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奴隷生活2日目。
といっても1日経ったのか怪しいが体内時計に従う。涙を散々流せば次第に冷静になってきて、周りの情報を把握していく。

陽の光が一筋も当たらない地下のような場所にいて、離れた場所に俺と同じような種族が何人か。俺の檻は一等大きい中で1人ぼっち。比べて他の奴隷はさほど大きくもない檻に鮨詰め状態である。時折啜り泣く声、嗚咽が耳を通る。
皆んなが皆んなガリガリで骨と皮膚だけの体にいくつもの傷が走っている。

グゥー
「…あーお腹減った。」
誰かのお腹の音に触発され自分のお腹も空く。

「一晩たって冷静になったかね?」
突然の眩しさに目を閉じていると聞こえたあの人間の声。即座に頭を上げればニタニタしたその顔が目に飛び込んできた。昨晩と違うのは後ろに奴隷らしき人を連れている点だ。そいつは何やら美味しそうな料理を持っていて自然と目が釘付けになる。

「欲しいだろう?なら、わっちに頭をたれるのじゃ。」
優しい口調で言われたその言葉を理解すると同時に怒りが沸騰する。
しかし、ここで怒鳴っても立場が悪くなるだけだと冷静に判断する自分もいる。

俺が出した結論は頭を下げようということだ。
「おほう!そうじゃそうじゃ!やっとわっちの偉大さが分かったか!よし!料理はたんとくれてやる。心配しんくとも変なものは入っておらんよ。」

後ろに控えていた奴隷の人間が震えながら檻に入り、鍋らしき物とスプーンをおく。
自称主人が去ったのを確かめて鍋を見つめる。

開けてみればまだ温かい具沢山の雑炊が入っていた。
意を決して食べようと思えば、ふと複数の目に気がつく。
鍋は大きめで1人では食べ切れるか分からないほどの雑炊が入っているので分けることはできる。しかし檻と鎖が邪魔をして鍋を渡せないのだ。
渡せないもの分けられない。俺だっていつ食べれなくなるか分からないからと言い訳を考えつつ手をつける。数口食べたところで、先程鍋を持ってきた人間が戻ってきた。

「どうか俺たちにも分けてくれないか?」
檻を握り懇願する人間。

「分けようにも渡せないのだから無理だ。すまん。」
「じゃあ渡せれば食べさせてくれるのか?」
「あ、ああ。でも檻を開けないことには渡せないぞ?」
「分かった!」

人間は鍵を持っていたらしく俺の檻を開け、目の前まで来た。
「ほら、持って行けよ。」
「感謝する!」
渡せるなら雑炊を分けると言った手前、まだ食べ足りなかったが渡す。

人間は心の底から安堵したような顔で鍋を受け取り奴隷が集まっている場所に戻って行った。

自分自身の檻に入るために鍵を持っていたんだなと眺めながらぼんやりと思う。
その光景を見てピンと響くものがきた。

自称主人の信頼を得られればいつかは逃げられるんじゃないか?

………当分は自称主人に媚を売る気で行こう。何、俺は嫌な上司にも笑顔で対応してきたんだ。それと似たようなものだと思えば簡単だ。

目指せ脱走!


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