予知姫と年下婚約者

チャーコ

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番外編 Side:瀬戸征士

8 考えるのは貴女のことだけ

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 中等部の卒業式になった。これで一歩大人に近づける。
 前もってテニス部部長の引き継ぎはしていた。高等部ではテニス部に入らず、虹川会長の下で本格的に経営を学ぶつもりだ。
 式が終わって外に出ると、たくさんの女子に囲まれてしまった。
 ブレザーのボタンが欲しいとか、一緒に写真を撮ろうとか。
 月乃さんのモットーは「女の子に優しく」だ。
 なので出来る限り要望に応えた後、クラスへ戻った。


「瀬戸。お前にお花」

 友達の深見が、何故か綺麗な紫色の花を渡してきた。

「何でお前が僕にお花をくれるんだ?」

 疑問をぶつけると、少し困った顔で深見は答えた。

「虹川先輩からお前にって。女子に囲まれていたから、中には入れないってさ。俺も同じ紫のお花をもらった」
「…………」

 月乃さんのモットーに従ったら、直接お花をもらえないとは本末転倒だ。
 僕がショックを受けていると、クラスメイト達が口々に言った。

「俺は直接、虹川先輩から卒業おめでとうって言われたぜ」
「お弁当食べたの言ったら、嬉しがってた」
「後から瀬戸に、虹川先輩からおめでとうって言われたって、自慢しようと思ってたんだぜ」

 僕は更に追い打ちをかけられてしまった。
 早速携帯を取り出して、月乃さんへ恨み文句を連ねてメールを送信した。
 高等部へ入学したら、良いことがあるといいな。

 ♦ ♦ ♦

 入学前に誕生日プレゼントとして、月乃さんから腕時計をもらった。
 有名なブランド物で、色味を抑えた銀色に黒文字盤がついた時計だ。多分、百万円前後はしそうだ。
 気に入るか心配そうな顔をしていたので、当然僕は嬉しい、高等部に入ったら毎日つけると言った。
 月乃さんは、それを聞いて安心したようだ。
 こんな高価そうな時計、壊さないようにしなければ。なにより月乃さんが、僕の為に選んで買ってくれた時計だ。
 入学前に、ひとつ良いことがあった。ものすごく嬉しい。

 ♦ ♦ ♦

 高等部の文系クラスへ入って、また深見とクラスメイトになった。
 文系クラスなのでクラス替えはない。腐れ縁が続きそうだ。
 深見はいつもテニス部へ勧誘してくる。でも僕は、放課後は虹川会長の下で色々学んでいるから、そんな余裕はない。
 会長の書斎で経営理論を聞いたり、グループ企業の企業見学もする。
 僕がわからないことを訊くと、質問が的確、着眼点が良い、飲み込みが早いと褒められた。褒められれば、尚更やる気も出るものだ。

 ただ……、高等部から入学してきた、志野谷依子によく絡まれる。
 苦手な政治経済の授業内容を解説してくれだの、昼を一緒に食べようだの、挙句の果てに付き合ってくれだの。
 中等部までは、僕が月乃さんのことを好きなのを皆知っていたから、多少冗談で好きと言われたくらいだった。
 しかし、志野谷は何回婚約者がいると言っても、あまり聞いてくれない。
 僕は気分転換に、月乃さんへメールした。

『たまには月乃さんのお弁当が食べたいので、都合が良かったら明日作ってください』

 この間、パスケースの月乃さんとの写真をなくしてしまったので本人に会いたい。すぐに、明日お弁当を届けてくれるというメールが返ってきた。
 僕は楽しみに待つことにした。

 ♦ ♦ ♦

「さっきの政経の授業、わからないところがあったの。後で瀬戸くん、教えてくれない?」
「お前、この間も同じこと言ってただろ。先生に訊いてこいよ」
「やだよ~、政経の先生わかりにくいんだもん。瀬戸くん、政経得意じゃん」
「……はあ。じゃあ、昼休みな」

 今日も志野谷に絡まれる。でも、女子にはなるべく優しく、だ。
 仕方なく勉強を教える約束をする。

「やったー! いつもありがとう。今日は瀬戸くんへお礼にお弁当を作って来たんだよ。いつも購買か学食でしょ?」
「いや、今日はお弁当が届くはずだから……」
「お弁当が届く?」

 そう。お弁当が届く。僕の大好きな月乃さんが持って来てくれる。
 今日の楽しみは、それに尽きる。
 しかし、少ししてからマナーモードにしていた携帯が振動した。
 見てみると月乃さんからのメールで、寝坊したからお弁当を作れなかったと書いてあった。僕はがっかりして溜息をついた。
 せめて顔くらいは見たかった。
 まだ側にいた志野谷へ、渋々言った。

「志野谷。やっぱりお弁当もらうよ。折角作って来てくれたんだし」
「本当!? ありがとう! 一緒に食べよ?」
「まあ……政経教える約束しているし」

 お昼を食べているとき、志野谷が身体を寄せてきた。
 僕は月乃さんと、こんなに寄り添って食べたことはない。お弁当も格段に月乃さんの方が美味しい。何を考えても、月乃さんを思い出してしまう。
 パスケースの写真、本腰を入れて探してみよう。
 何故か深見が、変な目つきで僕を眺めていた。
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