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7. 暗雲の予感
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その晩、私の家の扉をノックする音が響いた。
誰かと思ったら、案の定アラクシウスだった。
「エリナ、頼みがある。」
いつもの低い声だけど、どこか深刻そうな響きがあった。
私は薬草棚の前にいた手を止めて彼を振り返った。
「どうしたんですか?また肩こりですか?それとも胃痛?」
「いや、今回は少し違う。これを見てほしい。」
そう言って彼が差し出したのは、右手の甲に広がる赤い腫れだった。
何かにかぶれたようで、ところどころ小さな傷も見える。
「えっ、それ、大丈夫ですか?」
私は驚いて近づいた。
「森で妙な枝に触れたんだが、どうにも痛みが引かない。」
アラクシウスが森に行くなんて、いったい何の用事だったのか気になりつつも、今は治療が先だ。
私は頷いて、薬草棚からいくつかの葉を取り出した。
「ちょっと待っててくださいね。すぐ治してみせます!」
そう意気込んだのはいいけど、なんだか今日は変に緊張して手が震える。
アラクシウスの真剣な眼差しが、どうしても気になってしまうのだ。
「ん…この葉をすり潰して…」
独り言をつぶやきながら作業をしていた私の目に、ふと目立つ赤い実が映った。
それは以前師匠から「毒性があるけど、適切に使えば効果的」と聞いていたものだった。
「これ、使えば治りが早いかも?」
一瞬の思いつきだった。
でも、今考えると、もっと慎重になるべきだったのに…。
すり潰した薬草にその実を混ぜ、私はアラクシウスの手に塗り始めた。
彼はじっと私を見ていて、少し落ち着かない。
「なんだ、その顔。」
「え、な、なんでもないです!」
どうしても目が合うと赤面してしまう。
これじゃあ患者より治療者の方が緊張しているみたいだ。
「…ん、少しひりつくな。」
アラクシウスが眉を寄せた瞬間、私は嫌な予感を覚えた。
そしてその予感は的中した。
「アラクシウス、もしかして手が痒くなってきてません?」
「…ああ、少し熱い感じもするが。」
その言葉を聞いた瞬間、私は真っ青になった。
「や、やばい、これ、副作用かも…!」
慌てて手元の薬草の専門書を引っ張り出し、目を走らせる。
そこには「赤い実は少量でも皮膚の刺激を引き起こす可能性あり」と書かれているじゃないの!
「どうする、エリナ?」
アラクシウスがじっと私を見つめる。
目の奥に宿る冷静さが、逆に私の焦りを煽る。
「だ、大丈夫です!ちょっと水で洗い流して…別の薬草で!」
私は慌てて水と新しい薬草を取り出し、必死で手当てを続けた。
アラクシウスは黙って私の手を見つめている。
だけど、その静かな視線が痛いくらいに刺さる。
「…失敗しちゃった。」
治療が一段落して、ようやく落ち着いた頃には、私は完全に落ち込んでいた。
薬草使いとしての誇りも、彼に対する信頼も、自分で傷つけたような気がしてならない。
「ごめんなさい、アラクシウス。本当に迷惑かけちゃって…。」
俯いて謝る私の頭に、ふいに彼の大きな手が乗った。
「謝る必要はない。」
彼の声は、いつもより柔らかかった。
「お前は俺のために最善を尽くした。それだけで十分だ。」
顔を上げると、彼は優しく微笑んでいた。
その表情が眩しくて、私はますます恥ずかしくなる。
「でも、私…」
「それに、こうしてまたお前に触れてもらえたからな。」
――何それ。
からかわれているのかと思ったけど、彼の言葉には冗談めいた響きはなかった。
それどころか、私の顔を見つめる瞳には、何か温かいものが宿っているようだった。
「エリナ、お前は勇気がある。それを誇りに思え。」
そんな風に言われたら、どうしても嬉しくなってしまうじゃない。
私はそっと顔を赤らめながら、「ありがとうございます」と小さく呟いた。
でもその夜、私は寝付けなかった。
彼の優しさが胸を締め付ける一方で、自分の気持ちがどんどん膨らんでいくのを感じていたからだ。
この想いはどこに向かうのだろう。
アラクシウスと私の未来に、光はあるの。
