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第28章 共に歩む道
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「ヴァルター! ちょっと、そこの箱、運んで!」
「……これか?」
「違う! そっちは舞台装置! それ持ち上げたら崩れるわよ!」
「なに!? 早く言え!」
ドゴンッ!!!
舞台の端に積まれていた木箱が派手に崩れ、白い粉(たぶん大道具用の石膏)がヴァルターの頭から降り注ぐ。
「……マリア」
「……ぷっ」
「……笑ったな?」
「いや、違うの。ヴァルターがそんな真っ白になってるのが……ふふっ……可笑しくて……」
くっ……笑いが止まらない。
真面目な顔をしているのに、頭だけ粉まみれになっているヴァルターの姿がツボに入った。
「もう……劇団の仕事、慣れた?」
「……慣れるわけがないだろう」
ヴァルターは眉間に皺を寄せ、石膏を払いながらため息をついた。
「王国の運営よりも難しい」
「そりゃそうよ。劇団は、みんなが協力して動くものなんだから」
「協力、か……」
ヴァルターは私の言葉を噛み締めるように呟く。
そう。彼は、王として孤高に生きてきた。誰にも頼らず、ただ国を背負っていた人だ。
それが今、劇団の一員としてみんなと一緒に大道具を運んだり、衣装を縫ったり、セリフを覚えたりしている。
「……お前も、大変だったんだな」
「え?」
「一つの舞台を作るのに、こんなにも手間がかかるとは思わなかった。お前は、ずっとこれを続けてきたんだな」
ヴァルターの目が真剣で、私は思わず目を逸らした。
「……私は、好きでやってるから」
「それでも、簡単じゃない」
そう言って、ヴァルターは私の髪をそっと払う。
「粉がついてる」
「……ありがと」
――ずるい。
そうやって、さりげなく優しくされると、胸がギュッとなる。
彼は本当に、劇団に馴染もうとしていた。慣れない仕事に奮闘しながらも、いつも私のそばにいる。
最初は「王が劇団に?」と驚いていた団員たちも、次第に彼を受け入れ始めた。
「ヴァルター、台詞覚えた?」
「……ああ」
「本当に?」
「もちろんだ」
「じゃあ、やってみて」
ヴァルターは喉を鳴らし、一呼吸おいて台詞を口にした。
「マリア……俺は、お前を愛している」
「――ッ!!」
「……どうした?」
「ち、違う! その台詞、そんな真剣に言う場面じゃないの! これはコメディシーンなの!」
「……愛している、がコメディなのか?」
「演技のテンションが違うの! もっとこう、おどける感じで!」
ヴァルターは眉をひそめ、少し考え込んだ。
「なるほど……では、こうか?」
彼は急に私の手を取ると、目をキラキラさせながら、誇張した動きで言った。
「マリアァァ! 俺はお前を愛しているのだァァ!!」
「ブッ!!」
あまりの迫力と暑苦しさに、私は吹き出してしまった。
「ちょ、ちょっと、オーバーすぎる!」
「む……」
「でも、いい感じ! そのままやれば、お客さんも笑ってくれるわ」
「そうか……」
ヴァルターが演技を頑張る姿を見て、胸の奥がチクリと痛んだ。
こんなに不器用で、まっすぐで……バカみたいに私を追いかけてきて……。
「……なんで、そこまでして、ここにいるの?」
私がふと呟くと、ヴァルターは私をまっすぐに見つめた。
「お前がいるからだ」
「……」
「それ以外に理由がいるか?」
息が詰まる。
ずるい。
そんな顔しないでよ。
「……ヴァルター」
彼の名を呼ぶだけで、涙が溢れそうになる。
ずっと、ずっと気づかないふりをしてきた。
でも、もう認めざるを得ない。
私は――
ずっと、この人を愛していた。
彼の強さも、優しさも、愚直なほどの愛も。
私は、彼を愛している。
「……くそっ」
「……なんだ?」
「もう……諦める……」
「……何を?」
「もう、あなたを追い出せない」
ヴァルターは驚いたように目を見開き――
次の瞬間、私を強く抱きしめた。
「マリア……!」
「ちょ、ちょっと!? みんな見てる!!」
「関係ない」
「関係ある!!」
「俺にとっては、ない」
「いや、私にはあるの!!」
「……なら、今すぐここを抜け出すか?」
「はぁ!? どこに!?」
「俺の部屋」
「~~~~っ!!! バカ!!! 変態!!!」
「お前のことしか考えていない男の、どこが変態なんだ?」
「黙れえええええ!!!」
そんなやり取りをしながらも、私は彼の腕の中から逃げられなかった。
……いや、もう逃げなくていいのかもしれない。
ヴァルターと一緒なら、私はきっと、どこでだって輝ける。
彼となら、どんな舞台の上でも――
最高の人生が演じられる気がした。
「……これか?」
「違う! そっちは舞台装置! それ持ち上げたら崩れるわよ!」
「なに!? 早く言え!」
ドゴンッ!!!
