【完結】薔薇の仮面 ～演劇大好き少女は公爵様に溺愛されて～

第4章 試練の始まり

劇団に入ったばかりの頃、私はただがむしゃらに演技を磨くだけでよかった。でも今は違う。認められた途端、足を引っ張ろうとする人……。  

イザベル。

彼女は劇団の看板女優であり、間違いなく私よりも経験豊富で美しい。だけど、最近、さらに私を見る目が鋭くなってきた気がする。いや、それどころか、あからさまに敵意を向けてくる。  

そして、ついに決定的な出来事が起こった。  

今回の王妃陛下が観覧する大舞台で、私は主役を任されることになっていた。それなのに――  

「ごめんなさいね、マリア。この役はあなたには荷が重すぎるわ」

稽古場でイザベルが優雅に告げたその瞬間、私の心臓は嫌な音を立てた。  

「え……？」 

「劇団としてもね、やはり経験のある役者に任せるべきだと思うの。陛下に粗相があってはいけないし」

イザベルの言葉に、周囲の劇団員たちは息を飲む。中には申し訳なさそうに目を伏せる人もいる。

ああ、これは……私を貶めるための策略ね？  

でも、私は負けない。悔しさで奥歯を噛みしめながらも、何も言わずにその場を後にした。  

……とはいえ、さすがにこのままじゃ終われない。  

その晩、ヴァルターの顔を見た途端、抑えていた感情が溢れ出た。  

「ねえ、聞いてよ！ イザベルが私の役を奪おうとしてるの！」  

彼は驚くどころか、むしろ苦笑して肩をすくめた。  

「そんなことだろうと思ったよ」 

「え？ なんでそんな涼しい顔してるの？」

「だって君がどんなに頑張っても、目立つほど敵は増えるものさ」 

くっ……なんかムカつくけど、正論すぎて反論できない！  

でも、そのあとヴァルターはそっと私の髪を撫でて、低く囁いた。  

「でも、大丈夫。君の実力は王妃も認めてる。だから、舞台に立つことになるのは決まってるんだ」

「……ほんと？」

「僕が嘘をついたことがある？」 

ない。そう、ヴァルターはいつだって私を守ってくれる。  

そして、彼の言葉通り、王妃陛下の意向によって、私は予定通り舞台に立てることになった。  

でも……それが新たな問題を呼ぶことになるなんて、思いもしなかった。