それとも――
暗雲が迫るような予感に、私はただ不安でいっぱいだった。
誰かと思ったら、案の定アラクシウスだった。
「エリナ、頼みがある。」
いつもの低い声だけど、どこか深刻そうな響きがあった。
私は薬草棚の前にいた手を止めて彼を振り返った。
「どうしたんですか?また肩こりですか?それとも胃痛?」
「いや、今回は少し違う。これを見てほしい。」
そう言って彼が差し出したのは、右手の甲に広がる赤い腫れだった。
何かにかぶれたようで、ところどころ小さな傷も見える。
「えっ、それ、大丈夫ですか?」
私は驚いて近づいた。
「森で妙な枝に触れたんだが、どうにも痛みが引かない。」
アラクシウスが森に行くなんて、いったい何の用事だったのか気になりつつも、今は治療が先だ。
私は頷いて、薬草棚からいくつかの葉を取り出した。
「ちょっと待っててくださいね。すぐ治してみせます!」
そう意気込んだのはいいけど、なんだか今日は変に緊張して手が震える。
アラクシウスの真剣な眼差しが、どうしても気になってしまうのだ。
「ん…この葉をすり潰して…」
独り言をつぶやきながら作業をしていた私の目に、ふと目立つ赤い実が映った。
それは以前師匠から「毒性があるけど、適切に使えば効果的」と聞いていたものだった。
「これ、使えば治りが早いかも?」
一瞬の思いつきだった。
でも、今考えると、もっと慎重になるべきだったのに…。
すり潰した薬草にその実を混ぜ、私はアラクシウスの手に塗り始めた。
彼はじっと私を見ていて、少し落ち着かない。
「なんだ、その顔。」
「え、な、なんでもないです!」
どうしても目が合うと赤面してしまう。
これじゃあ患者より治療者の方が緊張しているみたいだ。
「…ん、少しひりつくな。」
アラクシウスが眉を寄せた瞬間、私は嫌な予感を覚えた。
そしてその予感は的中した。
「アラクシウス、もしかして手が痒くなってきてません?」
「…ああ、少し熱い感じもするが。」
その言葉を聞いた瞬間、私は真っ青になった。
「や、やばい、これ、副作用かも…!」
慌てて手元の薬草の専門書を引っ張り出し、目を走らせる。
そこには「赤い実は少量でも皮膚の刺激を引き起こす可能性あり」と書かれているじゃないの!
「どうする、エリナ?」
アラクシウスがじっと私を見つめる。
目の奥に宿る冷静さが、逆に私の焦りを煽る。
「だ、大丈夫です!ちょっと水で洗い流して…別の薬草で!」
私は慌てて水と新しい薬草を取り出し、必死で手当てを続けた。
アラクシウスは黙って私の手を見つめている。
だけど、その静かな視線が痛いくらいに刺さる。
「…失敗しちゃった。」
治療が一段落して、ようやく落ち着いた頃には、私は完全に落ち込んでいた。
薬草使いとしての誇りも、彼に対する信頼も、自分で傷つけたような気がしてならない。
「ごめんなさい、アラクシウス。本当に迷惑かけちゃって…。」
俯いて謝る私の頭に、ふいに彼の大きな手が乗った。
「謝る必要はない。」
彼の声は、いつもより柔らかかった。
「お前は俺のために最善を尽くした。それだけで十分だ。」
顔を上げると、彼は優しく微笑んでいた。
その表情が眩しくて、私はますます恥ずかしくなる。
「でも、私…」
「それに、こうしてまたお前に触れてもらえたからな。」
――何それ。
からかわれているのかと思ったけど、彼の言葉には冗談めいた響きはなかった。
それどころか、私の顔を見つめる瞳には、何か温かいものが宿っているようだった。
「エリナ、お前は勇気がある。それを誇りに思え。」
そんな風に言われたら、どうしても嬉しくなってしまうじゃない。
私はそっと顔を赤らめながら、「ありがとうございます」と小さく呟いた。
でもその夜、私は寝付けなかった。
彼の優しさが胸を締め付ける一方で、自分の気持ちがどんどん膨らんでいくのを感じていたからだ。
この想いはどこに向かうのだろう。
アラクシウスと私の未来に、光はあるの。
それとも――
暗雲が迫るような予感に、私はただ不安でいっぱいだった。
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