【完結】薔薇の仮面 ~演劇大好き少女は公爵様に溺愛されて~

朝日みらい

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第13章 運命の決断

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ヴァルターは、じっと机上の地図を睨んでいた。  

「……そろそろ決起の時だ」  

彼は静かに呟くと、手元の短剣を指でなぞる。鋭く研がれた刃が、燭台の灯りを受けてきらりと光る。  

――で、私はその横で、腕を組んで彼を睨んでいた。  

「……ねえ、何か隠してるでしょ?」  

「……何のことだ?」  

目を逸らした。  

「ヴァルター?」  

もう一度呼ぶと、彼は一瞬だけ肩を揺らし、それからため息をついた。  

「……マリア、お前を国外に逃がす」  

「は?」  

え? 今なんて?  

「ここにいたら危険だ。宰相派が証拠を隠滅しようと本格的に動き出す。俺も戦う。その前に、お前を安全な場所に――」  

「はぁぁぁ!? ちょっと待って、それ誰が決めたの!?」  

机をドンッと叩くと、ヴァルターが一瞬ビクッとした。  

……って、あの冷徹宰相がビクつくって、どれだけ本気で私を追い出す気なのよ!!  

「決めたのは俺だ」  

「はぁ!? 何勝手に決めてんの!? それ、私の意見は!? ねえ、聞いてる!?」  

「お前の意見は関係ない」  

「めっちゃ関係あるわよ!!!」  

バンッ!!  

机を両手で叩いたら、ヴァルターが明らかに困った顔をした。  

「マリア、お前がここにいると、俺の足枷になる」  

「は?」  

「お前を守ることが、俺の判断を鈍らせるんだ」  

「……」  

ヴァルターは、少し俯きながら言葉を紡ぐ。  

「俺はこの国を守らなければならない。だが、お前がいると――どうしても、お前を優先してしまう」  

「……」  

「俺は、国のためならば冷酷になれると思っていた。だが、お前のこととなると――冷静でいられない」  

ヴァルターが、強く拳を握る。  

「……俺は、お前がいなくなればいいと思ったこともある」  

「……っ」  

「お前がいなければ、俺は迷わずに戦える。ためらいなく敵を討てる。……それなのに、こうして、お前を逃がす算段をしている」  

ヴァルターはゆっくりと顔を上げた。その瞳は、強い決意と、それ以上の苦悩で揺れている。  

「お前は、俺の弱点なんだ。だから……頼む、マリア。俺のために、ここを去ってくれ」  

……冗談じゃない。  

私は彼の前に一歩踏み出した。  

「ヴァルター」  

彼の名を呼ぶ。  

「……私は、あなたと共に生きたいの」  

「マリア……」  

「私を弱点だって? それなら、私はあなたの武器にもなるわよ!」  

ヴァルターが目を見開く。  

「私はここにいる。あなたのそばにいる。戦うなら、一緒に戦うわ」  

「だが――」  

「だが、じゃないの!!」  

ヴァルターの胸ぐらを掴んで、引き寄せる。  

「何度も言わせないでよね。私はあなたを愛してるの。あなたと一緒にいたいの!!」  

「……っ」  

ヴァルターは唇を噛みしめ、しばらく私を見つめていた。  

そして――  

「……お前という女は、本当に……」  

その腕が、私を強く抱きしめた。  

「俺は、お前のそういうところに惚れたんだ」  

ヴァルターは深く息を吐き、私の髪に顔を埋める。  

「……わかった。お前がそう言うなら、俺のそばにいろ」  

「ええ、もちろん」  

私はヴァルターの頬にそっと手を添え、微笑んだ。  

「私、あなたの弱点じゃなくて、あなたの味方だから」  

ヴァルターは困ったように笑い、それから――  

「……本当に、お前には勝てないな」  

そう呟いて、私の唇を塞いだ。
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