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プロローグ
第2回
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「元気ですよ」と、満子そっけない。
「会いたいですね」
「やめた方がいいですよ。あの子はもう…別人です」
清二の質問に間髪入れずにこたえると、立ち上がった。
「せっかく来たのですもの。ゆっくりしていきなさいね。よかったら今晩、映画でも見に行きましょう。月子さんが書いたベストセラー小説の映画化ですって。その後、夕食は久しぶりに、親子二人水入らずで…」
「会わせてください」
清二は、満子を食い入るように見上げた。
「あれで、あの子は両目両足の自由を失い、さらに記憶まで…」と満子はため息まじりに告げた後、
「お好きになさい。庭先にいます」と立ち去った。
清二は外廊下を進み、別棟に渡る。
そして裏庭に広がる、見事な桜並木の下に車椅子をひいている人影を見つけた。
縁側のサンダルを履いて、ふたりに近づく。
女中は一瞬、清二に不信の目を向けた。
けれども、すぐに以前の執事であることに気づいて、深々と頭を下げた。
「おまえ、どうかした?」と車椅子の陽子は、背中を向けたまま言った。
水色のワンピースに、つばつきの丸い帽子を深々とかぶっている。
「お嬢様、清二さんが来てくださったのですよ」
女中はちょっと涙声で言った。
「よかったら、二人だけで話をしたいんだけど。いいかな」
清二は女中を先に帰らせて、代わりに車椅子の取ってに手を掛けた。
「どなた様ですか?」
振り向きもせずに陽子は尋ねた。
「清二だよ。ずっと兄妹で過ごしたんだよ。忘れたのかい、陽子?」
「清二さん……」
陽子は至って冷静な口調である。
「他人から言われても、わたしはただ受け入れるしかありません。十年という間、わたしは暗闇のままです。生きているのが本当か、それとも嘘か幻か、わたしにはもう分別がつかなくて」
「嘘、幻…」
「会いたいですね」
「やめた方がいいですよ。あの子はもう…別人です」
清二の質問に間髪入れずにこたえると、立ち上がった。
「せっかく来たのですもの。ゆっくりしていきなさいね。よかったら今晩、映画でも見に行きましょう。月子さんが書いたベストセラー小説の映画化ですって。その後、夕食は久しぶりに、親子二人水入らずで…」
「会わせてください」
清二は、満子を食い入るように見上げた。
「あれで、あの子は両目両足の自由を失い、さらに記憶まで…」と満子はため息まじりに告げた後、
「お好きになさい。庭先にいます」と立ち去った。
清二は外廊下を進み、別棟に渡る。
そして裏庭に広がる、見事な桜並木の下に車椅子をひいている人影を見つけた。
縁側のサンダルを履いて、ふたりに近づく。
女中は一瞬、清二に不信の目を向けた。
けれども、すぐに以前の執事であることに気づいて、深々と頭を下げた。
「おまえ、どうかした?」と車椅子の陽子は、背中を向けたまま言った。
水色のワンピースに、つばつきの丸い帽子を深々とかぶっている。
「お嬢様、清二さんが来てくださったのですよ」
女中はちょっと涙声で言った。
「よかったら、二人だけで話をしたいんだけど。いいかな」
清二は女中を先に帰らせて、代わりに車椅子の取ってに手を掛けた。
「どなた様ですか?」
振り向きもせずに陽子は尋ねた。
「清二だよ。ずっと兄妹で過ごしたんだよ。忘れたのかい、陽子?」
「清二さん……」
陽子は至って冷静な口調である。
「他人から言われても、わたしはただ受け入れるしかありません。十年という間、わたしは暗闇のままです。生きているのが本当か、それとも嘘か幻か、わたしにはもう分別がつかなくて」
「嘘、幻…」
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