満ち欠けのユートピア

朝日みらい

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運命のはじまり

第4回

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 すっかり夜も更けた。

 夜十一時すぎの夜道を、若いふたりの警官が自転車を走らせている。
 都心の高層ビルからは、まだ煌々と明りが漏れている。

「どうだい?すこしは慣れたかい?」

 林は尋ねた。30台前半。貫録のある、がっちりとした体型である。

「あ、いや、まだまだです」
と香西は首をしきりに振る。20代前半。長身だが、ひどく痩せている。ペダルをこぐ足もおぼつかない。

「幹部候補生なんだろ」

「は、はい。今は実習で」

「今夜、爆弾予告があるのを知ってるな」

 今朝、千代田区内八番署の玄関に、銅像の爆破予告の入った封書がおかえていた。
 深夜0時に、まつばら公園の、鳩里首相の銅像を爆破するという。

「はい」

「ほんとに爆破すると思うか」

「い、いやないでしょう…」

「どうしてだ」

「いや、だって、首相は良い方でしたよ」

「会ったことがあるのか?」

「子供の時でしたけどね。先週、うちの桜を見ましたよね。そこでお会いしたことがあって」

「そうだったな」
 林はふと、住まいの古ぼけたアパートの一室を思い出した。
 4歳の息子、清二は、隣人に預けている。
 また、死んだ妻の名前を呼んでいるんだろう。

「お前、何で警官になったんだ」

「ああ、それは」
と香西は照れ臭そうに鼻をひくひくさせる。

「特撮ヒーローに憧れてました。世界の平和を守りたんです」

「なるほど」

「むろん、親父は猛反発ですよ。でも、かまわないんです。正義のためなら、命なんて惜しくありませんから」

 公園の入り口にある駐輪場に、自転車を置いた。
時計は、40分を指している。
 林は、腰のけん銃をホルスターから取り出し、銃弾を確認した。
 一方、香西は銃に手を触れたままである。

「お前も確認しろ」

「は、はい」
 おぼつかない手つきでまねをする。

「お前、命が惜しくないといったな」

「はあ」

「それは、おおきな間違いだ。勇気と無鉄砲とは意味が違うぞ」

 そう言うと、先頭に立って、中央広場の銅像へと向かった。
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