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(1)没落貴族、石畳に立つ
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夕暮れの街は冷たい風が吹き抜けていた。リリアナ・ローズウッドは、かつて社交界で称賛された美貌の令嬢だった。しかし今、彼女は石畳の上に座り込み、ぼろぼろのドレスをまといながら空を見上げている。
「私の人生、どうしてこうなったのかしら……」
リリアナは自問したが、答えは至極単純だった。家の財産が尽き、屋敷が抵当に入れられ、最後には彼女自身も「用済み」扱いされて追い出されたのだ。
元婚約者のノアが冷たく告げた言葉が耳にこびりついている。
「君が何も持っていないなら、僕には何の得もないだろう?」
「ハァッ!」
リリアナは思い切り石を蹴飛ばした。もちろん、彼女の華奢な足では石は微動だにせず、ただ爪先が痛んだだけだった。
「なんなのよ!こんな街、消えてなくなればいいのに!」
その時、通りがかった少年に「怖っ」と言われ、リリアナは恥ずかしさに頬を赤らめた。
「まあいいわ、怒鳴ったところで誰も助けになんて来ないんだから……」
そう思った矢先、彼女の前に突然、地味な服を着た一人の男性が立った。
「失礼、こんなところで夜を迎えるのは危険ですよ。大丈夫ですか?」
振り返ったリリアナの目に映ったのは、外見に特別な特徴はないが、優しさが滲み出ている男性だった。くすんだ茶色の髪、少し曲がった鼻、そして、控えめだが穏やかな微笑み。
「……誰?」
「セドリック・ウィンターソンと申します。近くの領地で伯爵をしております。」
リリアナはじっと彼を見つめた。地味すぎる。伯爵と名乗る割にはオーラがない。しかし、その眼差しは驚くほど真剣だった。
「あなた、どこの乞食かと思ったけど、伯爵だって? 冗談よね?」
セドリックは苦笑した。
「ええ、よく言われます。でも本当です。ここで夜を過ごすつもりなら、ぜひ私の屋敷を使ってください。」
「あなたのような人が伯爵なんて、世の中どうかしてるわね。」
リリアナは小さく呟いたが、空腹に負けてその申し出を受けることにした。
---
セドリックの屋敷は、彼の見た目そのままに質素だった。豪華なシャンデリアも、絢爛たる絵画もなく、目に入るのは実用的な家具ばかりだった。
「ここが伯爵の屋敷?嘘でしょ……」
リリアナは呆然と立ち尽くした。かつての彼女の家には、広い庭園に噴水、煌びやかなサロンがあり、どこを見ても金や銀が輝いていた。しかしここは……。
「気に入らなかったらごめんなさいね。」セドリックは申し訳なさそうに笑った。「僕にとっては十分すぎる広さなんです。」
「広さの問題じゃないわ。」
リリアナは、思わずため息をついた。
「伯爵がこれでは、領民たちもさぞがっかりしてるでしょうね。」
「そうですか?」
セドリックは少し首をかしげた。
「僕は領民たちには結構好かれていると思うんですが。」
「信じられないわ。」
リリアナは目を細めた。
「あなたみたいな人、普通は嫌われるでしょ?」
セドリックは少し沈黙した後、笑いながら言った。
「それはそうかもしれません。でも、僕の取り柄は顔ではなく、働き者だというところなんです。」
---
翌朝、リリアナは屋敷の外でセドリックが領民たちと話している姿を見た。泥だらけの服で、農夫たちと笑い合いながら畑仕事をしている彼の姿は、リリアナの知るどの貴族とも違っていた。
「……伯爵なのに畑仕事なんて、本当にどうかしてるわ。」
その後、領民の女性がセドリックにパンを差し出しながら言った。
「伯爵様、いつもありがとうございます。おかげで私たちも安心して暮らせます。」
セドリックは照れたように笑いながらパンを受け取り、「僕なんて大したことしてませんよ。みなさんが頑張ってくれるから成り立つんです。」と答えた。
その光景を見たリリアナは、少しだけセドリックに対する見方が変わったように感じた。
---
その日の夜、リリアナはセドリックに尋ねた。
「あなた、本当に伯爵なの?」
「またその話ですか。」
セドリックは苦笑した。
「もう証明のしようがありませんね。」
「なら、証明してみせてよ。」
セドリックは思案した後、椅子から立ち上がり、ふざけた調子で手を広げた。
「では、これでどうです?『僕は伯爵です』って叫びましょうか。」
「それはやめて。」
リリアナは思わず笑ってしまった。
「ますます信じられなくなるだけよ。」
