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運命のはじまり
第5回
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鳩里首相の銅像を4人の大学生たちが、木陰から覗いている。
顔に豚の覆面をかぶっている。
それを、豚人間だと彼らは自称している。
仲間内では、身元がバレないように、アルファベットで呼び合う。
「先生はほんとにやる気なのか」
豚人間Bがきいた。
「当たり前だろ、ちゃんと決行するにきまっているよ」
豚人間Nが言い放った。
「それにしても、Wちゃん、遅いな」と豚人間Aがぼやいた。
「Wちゃんは無理だろ」
豚人間Cが言った。
「どうしてだよ」
豚人間Bが尋ねる。
「入院してるから。先生の子どもがお腹に」
豚人間Nが言った。
「まさか」
豚人間Bが仮面越しに自分の口をふさいだ。
「待たせたね、諸君」
豚人間の覆面をした先生が、豚人間Sを連れてやってきた。
豚人間Sは手さげ袋から、小箱を取り出した。
ふたを外すと、目覚まし時計に、くねくねとしたコードが鉛色の塊に差し込まれている。
タイマーは、零時に合わせてある。
4人は、それを囲んで、しばらく指をくわえていた。
「S、お前天才だな」
「さすが、工学部のエリートだぜ」
と口々に賛美が飛ぶ。
「さて、そろそろ、」と、豚先生は腕時計を見た。
「実行する時がきたね」
豚人間に扮する学生たちは、緊張した面持ちで直立した。
「はい」
「これは卒業論文の代わりだ」
そう言うと、ロングコートからピストルを取り出した。
「卓上の理想などただのゴミにすぎない。我々は行動を起こす」
「はい」
「では、わたしが手本を見せるから。君たちは下がっていなさい」
豚先生は、小箱をわきに抱えると、銅像の脇に歩み寄った。
豚に仮装した学生たちの潜む木陰とは、反対側のベンチの後ろで、二人の警官は身を潜めた。
「あれは何でしょう?」
香西は、銅像に不審な影を目にした。
月明かりに照らされて、不気味な陰影を浮かべている。
ばれぬよう、林先輩も顎を持ち上げる。
「やつだ」
「止めに行きます」
「馬鹿、やめろ」
しかし、すでに香西は駆け出していた。
香西は銅像の足元に箱を置く、中年男の背中にけん銃を向けた。
「どうされました?」
豚先生は、おだやかな口調で立ち上がった。
香西は、小箱を見た。
「な、何を置いたんだ?」
その口調は、緊張でうわずっていた。
豚先生は、ポケットに手を突っ込んでピストルに触れながら、向きなおった。
どうせ、銃など撃ったことのない、新米警官だろうな。
そう思いながら、豚先生は首を傾げてみせた。
「無防備な一般市民を、射殺するおつもりですか」
「い、いや…」
香西の引き金にひっかけた、指先がゆるむ。
林先輩も、追いついた。
ハタと、男のコートの上着がわずかに膨らんでいることに気づいた。
「危ない!」
顔に豚の覆面をかぶっている。
それを、豚人間だと彼らは自称している。
仲間内では、身元がバレないように、アルファベットで呼び合う。
「先生はほんとにやる気なのか」
豚人間Bがきいた。
「当たり前だろ、ちゃんと決行するにきまっているよ」
豚人間Nが言い放った。
「それにしても、Wちゃん、遅いな」と豚人間Aがぼやいた。
「Wちゃんは無理だろ」
豚人間Cが言った。
「どうしてだよ」
豚人間Bが尋ねる。
「入院してるから。先生の子どもがお腹に」
豚人間Nが言った。
「まさか」
豚人間Bが仮面越しに自分の口をふさいだ。
「待たせたね、諸君」
豚人間の覆面をした先生が、豚人間Sを連れてやってきた。
豚人間Sは手さげ袋から、小箱を取り出した。
ふたを外すと、目覚まし時計に、くねくねとしたコードが鉛色の塊に差し込まれている。
タイマーは、零時に合わせてある。
4人は、それを囲んで、しばらく指をくわえていた。
「S、お前天才だな」
「さすが、工学部のエリートだぜ」
と口々に賛美が飛ぶ。
「さて、そろそろ、」と、豚先生は腕時計を見た。
「実行する時がきたね」
豚人間に扮する学生たちは、緊張した面持ちで直立した。
「はい」
「これは卒業論文の代わりだ」
そう言うと、ロングコートからピストルを取り出した。
「卓上の理想などただのゴミにすぎない。我々は行動を起こす」
「はい」
「では、わたしが手本を見せるから。君たちは下がっていなさい」
豚先生は、小箱をわきに抱えると、銅像の脇に歩み寄った。
豚に仮装した学生たちの潜む木陰とは、反対側のベンチの後ろで、二人の警官は身を潜めた。
「あれは何でしょう?」
香西は、銅像に不審な影を目にした。
月明かりに照らされて、不気味な陰影を浮かべている。
ばれぬよう、林先輩も顎を持ち上げる。
「やつだ」
「止めに行きます」
「馬鹿、やめろ」
しかし、すでに香西は駆け出していた。
香西は銅像の足元に箱を置く、中年男の背中にけん銃を向けた。
「どうされました?」
豚先生は、おだやかな口調で立ち上がった。
香西は、小箱を見た。
「な、何を置いたんだ?」
その口調は、緊張でうわずっていた。
豚先生は、ポケットに手を突っ込んでピストルに触れながら、向きなおった。
どうせ、銃など撃ったことのない、新米警官だろうな。
そう思いながら、豚先生は首を傾げてみせた。
「無防備な一般市民を、射殺するおつもりですか」
「い、いや…」
香西の引き金にひっかけた、指先がゆるむ。
林先輩も、追いついた。
ハタと、男のコートの上着がわずかに膨らんでいることに気づいた。
「危ない!」
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