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結婚式から2週間後──セーリーヌはぼんやりと窓の外を眺めていた。
式で殿下にされたことを思い出してしまうと、憂鬱な気分になってしまうからだ。
(アドニス様……)
心の中で呟く──殿下がエリザベータと結婚してからというもの、アドニス侯爵とは一度も会えていない。
仕事で忙しくなってしまったのか、彼がどこで何をしているのかさえわからないのだ。
(わたくしのことを嫌いになってしまったのかしら……?)
そう思うと泣きそうになった。
だが、涙を流すわけにはいかないと思い直し、ぐっと堪える。
そして、深呼吸をした。気持ちを落ち着かせよう──
そのときだった。
突然、部屋のドアがノックされる音が聞こえたのである。
セーリーヌは慌てて扉に近づき、開いた。
すると、そこにはアドニス侯爵の姿があったのである──
* * *
「アドニス様!」
思わず抱きついてしまうセーリーヌ。
彼は優しく抱き止めてくれた。
懐かしい匂いに包まれる──
それだけで幸せな気持ちになれた。
しかし、すぐに我に返ると慌てて離れる。
(いけませんわ……使用人たちがいる前でこんなこと……)
そう思いながらも離れられないでいた──。
そんなセーリーヌの気持ちを察したのか、アドニス侯爵は微笑みながら言った。
「久しぶりだな、セーリーヌ」
「ええ……」
セーリーヌは短く答えることしかできなかった。
どう反応すれば良いのかわからなかったのである。
「突然、訪ねてしまってすまない。どうしても貴女に会いたかった」
「わたくしもです……アドニス様……」
セーリーヌは素直に自分の気持ちを伝えた。
すると、彼は嬉しそうに微笑んでくれる。
その表情を見ると胸が高鳴るのを感じた──。
だが、同時に不安な気持ちにもなる。
(わたくしに会いに来てくれたということは何か事情があるはず……)
なぜ会いに来てくれたのだろうか? そして、自分に何の用があるのか?
そんなことを考えているうちに沈黙が訪れる──。
それを破ったのはアドニス侯爵の方だった。
彼は少し躊躇いがちに口を開いた。
「殿下とあなたは結婚式を抜け出した。あの殿下との逢引はどうだった?」
式で殿下にされたことを思い出してしまうと、憂鬱な気分になってしまうからだ。
(アドニス様……)
心の中で呟く──殿下がエリザベータと結婚してからというもの、アドニス侯爵とは一度も会えていない。
仕事で忙しくなってしまったのか、彼がどこで何をしているのかさえわからないのだ。
(わたくしのことを嫌いになってしまったのかしら……?)
そう思うと泣きそうになった。
だが、涙を流すわけにはいかないと思い直し、ぐっと堪える。
そして、深呼吸をした。気持ちを落ち着かせよう──
そのときだった。
突然、部屋のドアがノックされる音が聞こえたのである。
セーリーヌは慌てて扉に近づき、開いた。
すると、そこにはアドニス侯爵の姿があったのである──
* * *
「アドニス様!」
思わず抱きついてしまうセーリーヌ。
彼は優しく抱き止めてくれた。
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それだけで幸せな気持ちになれた。
しかし、すぐに我に返ると慌てて離れる。
(いけませんわ……使用人たちがいる前でこんなこと……)
そう思いながらも離れられないでいた──。
そんなセーリーヌの気持ちを察したのか、アドニス侯爵は微笑みながら言った。
「久しぶりだな、セーリーヌ」
「ええ……」
セーリーヌは短く答えることしかできなかった。
どう反応すれば良いのかわからなかったのである。
「突然、訪ねてしまってすまない。どうしても貴女に会いたかった」
「わたくしもです……アドニス様……」
セーリーヌは素直に自分の気持ちを伝えた。
すると、彼は嬉しそうに微笑んでくれる。
その表情を見ると胸が高鳴るのを感じた──。
だが、同時に不安な気持ちにもなる。
(わたくしに会いに来てくれたということは何か事情があるはず……)
なぜ会いに来てくれたのだろうか? そして、自分に何の用があるのか?
そんなことを考えているうちに沈黙が訪れる──。
それを破ったのはアドニス侯爵の方だった。
彼は少し躊躇いがちに口を開いた。
「殿下とあなたは結婚式を抜け出した。あの殿下との逢引はどうだった?」
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