「私の人生、どうしてこうなったのかしら……」
リリアナは自問したが、答えは至極単純だった。家の財産が尽き、屋敷が抵当に入れられ、最後には彼女自身も「用済み」扱いされて追い出されたのだ。
元婚約者のノアが冷たく告げた言葉が耳にこびりついている。
「君が何も持っていないなら、僕には何の得もないだろう?」
「ハァッ!」
リリアナは思い切り石を蹴飛ばした。もちろん、彼女の華奢な足では石は微動だにせず、ただ爪先が痛んだだけだった。
「なんなのよ!こんな街、消えてなくなればいいのに!」
その時、通りがかった少年に「怖っ」と言われ、リリアナは恥ずかしさに頬を赤らめた。
「まあいいわ、怒鳴ったところで誰も助けになんて来ないんだから……」
そう思った矢先、彼女の前に突然、地味な服を着た一人の男性が立った。
「失礼、こんなところで夜を迎えるのは危険ですよ。大丈夫ですか?」
振り返ったリリアナの目に映ったのは、外見に特別な特徴はないが、優しさが滲み出ている男性だった。くすんだ茶色の髪、少し曲がった鼻、そして、控えめだが穏やかな微笑み。
「……誰?」
「セドリック・ウィンターソンと申します。近くの領地で伯爵をしております。」
リリアナはじっと彼を見つめた。地味すぎる。伯爵と名乗る割にはオーラがない。しかし、その眼差しは驚くほど真剣だった。
「あなた、どこの乞食かと思ったけど、伯爵だって? 冗談よね?」
セドリックは苦笑した。
「ええ、よく言われます。でも本当です。ここで夜を過ごすつもりなら、ぜひ私の屋敷を使ってください。」
「あなたのような人が伯爵なんて、世の中どうかしてるわね。」
リリアナは小さく呟いたが、空腹に負けてその申し出を受けることにした。
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「ここが伯爵の屋敷?嘘でしょ……」
リリアナは呆然と立ち尽くした。かつての彼女の家には、広い庭園に噴水、煌びやかなサロンがあり、どこを見ても金や銀が輝いていた。しかしここは……。
「気に入らなかったらごめんなさいね。」セドリックは申し訳なさそうに笑った。「僕にとっては十分すぎる広さなんです。」
「広さの問題じゃないわ。」
リリアナは、思わずため息をついた。
「伯爵がこれでは、領民たちもさぞがっかりしてるでしょうね。」
「そうですか?」
セドリックは少し首をかしげた。
「僕は領民たちには結構好かれていると思うんですが。」
「信じられないわ。」
リリアナは目を細めた。
「あなたみたいな人、普通は嫌われるでしょ?」
セドリックは少し沈黙した後、笑いながら言った。
「それはそうかもしれません。でも、僕の取り柄は顔ではなく、働き者だというところなんです。」
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翌朝、リリアナは屋敷の外でセドリックが領民たちと話している姿を見た。泥だらけの服で、農夫たちと笑い合いながら畑仕事をしている彼の姿は、リリアナの知るどの貴族とも違っていた。
「……伯爵なのに畑仕事なんて、本当にどうかしてるわ。」
その後、領民の女性がセドリックにパンを差し出しながら言った。
「伯爵様、いつもありがとうございます。おかげで私たちも安心して暮らせます。」
セドリックは照れたように笑いながらパンを受け取り、「僕なんて大したことしてませんよ。みなさんが頑張ってくれるから成り立つんです。」と答えた。
その光景を見たリリアナは、少しだけセドリックに対する見方が変わったように感じた。
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その日の夜、リリアナはセドリックに尋ねた。
「あなた、本当に伯爵なの?」
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セドリックは苦笑した。
「もう証明のしようがありませんね。」
「なら、証明してみせてよ。」
セドリックは思案した後、椅子から立ち上がり、ふざけた調子で手を広げた。
「では、これでどうです?『僕は伯爵です』って叫びましょうか。」
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リリアナは思わず笑ってしまった。
「ますます信じられなくなるだけよ。」
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