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 アラン・ベルナールは、公爵家の名家である。

 彼は、その身分にもかかわらず気さくで優しく、誰からも慕われていた。

 また、文武両道で賢く、若くして王宮に勤める者の中では出世頭と言われている。

 そんな彼の婚約者として自分が選ばれたことが誇らしかったし、お似合いだと思っている。

「あの…そちらは?」

 見慣れない令嬢が彼に寄り添っていたので、さすがのアナリスも動揺を隠せない。

「こちら、ソフィア・ハント嬢だ」

 ハント家といったら、男爵家だが、銀行業で財を成した家門である。どうも爵位を金で買ったと噂だ。

 その娘のソフィアは、アナリスと同じ16歳でありながら、既に社交界の華として名を馳せていた。

 アナリスは子供の頃から貴族としてマナーを叩き込まれてはいたが、身分の低い者に対する接し方までは習ったわけではない。

 どう対応したらいいのか分からなかったが、とりあえず誰とでも丁寧に挨拶をしなければと、慌てて口を開く。

「初めまして。ご紹介いただきましたアナリスと申します」

「あらあらまあまあ、あなたがアランのアナリスさんね?  お会いできて嬉しいわぁ!」

 ソフィアは、アナリスの両手をガシッと掴むと、目をキラキラさせながら顔を近づけてくる。

「アナリス様! あなた、財産はどれくらいおあり? もし良かったら、私のお父様におねだりして、ハント商会で融資先を探してあげてもよろしくてよ?」

 アナリスは、驚いて固まってしまう。

 アランが、そんなソフィアの肩を軽く叩いた。

「ソフィア、そこまでだよ。アナリスが困っているだろう?」

「あらあら! ごめんなさいね。てっきり融資が必要かなって。だって、お召しになっているのが、たいそう貧相でしたから!」

 ソフィアは慌てて離れると、にっこりと微笑んだ。

 アナリスは内心ムッとしたが、貴族のマナーとして顔には出さなかった。

「そうでしたの……」

「ふふふ。でも、安心したわ。あなた、とてもいい人みたい!」

 ソフィアはそう言うと、またアナリスの手をぎゅっと握った。

 そして、そのままアランに視線を向ける。

「アラン!  私、今日の舞踏会はとっても楽しめそうだわ! エスコートされるのは私ですものね!」
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