118 / 124
特別編
月乃さん視点・征士くん視点
しおりを挟む
● 月乃さん視点
征士くんが中等部二年だったときのクリスマスは、手編みのセーターと手袋をプレゼントした。
嬉しそうに受け取って包みを開けた征士くんは、何故か少し残念そうな顔。
「え? セーターと手袋嫌だった?」
前もって、征士くんのお母様にサイズは訊いていた。合っているはず。
「そういう訳じゃないんですけど……」
歯切れの悪い言い方に首を傾げる。チョコレートの手作りは喜んでくれたのに、手編みの物は気に入らなかっただろうか。
翌年のクリスマスは既製品の黒い靴をプレゼントした。これもサイズは予め訊いていた。
「今年は靴ですか……」
またもや落胆した様子に戸惑いを隠せない。手作りも既製品も嫌なのだろうか。
私の戸惑いを察したのか、征士くんは躊躇いながら言った。
「セーターも手袋も靴も、もらって嬉しいんです。ただ……僕成長期だから、すぐに使えなくなっちゃうじゃないですか。それがもったいないんです」
「ああ、そういうことなのね! でもサイズが合わなくなったら、また作ってあげるわよ」
私は得心したが、まだ彼は浮かない顔だ。
「折角月乃さんが贈ってくれたものなので、いつまでも大切に使いたいんです」
──あの頃の言葉は、今ならよくわかる。ずっと征士くんは私のことが好きだったのだ。
もう成長期は終わっているけれど……今年のプレゼントはマフラーを編もうかしら。ちょっと手の込んだマフラーを作ろう。
プレゼントすると、征士くんは満面の笑顔になった。
「ありがとうございます! いつまでも大事に使いますね」
彼が結婚してこの家に持ってきた物の中に、例のセーターと手袋と靴があるのを知っている。
私は学生時代にプレゼントしてもらったあしかのぬいぐるみを、戸棚から出して部屋の目立つところに飾った。
♦ ♦ ♦
● 征士くん視点
クリスマスが終わって飾りを片付けていると、月乃さんが来て手伝ってくれた。
「ポインセチアちょっと枯れちゃったわね」
「枯れた部分だけ摘み取れば、まだ楽しめますよ」
僕はクリスマスツリーのオーナメントを外しながらそう言った。
ひいらぎのオーナメントは、魔除けの意味もあるらしい。赤い玉のオーナメントは永遠の象徴と聞いたことがある。
ツリーを片付け、玄関に飾ったクリスマスリースを取りに行った。
ふとリースの意味を思い出す。
リースの下部分のリボンには、お互いが愛情を持って永遠の絆で結び合わせられるようにとの願いが込められているという。
その意味を思い出すと片付けてしまうのが惜しくなり、部屋の扉に飾ろうかと考えた。
「月乃さん。クリスマスリースはまだ飾っていていいですか?」
月乃さんは目を見開いた後、微笑んだ。彼女も意味は知っているようだ。
「いいんじゃない」
頷いた後「はい」とポインセチアを渡された。真っ赤なポインセチア。枯れた部分は取り除いてある。
「……僕に、ですか?」
「征士くんだからよ。私からのプレゼント」
ふふ、と綺麗な笑顔を見せてから、花言葉を教えてくれた。
「『私の心は燃えている』よ」
僕が以前あげた真紅の薔薇の花言葉にも負けないプロポーズのような言葉に、顔が熱くなる。月乃さんからのプロポーズは反則だ。
ポインセチアを受け取り、それとともに月乃さんを抱き寄せる。
「……あんまり煽らないでください」
鮮やかなポインセチアの赤と同じ色の唇に、僕のそれをそっと重ねた。
征士くんが中等部二年だったときのクリスマスは、手編みのセーターと手袋をプレゼントした。
嬉しそうに受け取って包みを開けた征士くんは、何故か少し残念そうな顔。
「え? セーターと手袋嫌だった?」
前もって、征士くんのお母様にサイズは訊いていた。合っているはず。
「そういう訳じゃないんですけど……」
歯切れの悪い言い方に首を傾げる。チョコレートの手作りは喜んでくれたのに、手編みの物は気に入らなかっただろうか。
翌年のクリスマスは既製品の黒い靴をプレゼントした。これもサイズは予め訊いていた。
「今年は靴ですか……」
またもや落胆した様子に戸惑いを隠せない。手作りも既製品も嫌なのだろうか。
私の戸惑いを察したのか、征士くんは躊躇いながら言った。
「セーターも手袋も靴も、もらって嬉しいんです。ただ……僕成長期だから、すぐに使えなくなっちゃうじゃないですか。それがもったいないんです」
「ああ、そういうことなのね! でもサイズが合わなくなったら、また作ってあげるわよ」
私は得心したが、まだ彼は浮かない顔だ。
「折角月乃さんが贈ってくれたものなので、いつまでも大切に使いたいんです」
──あの頃の言葉は、今ならよくわかる。ずっと征士くんは私のことが好きだったのだ。
もう成長期は終わっているけれど……今年のプレゼントはマフラーを編もうかしら。ちょっと手の込んだマフラーを作ろう。
プレゼントすると、征士くんは満面の笑顔になった。
「ありがとうございます! いつまでも大事に使いますね」
彼が結婚してこの家に持ってきた物の中に、例のセーターと手袋と靴があるのを知っている。
私は学生時代にプレゼントしてもらったあしかのぬいぐるみを、戸棚から出して部屋の目立つところに飾った。
♦ ♦ ♦
● 征士くん視点
クリスマスが終わって飾りを片付けていると、月乃さんが来て手伝ってくれた。
「ポインセチアちょっと枯れちゃったわね」
「枯れた部分だけ摘み取れば、まだ楽しめますよ」
僕はクリスマスツリーのオーナメントを外しながらそう言った。
ひいらぎのオーナメントは、魔除けの意味もあるらしい。赤い玉のオーナメントは永遠の象徴と聞いたことがある。
ツリーを片付け、玄関に飾ったクリスマスリースを取りに行った。
ふとリースの意味を思い出す。
リースの下部分のリボンには、お互いが愛情を持って永遠の絆で結び合わせられるようにとの願いが込められているという。
その意味を思い出すと片付けてしまうのが惜しくなり、部屋の扉に飾ろうかと考えた。
「月乃さん。クリスマスリースはまだ飾っていていいですか?」
月乃さんは目を見開いた後、微笑んだ。彼女も意味は知っているようだ。
「いいんじゃない」
頷いた後「はい」とポインセチアを渡された。真っ赤なポインセチア。枯れた部分は取り除いてある。
「……僕に、ですか?」
「征士くんだからよ。私からのプレゼント」
ふふ、と綺麗な笑顔を見せてから、花言葉を教えてくれた。
「『私の心は燃えている』よ」
僕が以前あげた真紅の薔薇の花言葉にも負けないプロポーズのような言葉に、顔が熱くなる。月乃さんからのプロポーズは反則だ。
ポインセチアを受け取り、それとともに月乃さんを抱き寄せる。
「……あんまり煽らないでください」
鮮やかなポインセチアの赤と同じ色の唇に、僕のそれをそっと重ねた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
10
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる