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第五章

第33話

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 ヘルメテンス公爵のパーティーから、数日経った昼前のことである。

 事務所で、セリストが不器用そうに羊皮紙に羽根ペンを走らせていた。

 ペンより剣を振るう方が、よほど楽なのだが。

 そんなセリストの思いを察して、向かいの席の同僚ロビルが、ニヤついている。


 ふいに、ガヤガヤと、ざわめきがおきた。

 窓際の席の数人が一斉に起ち上がり、眼下を見下ろしている。

「おい、どうしたんだ?」

 中央の廊下側の机で、上司が咎めるような口調で言った。

「あの、正面玄関で、ヘルメテンス家の馬車から、黄色のドレス姿の貴婦人が降りられて、中に……」

「なんだと? 会う約束などしてないぞ」

 セリストは、妙な胸騒ぎがしてペンを止めた。

 羊皮紙に、黒インクの波紋が広がる。
 慌ててペン立てに置いた時、階段からも同じざわめきが起こり出した。

 コツコツという、令嬢がよく履く、妙に高いヒールつきの靴の音が石廊下に響いた。

 ドアがノックされ、
「お仕事中に、失礼いたします」
 黒服に蝶ネクタイの使用人が、半ば、困惑したように一礼した。

 すると、黄色のきらびやかなドレス姿のクララが、姿を現した。

「わたくし、ヘルメテンス公爵の娘、クラマリン・ヘルメテンスともうします。こちらにセリスト様はいらして?」

 セリストは、周りの視線を感じながら、そろそろと席を立った。

「はあ、わたしがセリストですが」

 クララは、晴れやかな笑顔を向けた。ゆっくりと、セリストに向かうと、スカートの端を持ち上げて深々とお辞儀をした。

「先日は色々と貴重なお話、ありがとう。あの、もしよかったら、わたしとこれからのお時間、お付き合いしてくれませんか。私、今日15の誕生日なんです」

「そうといっても……私には仕事がですね」

 クララの顔が曇った。

「もしや、だめだとおっしゃるの?」

 セリストが困惑したように上司の方を見ると、指先で「行ってこい」のサインがあった。
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