【完結】薔薇の仮面 ~演劇大好き少女は公爵様に溺愛されて~

朝日みらい

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第3章 謎の貴族ヴァルター

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公演の準備は順調……と言いたいところだけど、最近どうにも集中できない。なぜかって? それはもちろん、あの男――ヴァルターのせいだ。  

彼はよく劇場に姿を見せるし、スタッフや役者たちと何気なく言葉を交わしている。でも、その発言の端々から、どうにもただの観客とは思えない知識が滲み出るのだ。

宮廷のこと、貴族社会のあれこれ、まるで自分がそこにいたかのように詳しい。いや、普通の貴族以上に詳しい気がする。  

そして極めつけは、昨日の出来事だった。  

「マリア、あの男のこと、知ってるの?」

劇団の仲間の一人が、こっそり耳打ちしてきた。こういう話って妙にワクワクするのよね……って、いやいや、そんな場合じゃない。  

「え、ただの観客じゃないの?」  

すると彼女は意味深に笑って言った。  

「大貴族よ、公爵様! しかも高貴で王宮にも出入りしてるほど!」  

――は???  

一瞬、頭が真っ白になった。

ヴァルターが公爵? そんなバカな。いや、でもあの堂々とした態度、どこか品のある話し方、妙に人を惹きつける笑顔……あ、あれ? 言われてみれば、すごくそれっぽい気がする。  

その日、私は公演の稽古どころじゃなくなってしまった。というか、まともに立ち回ることもできず、劇団の座長に「マリア、おまえ恋でもしてるのか?」なんてからかわれる始末。ち、違う! 違うけど!! いや、違うよね!?  


そして迎えた翌日。

私は意を決して、ヴァルターに尋ねることにした。  

彼はいつものように劇場の奥の席に座り、静かに舞台を見つめていた。その姿が、なんというか……妙にかっこいいのが腹立たしい。  

私は咳払いして、彼の隣に腰を下ろす。  

「ねえ、あなた、本当に噂の公爵様なの?」

すると彼は微笑んで、何でもないことのように答えた。  

「ん? ああ、まあ、そうだね」 

「まあ、そうだね。じゃないわよ!! そんな大事なことを、なぜもっと早く言わないの!」  

「だって、言ったら君、こんな風に驚くじゃないか」

……ぐぬぬ。腹立たしいけど、彼の表情はどこか楽しそうだ。  

「君はどうする? これを知った以上、僕と距離を取るか?」

彼の言葉に、私はハッとした。

公爵である彼には政敵も多い。劇場にいる間ですら、刺客が潜んでいるかもしれない。私が彼に近づけば、私まで巻き込まれる可能性だってある。  

「……少し考えさせて」

そう言って席を立とうとした瞬間、ヴァルターは私の手をそっと握った。  

「マリア、君が離れたら、僕は悲しいな」 

う、うわ~~~!! そんなこと言われたら、もうどうすればいいのよ!?

 顔が熱くなるのを感じながら、私は彼の手を振り払うこともできず、ただその場に立ち尽くしてしまった――。  
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