舞台の端に積まれていた木箱が派手に崩れ、白い粉(たぶん大道具用の石膏)がヴァルターの頭から降り注ぐ。
「……マリア」
「……ぷっ」
「……笑ったな?」
「いや、違うの。ヴァルターがそんな真っ白になってるのが……ふふっ……可笑しくて……」
くっ……笑いが止まらない。
真面目な顔をしているのに、頭だけ粉まみれになっているヴァルターの姿がツボに入った。
「もう……劇団の仕事、慣れた?」
「……慣れるわけがないだろう」
ヴァルターは眉間に皺を寄せ、石膏を払いながらため息をついた。
「王国の運営よりも難しい」
「そりゃそうよ。劇団は、みんなが協力して動くものなんだから」
「協力、か……」
ヴァルターは私の言葉を噛み締めるように呟く。
そう。彼は、王として孤高に生きてきた。誰にも頼らず、ただ国を背負っていた人だ。
それが今、劇団の一員としてみんなと一緒に大道具を運んだり、衣装を縫ったり、セリフを覚えたりしている。
「……お前も、大変だったんだな」
「え?」
「一つの舞台を作るのに、こんなにも手間がかかるとは思わなかった。お前は、ずっとこれを続けてきたんだな」
ヴァルターの目が真剣で、私は思わず目を逸らした。
「……私は、好きでやってるから」
「それでも、簡単じゃない」
そう言って、ヴァルターは私の髪をそっと払う。
「粉がついてる」
「……ありがと」
――ずるい。
そうやって、さりげなく優しくされると、胸がギュッとなる。
彼は本当に、劇団に馴染もうとしていた。慣れない仕事に奮闘しながらも、いつも私のそばにいる。
最初は「王が劇団に?」と驚いていた団員たちも、次第に彼を受け入れ始めた。
「ヴァルター、台詞覚えた?」
「……ああ」
「本当に?」
「もちろんだ」
「じゃあ、やってみて」
ヴァルターは喉を鳴らし、一呼吸おいて台詞を口にした。
「マリア……俺は、お前を愛している」
「――ッ!!」
「……どうした?」
「ち、違う! その台詞、そんな真剣に言う場面じゃないの! これはコメディシーンなの!」
「……愛している、がコメディなのか?」
「演技のテンションが違うの! もっとこう、おどける感じで!」
ヴァルターは眉をひそめ、少し考え込んだ。
「なるほど……では、こうか?」
彼は急に私の手を取ると、目をキラキラさせながら、誇張した動きで言った。
「マリアァァ! 俺はお前を愛しているのだァァ!!」
「ブッ!!」
あまりの迫力と暑苦しさに、私は吹き出してしまった。
「ちょ、ちょっと、オーバーすぎる!」
「む……」
「でも、いい感じ! そのままやれば、お客さんも笑ってくれるわ」
「そうか……」
ヴァルターが演技を頑張る姿を見て、胸の奥がチクリと痛んだ。
こんなに不器用で、まっすぐで……バカみたいに私を追いかけてきて……。
「……なんで、そこまでして、ここにいるの?」
私がふと呟くと、ヴァルターは私をまっすぐに見つめた。
「お前がいるからだ」
「……」
「それ以外に理由がいるか?」
息が詰まる。
ずるい。
そんな顔しないでよ。
「……ヴァルター」
彼の名を呼ぶだけで、涙が溢れそうになる。
ずっと、ずっと気づかないふりをしてきた。
でも、もう認めざるを得ない。
私は――
ずっと、この人を愛していた。
彼の強さも、優しさも、愚直なほどの愛も。
私は、彼を愛している。
「……くそっ」
「……なんだ?」
「もう……諦める……」
「……何を?」
「もう、あなたを追い出せない」
ヴァルターは驚いたように目を見開き――
次の瞬間、私を強く抱きしめた。
「マリア……!」
「ちょ、ちょっと!? みんな見てる!!」
「関係ない」
「関係ある!!」
「俺にとっては、ない」
「いや、私にはあるの!!」
「……なら、今すぐここを抜け出すか?」
「はぁ!? どこに!?」
「俺の部屋」
「~~~~っ!!! バカ!!! 変態!!!」
「お前のことしか考えていない男の、どこが変態なんだ?」
「黙れえええええ!!!」
そんなやり取りをしながらも、私は彼の腕の中から逃げられなかった。
……いや、もう逃げなくていいのかもしれない。
ヴァルターと一緒なら、私はきっと、どこでだって輝ける。
彼となら、どんな舞台の上でも――
最高の人生が演じられる気がした。
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