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第14章 別れの夜
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私は今、猛烈に『面倒くさい』気分だった。
「マリア様、ぜひこのバラの花をお受け取りください!」
「マリア嬢、私の家門に嫁いでくだされば、最高級のドレスをお仕立てしますよ!」
「マリア! 君こそ我が人生の輝き――!」
……やかましい!!
舞台が終わるたび、こんな風に貴族の男たちが花束を持って列をなすのだ。私は劇団の看板女優になったらしいが、その副作用として、『求婚者の群れ』という厄介な現象が発生してしまった。
「はあ……もう勘弁してよ」
楽屋に逃げ込んで、ぐったりと腰を下ろす。
「なによこれ。ヴァルターに見せつけてやりたいわね」
あの冷静沈着な宰相様が、私のモテっぷりを見たらどんな顔をするか、ちょっと興味がある。
……とか思ってたら。
「お前、本当に人気者だな」
――はっ!?
低く響く声にビクリとして振り向くと、そこにはヴァルターがいた。
いつもの黒の軍服姿で、腕を組んで壁にもたれ、冷ややかな瞳でこっちを見ている。
「えっ、ちょっ、待って、どうしてここに――!?」
「そろそろ様子を見に来ようと思ってな」
じり……と彼が一歩近づく。
「……劇場の前にあれだけ男どもが群がっているとはな。知らなかったぞ」
「……そ、それは、舞台の影響でちょっとだけ……」
「ちょっと、か?」
じり、じり……さらに近づく。
……やばい、めっちゃ不機嫌だコレ!!!
「ヴァルター、あのね、私が好きなのはあなただけよ? 変な誤解しないでね?」
「……本当か?」
ぐいっと腕を引かれ、ヴァルターの胸に引き寄せられる。
「お前は誰かの家門に入るつもりはないんだな?」
「ないわよ! 絶対ない! ヴァルター以外に興味ない!」
「……そうか」
ホッとしたのか、彼の表情が少し和らいだ……と思ったのも束の間。
「なら、王妃の企みも無駄になるな」
「え?」
「お前を貴族と結婚させ、宮廷に縛りつけようとしている。知っているだろう?」
「……まあね。けど、そんなの受けるわけないわ」
「王妃は簡単に諦めないぞ」
ヴァルターの腕が、ぎゅっと私を抱きしめた。
「マリア、お前を守るためには、しばらく会えなくなる」
「……え?」
彼の言葉の意味が、一瞬理解できなかった。
「ヴァルター、それどういう――」
「決起の準備を進めなければならない。俺はこれからしばらく、宮廷を離れる」
「そんな……」
「お前が王妃の目の届く場所にいる限り、俺は動きづらい。だから、お前と距離を置く」
「……そんなの嫌よ」
私はヴァルターの服をぎゅっと掴んだ。
「私は、あなたと一緒にいたいのに……」
「俺もだ」
ヴァルターはそっと私の頬を撫でた。
「だが、今は別れるべき時だ」
「嫌……」
「……愛してるよ、マリア」
そう言って、彼は優しく私に口づけた。
強く、でもどこか切なく、まるで永遠の別れを惜しむようなキスだった。
「……ヴァルター」
「しばらくの間だけだ」
彼はそう言って、私の額にそっと唇を落とす。
「これを持っていてくれ」
彼は手袋を外して私に渡すと、静かに楽屋を出て行った。
私は彼の背中を、ただ見送ることしかできなかった――。
「マリア様、ぜひこのバラの花をお受け取りください!」
「マリア嬢、私の家門に嫁いでくだされば、最高級のドレスをお仕立てしますよ!」
「マリア! 君こそ我が人生の輝き――!」
……やかましい!!
舞台が終わるたび、こんな風に貴族の男たちが花束を持って列をなすのだ。私は劇団の看板女優になったらしいが、その副作用として、『求婚者の群れ』という厄介な現象が発生してしまった。
「はあ……もう勘弁してよ」
楽屋に逃げ込んで、ぐったりと腰を下ろす。
「なによこれ。ヴァルターに見せつけてやりたいわね」
あの冷静沈着な宰相様が、私のモテっぷりを見たらどんな顔をするか、ちょっと興味がある。
……とか思ってたら。
「お前、本当に人気者だな」
――はっ!?
低く響く声にビクリとして振り向くと、そこにはヴァルターがいた。
いつもの黒の軍服姿で、腕を組んで壁にもたれ、冷ややかな瞳でこっちを見ている。
「えっ、ちょっ、待って、どうしてここに――!?」
「そろそろ様子を見に来ようと思ってな」
じり……と彼が一歩近づく。
「……劇場の前にあれだけ男どもが群がっているとはな。知らなかったぞ」
「……そ、それは、舞台の影響でちょっとだけ……」
「ちょっと、か?」
じり、じり……さらに近づく。
……やばい、めっちゃ不機嫌だコレ!!!
「ヴァルター、あのね、私が好きなのはあなただけよ? 変な誤解しないでね?」
「……本当か?」
ぐいっと腕を引かれ、ヴァルターの胸に引き寄せられる。
「お前は誰かの家門に入るつもりはないんだな?」
「ないわよ! 絶対ない! ヴァルター以外に興味ない!」
「……そうか」
ホッとしたのか、彼の表情が少し和らいだ……と思ったのも束の間。
「なら、王妃の企みも無駄になるな」
「え?」
「お前を貴族と結婚させ、宮廷に縛りつけようとしている。知っているだろう?」
「……まあね。けど、そんなの受けるわけないわ」
「王妃は簡単に諦めないぞ」
ヴァルターの腕が、ぎゅっと私を抱きしめた。
「マリア、お前を守るためには、しばらく会えなくなる」
「……え?」
彼の言葉の意味が、一瞬理解できなかった。
「ヴァルター、それどういう――」
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「そんな……」
「お前が王妃の目の届く場所にいる限り、俺は動きづらい。だから、お前と距離を置く」
「……そんなの嫌よ」
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ヴァルターはそっと私の頬を撫でた。
「だが、今は別れるべき時だ」
「嫌……」
「……愛してるよ、マリア」
そう言って、彼は優しく私に口づけた。
強く、でもどこか切なく、まるで永遠の別れを惜しむようなキスだった。
「……ヴァルター」
「しばらくの間だけだ」
彼はそう言って、私の額にそっと唇を落とす。
「これを持っていてくれ」
彼は手袋を外して私に渡すと、静かに楽屋を出て行った。
私は彼の背中を、ただ見送ることしかできなかった――。
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