄ちゃんの得意分野だよ」と言って厨房へ消えた。

 シュェさんとエウフェミアさんは"調教"に興味津々。そういえば、昨晩、覗いてたよね。

 ロジーネ姉さんは、「肉体的にも精神的にもお腹いっぱいだからパス」と言われた。いっぱい出したからね。

 ならばと、ロクサーヌさんとフルールさんに視線を向けたら、「躾は始めが肝心ですよ」とアドバイスされた。

 なんてことだ。孤立無援だ。

「御主人様。いつも通りで大丈夫です」

 根拠のない期待。

「はっ。妖眼は人を見る目がないんだな」

 人馬族の姉、ツェツィーリアさんが嘲る。

「ふん。こんな弱そうな男に仕えるくらいだからな」

 人馬族の妹、ヘンリエッテさんが続く。

「獣人など、醜い人族の男に誑かされるような頭の弱い種族ですからね」

 森人族の母親、イレーヌさんも続く。
 娘のイヴェットさんは、ボンヤリ成り行きを見てるだけ。

「所詮は妖眼ですね」

 イレーヌさんの一言で我慢の限界が来た。

「うん。全力で躾てやる」

 二階の主寝室に移動して、最近ユリアーナに「ベッドで魔王に会った」と言わせた僕の〈性豪〉スキルを全力で披露してやろう。
 あと、普段は抑えてる性感強化も。
 どこまで耐えられるか試してやる。
 どうせ、明後日以降は会わなくなるんだ。後腐れない相手なら、気にする必要はないよね。
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