【完結】薔薇の仮面 ~演劇大好き少女は公爵様に溺愛されて~

朝日みらい

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第5章 人生最大の舞台

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ついに迎えた大舞台。  

袖から舞台をのぞくと、観客席にはびっしりと人が詰めかけていた。しかも、ただの観客じゃない。煌びやかな衣装をまとった貴族たちが、優雅に扇を揺らしながらこちらを見つめている。  

……う、うわぁぁぁ! 何このプレッシャー!?  

心臓が喉まで上がってきた気がする。もう舞台袖でぐるぐる回って逃げ出したい。  

「マリア、大丈夫?」

イザベルを除いて、劇団の仲間たちが心配そうに声をかけてくれる。みんな優しい。でも、ダメだ……私の足、震えてる……!  

そのとき、不意に肩をぽんっと叩かれた。振り向くと、そこにはヴァルター。彼は優雅に微笑んで、私をじっと見つめていた。  

「落ち着いて、マリア。君ならできる」

「で、でも……こんなにたくさんの貴族が……」 

「それがどうした? 彼らはただの観客だ。君は舞台の上で、彼らを魅了すればいい」

さらりと言ってのけるヴァルターに、私は思わず息を飲んだ。  

「……そんな簡単に言わないでよ!」

「簡単さ、君は僕の特別な女優だからね」

えっ……!? なにその甘いセリフ!!? 心臓に悪いんですけど!!  

そう思っている間に、舞台へ出る時間が来てしまった。もう逃げられない。私は深呼吸して、震える手をぎゅっと握る。  

大丈夫。私はマリア。舞台の上では、誰よりも輝ける――はず!  

……そして。  

公演は、驚くほどの成功を収めた。  

私の演技は観客を魅了し、舞台が終わるたびに劇場は拍手で満たされた。カーテンコールでは、王妃陛下が優雅に微笑みながら頷いてくださるのが見えた。  

「すごいよ、マリア!!!」

楽屋に戻るなり、仲間たちが歓声を上げて私を抱きしめる。  

「見た!? あの貴族たちの顔!」
「完全に君の虜だったよ!」
「ああもう、誇らしくて泣きそう!」

私も、込み上げるものを抑えきれず、思わず笑顔になった。  

「うん、やり切ったよ……!」

そして、楽屋の隅で腕を組んでこちらを見ていたヴァルターが、すっと近づいてきた。  

「お見事。君は本当に素晴らしかった」

「……ほんと?」

「ああ。僕の言った通りだったろう?」

えぇもう、この人、ほんとにさらっと甘いこと言う! でも……  

「……ありがとう、ヴァルター。あなたがいてくれてよかった」 

素直にそう言うと、彼は少し驚いたように目を瞬かせた。でもすぐに、満足げに微笑む。  

「それは光栄だな」  

そのまま私の髪を撫でてくるものだから、もう顔が熱い! ちょっ、みんな見てるのに!?  

でも、幸せな余韻に浸る間もなく、新たな問題がやってきた。  

「……マリア、君がすごいのは嬉しいけど、少し困ったことになったよ」  

ヴァルターが静かに呟く。  

「え、何?」

「君が貴族たちの間で話題になってる。……宮廷の権力者たちも、君を利用しようと動き始めているようだ」 

えぇぇ!? ちょっと待って! そんなの、私は望んでない!!  

「ど、どうしよう……」

不安げに呟くと、ヴァルターはふっと笑って、私の顎を持ち上げた。  

「大丈夫。僕が君を守る」 

ドキッ――!!!  

何その騎士みたいなセリフ!! かっこよすぎるんですけど!! でも、えっ、それってつまり……?  

「……つまり、私はヴァルターに守られる存在になっちゃうの?」

「それが嫌?」

ヴァルターが私の耳元に顔を寄せ、低く囁く。  

「僕としては、君が僕だけに頼るのも悪くないと思うんだけど?」

あああああ!!! もう!!! ズルい!!!  

顔が真っ赤になりながらも、私は彼の胸に軽く拳を当てる。  

「……バカ! もうちょっと真面目に考えてよ!」

彼はクスクス笑いながら、そっと私を抱き寄せた。  

「ちゃんと考えてるさ。君は僕にとって、大切な存在だからね」

そう言われて、私はもう何も言えなくなった。  

そして、その瞬間――  

背後から、ひそひそと囁く声が聞こえた。  

「……ねえ、あの二人、すごくない?」
「もはや舞台裏でも恋愛劇やってるみたいだよね……」
「私、ファンになりそう……」  

し、しまったぁぁぁ!!! みんなに見られてるぅぅぅ!!!  

ヴァルターは、そんな私の様子を見て、ただただ楽しそうに笑っていた。  

……もう、ほんとに、この人には敵わない!!  
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