【完結】薔薇の仮面 ~演劇大好き少女は公爵様に溺愛されて~

朝日みらい

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第29章 誓いの舞台

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ついに、この日が来た。  

私は楽屋の鏡の前に座りながら、ドレスの裾を直していた。胸の奥がざわついて、落ち着かない。いつもの公演と同じはずなのに、今日は特別な何かが起こりそうな予感がする。  

――まあ、それは単なる緊張かもしれないけど。  

「マリア、そろそろ準備できた?」  

楽屋の扉が開き、ヴァルターが顔を覗かせる。彼は相変わらず堂々とした立ち姿で、劇団の一員になってから随分と逞しくなった。もともと整った顔立ちをしていたけれど、最近はどこか色気まで漂っている気がする。  

……いや、ダメダメ、今は公演前!! 余計なこと考えない!!  

「ええ、もうすぐ行くわ」  

そう答えると、ヴァルターは私のそばに歩み寄り、じっと私を見つめた。  

「マリア」  

「な、なに?」  

「今日のお前……すごく綺麗だ」  

心臓がバクンッと跳ねた。  

「なっ……!? い、今さら何言ってるのよ!」  

「本当のことを言っただけだ」  

ヴァルターはさらりとした口調で言うと、私の手を取ってそっと口づけを落とした。  

「~~~っっ!!!」  

「緊張がほぐれるように、おまじないだ」  

「ちょっと!! そんなおまじない聞いたことないわよ!!!」  

顔が熱くなるのを感じつつ、ヴァルターを突き飛ばす。が、当の本人は全く動じず、むしろ微笑みさえ浮かべていた。  

「ふふ、お前は舞台に立つとき、いつも最高の輝きを放つ。だから今日も、堂々としていればいい」  

「……はぁ。もう、あんたって本当に……」  

結局、彼の言葉に心が落ち着くのだから悔しい。  

私は大きく深呼吸をして、舞台へと向かった。  

そして、幕が上がる――。

舞台の上では、いつもと同じように物語が紡がれていく。  

でも、私の視線はついヴァルターのいる場所を探してしまう。彼は舞台袖でじっとこちらを見つめていた。  

公演が進み、クライマックスへと突入する。  

会場は息を呑むような静寂に包まれ、私は最後の台詞を口にした。  

そして――  

大きな拍手が劇場を満たす。  

無事に終わった……。  

安堵のため息をつき、深く一礼をする。すると、突然ヴァルターが舞台の上に上がってきた。  

「……ヴァルター!? 何してるの!?」  

彼は劇団の仲間たちの前に立ち、そして深く息を吸い込んだ。  

「俺は――この女性を生涯愛し続けると、ここで誓う」  

……は?  

一瞬、劇場全体が静まり返る。  

観客も劇団員たちも、みんなヴァルターを凝視していた。  

私も……完全に固まってしまっていた。  

「ヴァルター……?」  

「お前がどんな道を選ぼうと、俺はお前と共に歩みたい。お前が望むなら、舞台の上でも、舞台の外でも、ずっとそばにいる」  

彼の瞳は真剣そのもので、微塵の迷いもなかった。  

もう、ダメだ。  

私は彼の胸に飛び込んでいた。  

「……もう離れない」  

ヴァルターの腕がしっかりと私を抱きしめる。  

私の心臓の鼓動が、彼の鼓動と重なる。  

会場が一瞬の沈黙の後、嵐のような拍手と歓声に包まれた。  

「キャーーーー!!!」  

「愛の劇場ばんざーーい!!!」  

「よっしゃ! 新しい演目決定!! “劇団マリアとヴァルターの愛の物語”!!」  

「待て待て、勝手に台本作るな!!!」  

「いいじゃない、最高にロマンチックだったもの!」  

「ヴァルター! マリアを泣かせたら許さないからな!」  

「当然だ」  

ヴァルターはきっぱりと答え、私の額に優しく口づけを落とした。  

「お、お客さんの前でそんな……!!」  

「関係ない。お前は俺のものだ」  

「なっ……!!」  

恥ずかしさで真っ赤になっている私を見て、ヴァルターは満足そうに微笑んだ。  

――この舞台の幕が下りても、私たちの物語は続いていく。
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