異世界で子育てはじめます。

夜涙時雨(ヨルシグレ)

文字の大きさ
7 / 43

7.無事に宿を確保!

しおりを挟む
 宿屋のドアを開けたと同時にドアベルがカランと音を立てる。
 その音を聞いた店員さんと思しき人が、両手いっぱいに料理を持ちながらこちらを振り向いたのが目に入った。

「いらっしゃいませ!すみませんが、少しお待ちくださーい!」

 店員さんは店内の喧騒に負けない位に声を張って、手に持っていた料理をそれぞれテーブルに運んでいる。
 どうやって乗せたんだ?って思うくらいにはたくさんの料理や飲み物を持っていた。
 手に持っていた料理や飲み物を運び終えると、店員さんはテーブルの合間を縫って近づいてきた。

「すみません、お待たせしました。1名様でよろしいでしょうか?」
「あ、はい。えっと……近くの果物屋さんからここの宿がおすすめと聞いて来たんですが……」
「ああ!きっとリンダさんですね!宿としてということは宿泊を希望ですか?」

 名前聞いてなかったけど、あの果物屋さんはリンダさんというのか。
 リンダさんからおすすめされたと話したからか、店員さんは嬉しそうな笑みを浮かべた。
 きっと仲が良いんだろうな。

「はい。できればしばらく泊めていただきたいのですが、お願いできますか?」
「大丈夫ですよ!何泊するかは決められてますか?後から宿泊日数を変更することもできますので、大体で良いので教えてください」
「では、とりあえず7日間でお願いします」
「かしこまりました」

 無事に宿泊先を決められたことに安心する。
 良かった。結構人が居たから部屋が空いているか心配だったけど、大丈夫みたいだ。これで野宿しなくて済む。

「リンダさんからこの宿について色々と聞いてるかもしれませんが、説明させていただきますね!ただ、ここだとたくさん人がいて集中できないと思うので、宿である2階に案内してから話しますね」

 確かにここで説明されても他のお客さんの声で店員さんの声が掻き消されてしまいそうだ。大声で説明してもらう訳にもいかないし。
 店員さんの後を付いて行くと、入口から左奥の方に階段があった。
 ここから2階に行けるみたいだ。
 店員さんについて階段を上っていく。2階に着くと1階の喧騒は嘘のように静まり返っていた。
 そんなに離れてないはずだけど、防音加工でもしてあるのかな?階段を上っている時は1階の音が普通に聞こえていたけど2階に着いたらピタリと音がしなくなったからもしかしたら魔法とかで防音しているのかもしれない。

「こちらが宿として使用していただける階になっています。宿泊の受付と勘定もこちらで行わせていただきますね」

 店員さんは階段を上った正面辺りのカウンターになっている部分を指した。
 店員さんはそのカウンターの裏に回ったので、俺はカウンターを挟んだ正面に立つ。

「では、改めて説明させていただきますね。ここは酔い潰れた龍の宿と言いまして、一応宿屋として私の両親と娘である私と妹の4人で経営してます。2階が宿泊できる場所で、1階の方はお昼から飲食店、夕方からは酒場となっています。1階の方はこちらに泊まっている方は勿論それ以外のお客さまも利用できますが、ここに宿泊されている方が1階で食事をされる際はお安くさせていただいております。朝食も前日に言っていただければ料金は頂くことになりますがこちらでご用意致しますので、ぜひご利用下さい。この街ではそれなりに人気ですので、味は保証しますよ!……それで、えーと……お客様は7日間の宿泊ご利用でしたね?」
「あ、はい。そうです」
「お名前を教えていただいてもよろしいですか?」
「ユヅルです」
「ユヅル様ですね。ありがとうございます!では、こちらのカードがお部屋の鍵になります。カードに描かれている絵と同じ絵が描かれているドアがお客様のお部屋になります。カードに描かれている絵とドアに描かれている絵を合わせることで鍵が開くようになっています。こちらに滞在中はご自身で保管していただいて、お帰りになる時に私共にお返し下さい。もしなくされた場合は別途料金を頂くことになってしまいますのでご注意下さい。……申し遅れましたが、私はアイラと言いますので、何かございましたら私か他の者でも良いですのでお声がけ下さい!説明は以上になりますが他に何かお聞きしたいことなどはありますか?」

 言葉はすごく丁寧で説明も分かりやすかったけど、説明の話し方を聞いてるとすごく明るい人なんだなと思った。
 赤茶色の髪の毛を後ろでひとつに結んでいて清潔そうな見た目だけど、ずっと笑顔を浮かべていて雰囲気も明るい感じだ。

「ありがとうございます。えっと、少し気になったんですがここって防音とかされてるんですか?」

 さっき気になったことを聞いてみる。

「階段と2階の間に魔道具で防音膜が張ってあるので、1階の音は聞こえないようになってます。夜は酒場としてお酒も提供しているので、どうしてもうるさくなってしまいますからね。ただお部屋ごとには防音はないので隣の部屋人の物音とかは聞こえてしまうと思います」
「そうなんですね。ありがとうございます」

 なるほど。魔道具なんてものもあるのか。
 普通に店で売ってたりするんだろうか?
 この世界に来てまだまともに買い物してないし、明日見てみるか。

「いえ……あ、後先程お伝えするのを忘れてしまったのですが、もし体を綺麗にしたい時は桶1杯分ではありますがお湯をお渡しできますので、お声がけ下さいね!」
「分かりました。必要な時は声をかけますね」
「はい。それと、料金なのですが1泊2000ガルになります。ユヅル様は7泊ですので、1万4000ガルになりますが、前金として事前にご利用の半分をお支払い頂くことになっております。すみませんが、7000ガルお支払いいただけますか?」
「分かりました。ちょっと待って下さい」

 カバンから7000ガルちょうど出し、アイラさんに手渡す。

「……はい、ちょうどお預かり致します。では、ユヅル様のお部屋は1番奥の部屋になりますので、ごゆっくりお休み下さい」
「ありがとうございます」

 前金を払い鍵を貰って、アイラさんに軽く礼をし、部屋へと向かう。
 1番奥まで行くと、ドアには渡された鍵と同じ花の絵が描かれていた。
 ここで間違いなさそうだ。
 説明された通りにドアの絵と鍵の絵を合わせる。すると、ガチャと鍵が開いた音がした。
 すごいな。これも魔法なのかな?まるで地球のカードキーみたいだな。
 鍵をカバンにしまい、ドアノブを捻ってドアを開けて中へと入る。
 部屋の中には1人でも余裕で寝られるサイズのベッドと窓の近くに木製のテーブルと椅子が1つずつ置いてあった。全体的に狭くも広くもなくって感じだ。
 日本のホテルのようにシャワーや浴槽はなかったが、入り口近くのドアを開けるとトイレはあった。すごく綺麗という訳ではないが、毎日きちんと清掃はしてるんだろうなっていう雰囲気はあった。部屋の中も埃が溜まっているような感じもないし。
 お風呂がないのは元日本人としては悲しいけど、きっと魔法でどうにかできるだろうし、大丈夫だろう。
 ある程度部屋の中を見た後、せっかくなので1階に行って夕食を食べようと思い、一旦部屋を後にした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...