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3 ウエストランド

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 紳士が、自分の顔を指さした。

「わたし、何かの動物に似てませんか?」

「ええと、クマ、ですか」

「正解です。 一応私、ちょっと商談でこの王国まで来まして。 二ヶ月ほど滞在したら、また故郷のウエストランドに帰ります。 ウエストランドは王都とは違って、深い山と水に囲まれた島国です」

「そうですか。きっと素敵なところなんでしょうね」

 ロンリエッタは軽いリップサービスのつもりで言ったつもりだったが、この男はその言葉を真に受けてしまったらしい。

 大きな黒い目を更に輝かせて、ロンリエッタに近づいてきた。

「とても素晴らしいところです。空気は美味しく、春の山々は緑で満ちて美しい。
秋には 色づいて真っ赤になる。そして冬は雪で真っ白になる。
そして春になって芽が伸びて葉になり、また深い緑に染まる。
そんな季節の移ろいを身近に感じながら、私たちは生きているんです」

「そうなんですね。それは、癒されそうですね」

 ロンリエッタは、彼の近すぎる瞳を遠ざけようと 首を少し曲げた。

 しかしこのクマ男は、さらにロンリエッタの手をそっと掴んだ。

「山にはたくさんの動物たちが暮らしています。鹿や猪や蛇。もちろんクマも暮らしています。
今は夏ですから美しい蛍の光を見ることもできますよ。
幽霊だっています。肝試しが楽しいです」

「へえ、そうなんですね。幽霊だったら、私も興味あります」

 ロンリエッタはさりげなく彼の手から、自分の手を引きぬこうとするが、彼の手は熊のように大きくため、なかなか離れない。

「あなたもよかったら、私の家に来ませんか。幽霊が好きな方なら、大歓迎なんです。ついでにわたしの妻になりませんか」

「あなたの妻、ですって?」

 ロンリエッタは驚きのあまり声を上げると、やっと彼の手から自分の手を引き剥がして、ごっくんと唾を飲み込んだ。

 目の前のクマ男は恥ずかしそうに、髪の毛に手をやった。

「いや、驚かせてしまって申し訳ない。あまりにも綺麗な方なんで、ついつい口説いてしまいました。あなたみたいな 、色白で、おしとやかで小柄で、しかも幽霊が好きなお嬢さんは、あまり会ったことがないですから」

 ロンリエッタは、頬が熱くなるのを感じた。

 婚約破棄されたばかりの私がこんなに熱心に口説かれるなんて。奇妙な縁だと感じた。

「そんなことないですわ。他にもたくさん魅力的な方がたくさんいると思いますから」

「そんなことはありませんよ。あなたは十分素敵な人です。 もし僕に少しでも興味を持ってくれたら 、港近くのスパロいう宿に宿泊しています 。ぼくの名前は ジャークスといいます」

「私は ロンリエッタ・スノウです」

「ロンリエッタ。 いい名前ですね」

 ロンリエッタは恥ずかしそうに微笑すると、くるりと背を向けて、船室の中に戻っていった。
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